【隣地使用に関する住家への立ち入り】
1 『住家』の規定の趣旨と解釈
2 承諾に変わる判決の可否の見解
3 住家の立ち入りに関する仮処分(概要)
1 『住家』の規定の趣旨と解釈
一定の事情がある場合,隣地を使用することが認められます。
詳しくはこちら|隣地使用権の基本(規定・趣旨・法的性質・類似規定)
その一環として『住家』への立ち入りも認められることがあります。
本記事では,住家への立ち入りに関して説明します。
まずは『住家』への立ち入りの規定と『住家』の解釈についてまとめます。
<『住家』立入の規定の趣旨と解釈>
あ 条文の規定
住家への立入りについて
現にその家屋に居住する隣人の承諾を要する
※民法第209条1項ただし書
い 『住家』の趣旨
『住家』を隣地使用権と区別した理由・趣旨
→平穏な生活やプライバシーの侵害に結び付く可能性が高い
う 『住家』の解釈
隣地ビルの屋上や非常階段について
→所有者or利用者の平穏な生活やプライバシーを害しない
→『住家』にはあたらない
※東京地裁平成11年1月28日
2 承諾に変わる判決の可否の見解
住家の居住者の承諾があれば,立入りができるのはある意味当然です。居住者が拒否した場合でも裁判所が強制することができるか,という発想があります。強制できるとプライバシーの保護が心配ですし,強制できないと権利として不十分です。このように見解は2つに分かれています。
<承諾に変わる判決の可否の見解>
あ 基本事項
隣家居住者の任意の承諾を得られない場合
勝訴判決をもって承諾に代えることはできるか
→肯定/否定の見解に分かれている(『い・う』)
い 否定説
隣家居住者の人格的利益の保護の必要がある
例;プライバシー
→承諾に変わる判決を求めることはできない
承諾の拒否が権利の濫用になることはあり得る
※我妻榮ほか『新訂物権法』岩波書店p286
※林良平ほか『注解判例民法1b物権法』青林書院p118
う 肯定説
住家の立ち入りに関して
幾つかの条件を判決に付することができる
→承諾に代わる判決を求めることはできる。
※野村好弘/川島武宣ほか『新版注釈民法(7)』有斐閣p331
3 住家の立ち入りに関する仮処分(概要)
早急な裁判所の判断を要する場合は,仮処分を利用するのが一般です。そこで,住家の立ち入りに関しても仮処分を利用する発想があります。
しかし,住家への立ち入りの仮処分の可否については,統一的な解釈がありません。大きく言えば否定的な方向性です。
これについては別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|隣地使用権の保全処分(仮処分)