【抵当権付不動産売買における買主と抵当権者の関係(基本)】

1 抵当権付不動産売買における買主と抵当権者の関係(基本)

通常、不動産を購入する際は既存の抵当権を抹消します。しかし抵当権が付いたままで購入するケースもあります。本記事では、このような売買において買主と抵当権者の間の問題について説明します。

2 抵当権付不動産の売買の後の抵当権実行リスク(前提)

まず、抵当権が付いていることによるリスクは、抵当権が実行されること、つまり、競売で売却される、ということです。せっかく購入して所有権を得ても、最終的に所有権を失う結果となるのです。

当権付不動産の売買の後の抵当権実行リスク(前提)

抵当権が付いたまま購入した場合
→抵当権が実行されるリスクがある
→競売で第三者に売却される
→買主は所有権を失うことになる

3 抵当権付不動産の売買における買主の対抵当権者対応

買主が抵当権者に対してどのような対応をとることができるか、ということを整理します。全体で3つの対応手段があります。

抵当権付不動産の売買|買主の対応方法

あ 弁済→抵当権消滅

『ア〜ウ』のいずれかの方法を取る
→抵当権を消滅させる
ア 代価弁済(後記※1イ 第三者弁済(後記※2ウ 抵当権消滅請求(後記※3

い 抵当権実行を止めない

抵当権が実行されることを前提とする
→一時的な期間だけ対象不動産を利用する

通常、このような対処を前提にして購入するのです。

4 代価弁済

(1)代価弁済の基本

代価弁済の制度を簡単に説明します。
代価弁済とは、抵当権付不動産の買主が、売買代金を売主に支払わず、代わりに抵当権者に支払うというものです。売買代金(支払金額)が抵当権者の債権額に満たない場合でも抵当権は消滅します。

代価弁済の基本(※1)

あ 合意

抵当権付不動産(担保不動産)の売買契約が締結された
代金の支払前に、抵当権者が買主に対して代価(売買代金)の弁済を要求した
買主が承諾した
買主が代価を(売主ではなく)抵当権者に支払った

い 抵当権消滅

代価弁済をした場合、抵当権は消滅する

(2)代価弁済の条文(民法378条)

代価弁済の条文を確認しておきます。抵当権者の請求と、これに買主が応じることで成立します。どちらか一方でも同意しなければ成立しません。

代価弁済の条文(民法378条)

(代価弁済)
第三百七十八条 抵当不動産について所有権又は地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は、その第三者のために消滅する。
※民法378条

(3)代価弁済の機能と特徴(偶然性)

代価弁済が実際に成立することはレアです。というのはまず、売買契約の締結後、代金(残金)決済までの間だけしか抵当権者が請求することができません。また、抵当権者が請求するだけでは成立せず、買主が承諾することも必須です。
ごく一般的な不動産の売買では、抵当権者(金融機関)としては、債務残額の全額が返済されない限り抵当権を消滅させない、というスタンスが通常です。代価弁済の請求をする、ということが通常は起きません。

代価弁済の機能と特徴(偶然性)

あ 抵当権者の立場での代価弁済の意義

抵当権者にとっては、この制度は、競売手続を回避して被担保債権の回収を図るために使われる。
すなわち、抵当不動産の第三取得者の売買代価が、抵当不動産の競売において予想される売買代金額と同等以上であるときは、抵当権者としても抵当権の実行を回避して、代価弁済の制度により被担保債権の回収を図る道を選択できることになる。

い 代価弁済の状況→オーバーローン

前述のように、代価弁済が行われるのは、通常、不動産の時価より被担保債権額の方が上回っているときであり、かかる場合、普通は、抵当権者は抵当不動産の値上がりを待って抵当権を実行するのであるが、抵当権者が、競売代価は一般に時価(市場の取引価額)より低く、また当該抵当不動産の近い将来の値上がりも望めないと考えて、実際に行われた売買代価で満足しようとする場合に、代価弁済の制度が利用されるのである。
したがって、代価弁済の制度は、抵当権者の被担保債権回収方法の1つであるということができる。

う 代価弁済の特徴→偶然性

もっとも、代価弁済の方法は、抵当不動産につき第三取得者または地上権取得者が現れ、しかも第三取得者または地上権取得者が不動産または地上権の代価を抵当権設定者に支払う前に限り選択しうるものであり、かつ第三取得者または地上権取得者の承諾を必要とするものであるから、抵当権者にとっても偶然的な被担保債権回収方法であることはいうまでもない。
※生熊長幸稿/柚木馨ほか編『新版 注釈民法(9)改訂版』有斐閣2015年p200

5 第三者弁済

抵当権への対応の1つに第三者弁済があります。文字どおり第三者、つまり債務者以外の者が債務を弁済する、というものです。

第三者弁済(※2)

あ 基本

債務者以外の者が『債務者に代わって』弁済する
→債務は消滅する
→担保権も消滅する
※民法474条

い 金額=債務全額

第三者弁済は『本来の弁済』と同様である
→金額は債務全額となる

う 交渉・待機期間→不要

第三者弁済には次のようなメリットがある
ア 抵当権者との交渉は不要であるイ 一定の待機期間は生じない 比較;抵当権消滅請求の場合
→最大2か月の待機期間が必要となる
※民法474条2項
詳しくはこちら|抵当権消滅請求の基本(対象者・評価額の提示・抵当権者の対応)

6 抵当権消滅請求・滌除(概要)

抵当権への対応の1つに抵当権消滅請求があります(※3)
法改正の前は滌除(てきじょ)という制度でした。
買主のイニシアチブで抵当権を抹消するためのアクションです。
これらの制度はちょっと複雑なところがあります。
それぞれ別に説明しています。
詳しくはこちら|抵当権消滅請求の基本(対象者・評価額の提示・抵当権者の対応)
詳しくはこちら|滌除(平成15年改正民法施行前)の基本(第三取得者の主張・抵当権者の対応)

7 抵当権つき不動産の売買の担保責任(参考)

以上は、買主が抵当権者に対して行うアクションの説明でした。これとは別に、買主と売主の間で行うアクションもあります。担保責任というルールです。ただし、実際に抵当権つきのままで売買をする場合には、担保責任は適用しない、と決めておくことが多いです。
詳しくはこちら|抵当権や仮登記の負担つきの不動産売買(担保責任・支払拒絶権)

本記事では、抵当権(担保権)が設定されたままで不動産を購入(売買)することに関する法的問題・リスク説明しました。
実際には、個別的事情により、法的扱いや最適な対応方法が違ってきます。
実際に不動産の売買や抵当権(担保権)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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