【隣地使用権における隣地権利者の承諾の要否】

1 隣地の権利者の承諾の要否(全体)
2 請求権説による承諾の要否
3 形成権説による承諾の要否
4 隣地権利者の承諾の要否と住居侵入罪の成否(参考)

1 隣地の権利者の承諾の要否(全体)

一定の状況があると隣地を使用することが認められます。
詳しくはこちら|隣地使用権の基本(規定・趣旨・法的性質・類似規定)
隣地を使用する際に,隣地の権利者の承諾が必要かどうかについて,複数の解釈があります。
まずは,承諾の要否の解釈の基本的部分をまとめます。

<隣地の権利者の承諾の要否(全体)>

あ 前提事情

隣地使用権の法的性質について
→2つの見解がある
詳しくはこちら|隣地使用権の基本(規定・趣旨・法的性質・類似規定)

い 承諾の要否の基本的事項

隣地を使用することについて
隣地の権利者の承諾が必要か不要か
→権利の性質の解釈によって結論が異なる

う 見解と結論の対応(概要)
権利の性質 承諾の要否
請求権説 承諾が必要(後記※1
形成権説 承諾は不要,通知のみで足りる(後記※2

このように承諾の要否は,隣地使用権の法的性質の解釈と関係しているのです。それぞれの見解の内容は以下,順に説明します。

2 請求権説による承諾の要否

隣地使用権に関する請求権説の立場を元にした,承諾の要否の見解をまとめます。

<請求権説による承諾の要否(※1)

あ 隣地使用に関する承諾の要否

隣地権利者の承諾が必要である
※民法414条2項
※東京地裁昭和60年10月30日
※我妻榮ほか『新訂物権法』岩波書店p286

い 裁判による代用

承諾が得られない場合
→承諾を求める訴訟の勝訴判決で代用できる
※民事執行法第174条

う 訴訟における工夫

隣人が執行妨害をする場合
→妨害禁止の請求も加えておくと良い
※藤田耕三ほか『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p502

え 見解についての評価

ア 権利の本質論 財産権保障の趣旨・所有権の本質にも合致する解釈である
※憲法第29条1項
※民法第206条、第207条
イ 個別的な判断・調整の可能性 『必要性の範囲』を裁判所が判断できる
隣地使用権と隣人の権利保護の調整を図ることができる
※能見善久ほか『論点体系判例民法2』第一法規出版p221

3 形成権説による承諾の要否

隣地使用権に関する形成権説の立場を元にした,承諾の要否の見解をまとめます。

<形成権説による承諾の要否(※2)

あ 承諾の要否

隣地の権利者の承諾は必要ではない
事前の『通知』が必要である
=一方的意思表示で使用可能である
隣地の権利者は受忍義務を負う

い 訴訟の利用

事前の通知後の隣地の使用について
隣地の権利者が妨害行為をした場合
→妨害の禁止を求める訴訟を提起する
※太田豊『相隣関係をめぐる紛争の際の保全処分』/西山俊彦ほか『実務法律体系8仮差押・仮処分』青林書院新社p356

4 隣地権利者の承諾の要否と住居侵入罪の成否(参考)

以上のような民法上の解釈が,住居侵入罪の成否という刑法上の判断にも影響します。
住居侵入罪は,人の看守する邸宅への立ち入り(侵入)でも成り立ちます。もちろん,権利者の承諾があるなど,正当な理由がある場合には成立しません。
詳しくはこちら|住居・建造物侵入罪|侵入の対象|屋根・屋上・ベランダ・バルコニー
ここで,隣地使用権の解釈のうち,請求権説を前提にすると,隣地を使用する(承諾以外の)要件が満たされているケースで,承諾なしで隣地に立ち入ると,正当な理由がないものとして,住居侵入罪が成立する可能性があるということになります。
しかし現実には承諾以外の要件(客観的な必要性)があって,最小限の立ち入りであれば正当な理由はあるという判断も十分あります。そうでないとしても検察官が起訴するという判断にはならない可能性の方が強いでしょう。
次に,形成権説を前提とすると,隣地を使用する(承諾以外の)要件が満たされているケースで,承諾なしで隣地に立ち入ったとしても,正当な理由があることになるので,住居侵入罪は成立しない方向性となります。
詳しくはこちら|住居・建造物侵入罪|侵入の対象|屋根・屋上・ベランダ・バルコニー
まとめると,承諾の要否の解釈住居侵入罪の成否に,理論的には影響するといえます。しかし現実的には違いはほとんどないといえるでしょう。

本記事では隣地使用権における隣地権利者の承諾の要否について説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることがあります。
実際に隣地の使用や立ち入りに関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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