【弁護士の攻撃的な懲戒申立・予告による懲戒事例】
1 弁護士の攻撃的な懲戒申立・予告による懲戒事例
2 離婚調停の相手方弁護士への懲戒申立による懲戒
3 鑑定をした医師への懲戒申立予告(事案)
4 鑑定をした医師への懲戒申立予告(懲戒判断)
5 管財人の弁護士への賠償請求による懲戒(概要)
1 弁護士の攻撃的な懲戒申立・予告による懲戒事例
弁護士は任務遂行のために関係者の法的責任を指摘し,これを追及することもあります。指摘や追及する責任の内容として行政処分などの行政責任もあります。典型例は弁護士や医師を対象とする懲戒請求です。
本記事では,行政責任やこれに準じる責任の追及が問題となったケースを紹介します。
2 離婚調停の相手方弁護士への懲戒申立による懲戒
対立する相手方代理人の弁護士を対象として,弁護士会に対して懲戒申立をしたことにより,懲戒申立をした弁護士が逆に懲戒処分を受けた事例です。
不当であるとされた(先行する)懲戒申立の理由として,離婚調停の中での発言を指摘・主張していました。しかし,その問題である発言の証拠が不十分でした。さらに弁護士会は,解決手段として懲戒請求を選ぶような程度の問題ではないということも指摘しています。程度によって懲戒請求自体が不当とする理由として,懲戒請求をすることによる対象弁護士の業務への重大な影響を指摘しています。
制度(規定)上は懲戒請求の要件はないのですが,実質的に不当な懲戒請求を禁じるものであるといえます。
<離婚調停の相手方弁護士への懲戒申立による懲戒>
あ 受任事件の業務遂行
夫Bと妻Cの離婚に関して
離婚調停においてCの代理人は(本件の懲戒請求者)D弁護士であった
調停の期日においてC側から調停委員に発言(甲)がなされた
弁護士Y(本件の被懲戒者)とA弁護士はBの代理人となり,Cに対する離婚訴訟を提起した
い 不当な懲戒申立
弁護士Yと弁護士Aは,Bの代理人として弁護士Dの懲戒請求をした
発言甲を非行事実として主張した
う 懲戒申立の不当性
弁護士Yは,懲戒請求を裏付ける証拠の収集を十分に行っていなかった
懲戒請求を手段として選ばなければならない程の問題ではなかった
懲戒請求をすることによってD弁護士の代理人活動に業務上重大な影響を与えることを容易に予測し得た
え 弁護士会の判断
弁護士Yの行為は弁護士としての品位を失うべき非行に該当する
戒告とする
東京弁護士会平成30年7月17日(処分が効力を生じた年月日)
※『自由と正義69巻11号』日本弁護士連合会2018年11月p96
3 鑑定をした医師への懲戒申立予告(事案)
弁護士が鑑定をした医師に対して懲戒申立や告訴を予告したケースを紹介します。
<鑑定をした医師への懲戒申立予告(事案)>
あ 受任
依頼者=交通事故の損害賠償請求訴訟の被告
弁護士Yは,依頼を受けた
い 主張内容
Y(被告)の主張は次の内容であった
『原告の精神障害は交通事故に起因するものではない』
う 鑑定実施
裁判所はA医師に精神鑑定を命じた
え 鑑定人への強硬な主張
Yは裁判所を通さずにA医師に対して上申書を提出した
上申書の内容=鑑定に関する種々の主張
鑑定実施後において
YはA医師に次の内容の書面を送付した
書面の内容=鑑定書の内容が不相当である
YはA医師に次の内容の書面を送付した
『対応如何では医師会に懲戒申立をすべく準備中である』
お 診断書作成
B医師が交通事故被害者の後遺障害診断書を作成した
か 診断書作成医師への強硬な主張
YはB医師に対し刑事告訴をほのめかし,次のような要求をした
き B医師への要求内容
Bが原告に対して訴訟を取り下げるように働きかけること
それが不可能ならBが裁判所に出頭する
そして後遺障害診断書の無効を宣言すること
4 鑑定をした医師への懲戒申立予告(懲戒判断)
前記事例についての弁護士会の判断です。
<鑑定をした医師への懲戒申立予告(懲戒判断)>
業務停止2か月とする
平成9年6月30日
※『自由と正義48巻8号』p175
5 管財人の弁護士への賠償請求による懲戒(概要)
保全管財人・更正管財人として裁判所から選任された弁護士について,債務者代理人弁護士が損害賠償請求訴訟を提起した事例があります。
損害賠償請求(訴訟の提起)をしたこと自体が懲戒事由となりました。このケースについては別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|弁護士の攻撃的な民事責任追及による懲戒事例