【旅行業法の『報酬』(有償性)に関する解釈(旅行業法施行要領)】
1 運送・宿泊サービス手配の法規制(概要)
2 報酬(有償性)に関する解釈(全体)
3 通達による『報酬』の解釈
4 サービスと収入の『相当の関係』の例
5 サービス提供者の非営利性
6 利益と関係なく報酬として扱う不当な解釈(概要)
1 運送・宿泊サービス手配の法規制(概要)
旅行業法で,運送や宿泊サービスの手配をすることは規制されています。事業の規制ですから『報酬』を得るものだけが規制対象です。
本記事では,この『報酬』の解釈について説明します。
最初に,旅行業法の規制の概要をまとめておきます。
<運送・宿泊サービス手配の法規制(概要)>
あ 『旅行業』該当性
報酬を得て『運送or宿泊サービス』の『代理・媒介・取次』を行う事業
→『旅行業』に該当する
→観光庁の登録を要する
※旅行業法2条1項3号,4号,3条
い 違反への罰則
ア 構成要件
登録をせずに旅行業を行うこと
イ 罰則
法定刑=罰金100万円以下
※旅行業法29条1号
詳しくはこちら|旅行業法の基本(旅行業の定義・登録の要否)
以下,この中の『報酬』の解釈について説明します。
2 報酬(有償性)に関する解釈(全体)
報酬の解釈については,国交省の通達で示されています。この通達自体についてソースなどを紹介します。
<報酬(有償性)に関する解釈(全体)>
あ 基本的事項
『報酬』の解釈について
=有償性の判断基準
『旅行業法施行要領』という通達がある
それ以外に行政庁としての公式見解の資料はない
※平成29年1月国土交通省官公庁観光産業課ヒアリング
い 旅行業法施行要領のソース
国土交通省
通達
平成17年2月28日国総旅振386号
外部サイト|一般社団法人全国旅行業協会|旅行業法施行要領
3 通達による『報酬』の解釈
前記の通達の中の有償性,つまり『報酬』に関する解釈をまとめます。
<通達による『報酬』の解釈>
あ 解釈の対象
旅行業の定義における『報酬』の解釈
※旅行業法2条1項
い 経済的収入による認定
事業者が旅行業の対象サービスを行うことによって,経済的収入を得ていれば『報酬』となる
う 包括料金の扱い(※2)
包括料金で取引されるものについて
例;企画旅行
旅行者から収受した金銭は全て一旦事業者の収入として計上される
→『報酬』を得ているものと認める
え サービスと収入との対価関係
サービスと収入との間には直接的な対価関係がなくても
『相当の関係』(後記※1)がある場合
→『報酬』を得ていると認める
※旅行業法施行要領『第1−1−1)』
この中の包括料金の扱いは,過剰な適用につながるような記載内容です(後記)。
4 サービスと収入の『相当の関係』の例
前記の基準の中で『相当の関係』というものがあります。この内容をまとめます。
<サービスと収入の『相当の関係』の例(※1)>
あ 旅館からのキックバック
旅行者の依頼により無料で宿を手配した
→後にこれによる割戻しを旅館から受けている
い 他のサービスへの附随
旅行業以外のサービス事業を行う者について
例;留学あっせん事業
当該サービスの購入者に対して購入の見返りとして
無料で運送or宿泊のサービスを手配している
※旅行業法施行要領『第1−1−1)』
5 サービス提供者の非営利性
いろいろな非営利性をもつ団体があります。サービスの提供者が非営利的な団体である場合でも,前記通達では,有償性が否定されるわけではないと指摘されています。
<サービス提供者の非営利性>
あ 基本的事項
旅行業の対象サービスを実施する者について
非営利性の団体(『い』)であった場合でも
→旅行業の登録制の適用対象である
い 非営利制の団体の例
ア 国・地方公共団体イ 公的団体ウ 非営利団体 ※旅行業法施行要領『第1−1−2)』
6 利益と関係なく報酬として扱う不当な解釈(概要)
前記※2の包括料金の扱いは,実質的な事業者の利益とは関係なく,金銭を受領しさえすれば報酬に該当するように読めます。
実際に,このような解釈が前提となっているような国交省大臣のコメントや,実際に行政指導が行われたケースが多数ありました。
詳しくはこちら|NPOや自治体のツアーやバス手配は旅行業法違反の可能性あり(実例)
その後,平成29年7月に,国交省はこの過剰な規制の適用を解消する内容の通達を2つ出しました。
詳しくはこちら|ボランティアバスへの旅行業法の適用緩和(平成29年通達)
詳しくはこちら|子供向け自治体ツアーなどへの旅行業法の適用緩和(平成29年通達)
しかし,規制の対象外となるのは,限定された範囲だけです。
本記事で説明した旅行業法施行要領自体が廃止されたわけではありません。
本記事では,旅行業法における報酬に関する通達や解釈について説明しました。
実際のサービスについて報酬といえるかどうかは,多くの個別的事情を元に判断されます。
実際の問題に直面している方や,新規サービスを検討されている方は,本記事の内容だけで判断せず,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。