【民事再生|債権届がない債権の『劣後化』|計画期間満了後・減額・分割払い】
1 民事再生で債権届出がなされなかった債権は『劣後化』する
2 債権者に『帰責性』なし→劣後化にならない
3 債権届未了についての『債権者の帰責性』|具体例
4 債権者一覧表漏れ→債権者が届出をしなかった→『帰責性』あり,の方向性
1 民事再生で債権届出がなされなかった債権は『劣後化』する
(1)債権届出がなされなかった債権の扱い
小規模個人再生において,再生計画認可決定後に,『債権が発覚する』ということがあります。
つまり,債権届出がされなかった債権,という意味です。
この『後から発覚した債権』についての返済はルールがあります。
『劣後化(する)』と呼ばれる扱いです。
<民事再生|債権の『劣後化』>
あ 再生計画の期間中→弁済禁止
『再生計画で定められた弁済期間が満了するまでの間』は弁済が禁止される
※民事再生法232条3項
い 弁済金額・弁済方法(分割払い)
再生計画どおり(再生計画が適用される)
(2)再生計画の期間中|劣後債権は弁済禁止
通常は,再生計画として,3年や5年が『弁済期間』として認可されているはずです。
この期間内は,計画案どおりに『再生債権』について,分割返済が行なわれます。
債権届がなかった債権は『再生債権』ではありません。
この3年や5年という期間にわたって『返済されない』ということです。
(3)弁済金額・弁済方法|再生計画が適用される
『弁済期間』が終了した後に『劣後化債権』の弁済が始まります。
この弁済の内容は,認可された弁済計画と同一内容が適用されると解釈されています。
弁済の方法は『減額した金額』を『分割』で支払う,というものです。
弁済金額・弁済方法(分割払い)については,他の債権(再生債権)と同じ扱いです。
つまり,認可された再生計画の中で決まった『減免率』『弁済期間』がそのまま適用されます。
例えば,『80%ディスカウント・3年分割』が認可されたケースでは,その後発覚した債権(劣後化債権)も『80%ディスカウント・3年分割』となります。
なお,弁済計画の内容が適用されるので,利息は発生しない,ということになります。
2 債権者に『帰責性』なし→劣後化にならない
以上のとおり,債権の『劣後化』は,債権者にとって非常に不利な扱いとなります。
そこで条文上,例外的に『劣後化』が適用されない,ということもあります。
<劣後化が適用されない要件>
再生債権者がその責めに帰することができない事由により債権届出期間内に届出をすることができなかった場合
※民事再生法232条3項ただし書
『帰責性がない』ということの具体例は別に説明します(後記『3』)。
劣後化しない場合は,次のようになります。
<劣後化しない場合の事後的発覚債権弁済方法>
ディスカウント | →適用される |
分割 | →適用される(別の説もあり) |
支払スタート時期 | →再生計画案と同じ(他の債権と並行して返済する) |
他の債権(再生債権)よりも劣後にならない=同等に扱われる,という意味です。
ディスカウントも分割も適用されるということです。
分割については適用されないという見解もありますが,有力ではありません。
3 債権届未了についての『債権者の帰責性』|具体例
債権届を出さなかったことについての『債権者の帰責性』の具体例をまとめます。
<債権者の『帰責性あり』となる例>
あ 複数の債権の一部の『漏れ』
債権者が債権を複数持っていて,一部は届出書に記載したけど,一部記載漏れがあった
い 法人・個人の片方の『漏れ』
法人の債権者に裁判所から通知がなされた
債権者一覧表には代表者個人の記載が漏れていた
→法人の債権届は出したけど,代表者個人としての債権届をしなかった
4 債権者一覧表漏れ→債権者が届出をしなかった→『帰責性』あり,の方向性
<事例>
民事再生手続きで,債権者Aが『債権者一覧』に載っていなかった
→裁判所からAに通知がなされなかった
→Aは債権届をしなかった
まず,債権者としては,通知が来ないので,民事再生の手続きが行われていることを知らなかったとも考えられます。
一方で,民事再生手続の開始決定は通知だけではなく,官報で公告がなされています。
とは言っても,一般の方は,官報の民事再生に関する情報を見ることは通常ないでしょう。
この点,金融機関は,一般的に,官報の破産・民事再生に関する情報はデータベース化しており,把握できていることもあります。
このように考えて行くと,金融機関であれば,仮に債権者一覧表から漏れていても,民事再生手続きを知っていた可能性が高いです。
この前提では,『債権届をしなかったこと』は『帰責性がある』という判断につながります。
現実的・実務的には,金融機関は,劣後化を受け入れ,後から請求する(分割返済を受ける),という運用をすることが多いです。
ただしこれはあくまでも現実的な対応です。
債権者によっては,劣後化しない,と主張してこの点を争うこともなくはありません。