【無人設備の利用による契約成立の判断(無断駐車の違約金)】
1 無人の有料駐車場に関する裁判例(総論)
2 無人設備の利用による契約の成立の判断基準
3 無人の駐車場の運用状況
4 事案の概要と請求内容
5 裁判所の判断
6 判決の補足説明
1 無人の有料駐車場に関する裁判例(総論)
無人の設備で提供されるサービスや商品は世の中に非常に多く存在します。
その1つが無人の有料駐車場です。
無人なので『意思表示』のやりとりがなく,そのため通常,契約の締結(成立)がないと判断されます。
特に,違反に対する法的扱い,具体的には無断駐車によって生じる責任について法律的解釈が複雑になります。
本記事では,無人の駐車場における無断駐車の裁判例を紹介します。
2 無人設備の利用による契約の成立の判断基準
無人の設備の利用と契約成立との関係について,一般的な基準が示されています。
<無人設備の利用による契約の成立の判断基準>
あ 基本的事項
『い・う』の両方に該当する場合
→契約が成立したものと解釈する
い サービス提供と受領
無人の設備で利用者が,財orサービスの提供を受けた
う 契約を成立させる意思
『申込or承諾の意思表示』そのものはない
提供者と利用者の双方について
契約を成立させる意思を有する(と認められる)
※岐阜地裁平成21年10月21日
3 無人の駐車場の運用状況
次に,事案の内容について整理します。
最初に,現場,つまり駐車場の状況をまとめます。
<無人の駐車場の運用状況>
あ 駐車代金の精算方式
駐車場の利用者が精算機に千円札・硬貨を投入する
い 表示(掲示)内容
昼間 8:00~18:00 100円/40分
夜間 18:00~8:00 200円/40分
土日祝昼間 8:00~18:00 100円/30分
入庫時 フラップ板(ロック板)が下げっていることを確認の上,ゆっくり入庫してください。
出庫時 料金精算後,フラップ板が完全に下がったことを確認の上,5分以内に出庫願います。
不正行為又は利用方法・利用規約に違反した場合,駐車場利用者(所有者及び同乗者を含む。)は,(1)正規駐車料金,(2)損害賠償金(チェーン施錠,レッカー移動費用等実損諸費用)及び(3)違約金10万円を管理者に支払わなければなりません。
※岐阜地裁平成21年10月21日
4 事案の概要と請求内容
無断駐車の状況と駐車場オーナー側(管理者)の主張を整理します。
<事案の概要と請求内容>
あ 事案の概要
Aは自動車を駐車場に駐車した
その際Aは,自動車がフラップ板を踏みつけた状態で駐車した
その後Aは,駐車料金の支払いをしないまま出庫した
い 主張・請求の内容
駐車場の賃貸借契約が成立している
債務不履行に該当する
表示された内容の違約金を請求する
※この主張は結論として否定されている(後記※1)
※岐阜地裁平成21年10月21日
5 裁判所の判断
以上の事案や主張を前提にして,裁判所が示した判断をまとめます。
<裁判所の判断(※1)>
あ 判断材料
Aはフラップ板を踏みつけた状態で自動車を駐車した
駐車料金の支払いをしないまま出庫した
い 契約の成否
Aには駐車料金を支払う意思はまったくない
→契約を締結する意思はなかった
→契約は成立していない
う 結論
契約の債務不履行としての違約金請求は生じない
→請求を棄却した
※岐阜地裁平成21年10月21日
6 判決の補足説明
前記判決をまとめると,駐車した者は料金を支払うつもりはない,ということから,料金を支払わなくてよい,という判断です。
これだけを取り出すと無法者を助長するように聞こえます。違和感を覚えることでしょう。この点について補足して説明します。
<判決の補足説明>
あ 請求権の内容
原告の請求の内容が『賃貸借契約に基づく違約金』であった
→裁判所は純粋に『違約金請求権』を否定した
他の請求権については判断していない
→『不法行為による損害賠償請求権』を否定したわけではない
い 原告の請求の不備
『不法行為による損害賠償』を請求していたと仮定すると
→請求は認められたはずである
う 裁判所の不親切(弁論主義・処分権主義)
裁判所は中立の立場である(レフリーの役割)
→当事者の主張・請求だけについて判断する
有利になるようなヒントを出すことはできない
弁論主義・処分権主義と呼ばれる根本ルールである
真相としては,当事者(原告)の主張(請求)が不足していたということです。裁判所はレフリーのような中立の立場です。
そこで,ヒントを出して改善・改良を促すことはできないのです。