【賃料増減額請求において考慮する各事情の内容】
1 近隣地域・類似地域などの賃料やその改定の程度・推移(1)
2 土地価格の推移(2)
3 賃料に占める純賃料の推移(3)
4 底地に対する利回りの推移(4)
5 公租公課の推移(5)
6 公租公課と地価の変動の不整合
7 契約の内容及び契約締結の経緯(7)
8 契約内容や締結経緯における特殊事情(概要)
9 契約上の経過期間(8)
10 賃料改定の経緯(9)
1 近隣地域・類似地域などの賃料やその改定の程度・推移(1)
不動産鑑定評価基準には継続賃料の改定に関する規定があります。
改定する賃料額の鑑定において考慮する事情が示されています。
詳しくはこちら|賃料増減額の判断において考慮する事情(基本)
本記事では,個々の考慮する事情のうち主要なものの内容についての説明を紹介します。
タイトルの最後の番号は不動産鑑定評価基準の規定におけるナンバリングに対応しています。
<近隣地域・類似地域などの賃料やその改定の程度・推移(1)>
あ 近隣の賃料の相互の影響
近隣や類似地域の賃料は相互に代替・競争の関係がある
→賃料の金額や推移が相互に影響する
※社団法人日本不動産鑑定協会『新 要説不動産鑑定評価基準 改訂版』住宅新報社2010年p309,310
い 賃料相場との乖離の考慮
約定賃料額と当時の近傍同種の建物の賃料相場との関係
=賃料相場とのかい離の有無・程度等など
→賃料増減額の当否・相当賃料額の算定で考慮する
※最高裁平成15年10月21日
2 土地価格の推移(2)
<土地価格の推移(2)>
地価の上昇こそ,賃料増額の決定的要因である
※幾代通ほか『新版 注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣p633
3 賃料に占める純賃料の推移(3)
<賃料に占める純賃料の推移(3)>
純賃料の推移・動向によって改定賃料を算定する
純賃料=実質賃料−必要諸経費
必要諸経費には公租公課や維持管理費がある
※社団法人日本不動産鑑定協会『新 要説不動産鑑定評価基準 改訂版』住宅新報社2010年p310
4 底地に対する利回りの推移(4)
<底地に対する利回りの推移(4)>
『ア』が『イ』に影響する
ア 近隣地域や類似地域などの不動産の適正な利回りイ 鑑定対象宅地の期待利回り
※社団法人日本不動産鑑定協会『新 要説不動産鑑定評価基準 改訂版』住宅新報社2010年p310
5 公租公課の推移(5)
<公租公課の推移(5)>
公租公課の増減は賃料改定の事由となり得る
内容=固定資産税,都市計画税,水利地益税など
賃料に占める公租公課の割合も改定賃料に影響する
※社団法人日本不動産鑑定協会『新 要説不動産鑑定評価基準 改訂版』住宅新報社2010年p310
※地方税法5条2項,4項
※幾代通ほか『新版 注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣p633
6 公租公課と地価の変動の不整合
前記の公租公課の推移に関しては裁判例の指摘もあります。
要するに,公租公課と地価の変動が逆方向となった特殊事情があったケースです。
例外的に,公租公課と賃料を連動させることは妥当ではないと判断されています。
<公租公課と地価の変動の不整合>
あ 公租公課の反映(前提)
賃料改定の相当性・相当賃料の算定について
公租公課は大きく反映される
詳しくはこちら|賃料増減額の判断において考慮する事情(基本)
い 事案
平成9年に地主が賃料の増額請求をした
当時,建物敷地(土地)の固定資産評価額は大きく高騰していた
う 裁判所の判断
現実の土地価格は上昇したと認められない
当時はバブル崩壊後であり,周辺の家賃相場は逆に下落が続いていた
→地代を増額すべき要因はない
※東京高判平成13年1月30日
7 契約の内容及び契約締結の経緯(7)
<契約の内容及び契約締結の経緯(7)>
賃貸借契約は個別性が強い
賃料も当事者間の個別的事情を反映して定まる
契約締結の経緯を把握し,賃料算定に反映させる必要がある
『実際支払賃料の改訂に当たって勘案することが必要である』
※社団法人日本不動産鑑定協会『新 要説不動産鑑定評価基準 改訂版』住宅新報社2010年p309
8 契約内容や締結経緯における特殊事情(概要)
契約内容と契約の締結経緯にはいろいろな個別的な事情があります。
特殊なものについては,改定賃料の判断に大きく影響します。
判例や裁判例において考慮事情として示されたものがあります。
別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|賃料増減額請求において考慮する特殊事情(特約の存在・改築不能)
9 契約上の経過期間(8)
<契約上の経過期間(8)>
契約後の経過期間が長いほど『ア・イ』の乖離が大きくなる
→改定の必要性も大きくなる
ア 宅地の経済価値に即応した適正な賃料イ 実際の賃料
※社団法人日本不動産鑑定協会『新 要説不動産鑑定評価基準 改訂版』住宅新報社2010年p309
10 賃料改定の経緯(9)
<賃料改定の経緯(9)>
賃貸借契約は一般に長期にわたる継続的な関係である
継続賃料は遅行性・保守性を有している
→宅地の経済価値に即応した適正な実質賃料から乖離する傾向がある
賃料改定は,当初に約定された賃料とその後の改定賃料の影響を受ける
※社団法人日本不動産鑑定協会『新 要説不動産鑑定評価基準 改訂版』住宅新報社2010年p309
本記事では,賃料増減額請求においてどのような事情が考慮されるのか,ということについて,実例を踏まえて説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に賃料増減額などの賃貸借契約に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。