【賃料を公租公課に連動させる特約の有効性判断】

1 公租公課連動特約の有効性判断基準(基本)
2 公租公課連動特約が無効となる条件
3 公租公課連動特約の裁判例(有効判断)
4 公租公課連動特約の裁判例(無効判断;概要)
5 公租公課3倍固定特約の裁判例(有効判断)
6 公租公課増価分上乗せ特約の裁判例(事案)
7 公租公課増価分上乗せ特約の裁判例(有効判断)

1 公租公課連動特約の有効性判断基準(基本)

賃料に関する特約は,状況によって無効(失効)となることがあります。
詳しくはこちら|賃料に関する特約の一般的な有効性判断基準(限定的有効説)
本記事では公租公課と賃料を連動させる特約についての有効性の判断について説明します。
まず,有効性判断基準の基本的部分をまとめます。

<公租公課連動特約の有効性判断基準(基本)>

あ 特約の内容(概要;※1)

土地の公租公課の変動の比率によって賃料を増額させる

い 有効性の判断基準

特約それ自体は無効ではない
後記※2のすべての事情に該当する場合
→特約は事情の変更により無効となる

う 賃料不減額の合意の理論の参照

『い』の判断基準について
賃料不減額の合意の有効性の解釈論の応用といえる
詳しくはこちら|賃料に関する特約の一般的な有効性判断基準(限定的有効説)
※『判例タイムズ403号』p120

2 公租公課連動特約が無効となる条件

公租公課と賃料が連動する特約が無効となる条件をまとめます。

<公租公課連動特約が無効となる条件(※2)

あ 基本的事項

公租公課連動特約(前記※1)について
『い〜え』のすべてに該当する場合
→無効となる

い 地価の高騰

土地の公課について
著しく急激かつ甚大な増額があった
地価の推移とかけ離れている

う 適正賃料額との乖離

特約どおりの基準によって算出した賃料額について
適正な賃料額をはるかに上廻る

え 不合理性

特約により算定した賃料について
→賃借人に支払わせるのが酷である
※借地法11条,12条1項
※札幌高裁昭和54年10月15日

3 公租公課連動特約の裁判例(有効判断)

公租公課と賃料を連動する特約の有効性が判断された裁判例を紹介します。
公租公課の上昇率が2年間で1.43倍となったケースで,土地価格も同様の上昇をしたと認定しました。
これを前提に,特約は有効であると判断しました。

<公租公課連動特約の裁判例(有効判断)>

あ 特約の内容

契約期間中に固定資産税等の増額が生じたときは,公課金増額の比率に準じ賃料を増額することができる

い 賃料の請求額

昭和35年5月建物所有目的の土地賃貸借契約締結
昭和42年3月以前 1か月9230円
昭和42年3月 1万1000円
昭和43年3月 1万3200円(1.43倍)
固定資産税などについて
2年間で1.43倍の上昇があった

う 土地の価格の上昇

昭和41年度から昭和44年度までの3年間について
土地の価格も相当の割合で上昇した

え 固定資産税/土地の価格の上昇の比較

固定資産税などの上昇は土地の価格の上昇と著しくかけ離れたものではない
→有効である
特約どおりの単純計算による地代の変更を認めた
※札幌高裁昭和54年10月15日;『判例タイムズ403号』p120

4 公租公課連動特約の裁判例(無効判断;概要)

約13年間で公租公課が21倍以上に上昇したため,予想外として特約を無効と判断した裁判例です。

<公租公課連動特約の裁判例(無効判断;概要)>

あ 自動改定特約の内容

賃料は,固定資産税及び都市計画税の総額の増減率と同じ率で増減額する

い 税額の推移
特約合意前 昭和31〜41年度 2.28倍の上昇
特約合意後 昭和41〜54年度 21.86倍の上昇
う 特約の有効性

特約合意当時,当事者は税額の高騰を予想できなかった
→自動改定条項は失効した
賃料減額請求権の行使として扱う
※名古屋地裁昭和58年3月14日
詳しくはこちら|賃料に関する特約と賃料増減額請求権の関係(排除の有無と影響)

5 公租公課3倍固定特約の裁判例(有効判断)

賃料を公租公課の3倍と固定する特約がありました。
公租公課と賃料が連動する状態でもあります。
裁判所は,この倍率が相当であるため,特約は有効であると判断しました。

<公租公課3倍固定特約の裁判例(有効判断)>

あ 特約の具体例

公租公課の3倍を賃料とする
内容=固定資産税・都市計画税

い 裁判所の判断

基準となる固定資産税について
一般的に地代算定における重要な要素である
3倍という倍率は一般的なものである
→特約は相当なものである
→有効である
※東京地裁平成6年11月28日
※東京地裁平成元年8月29日

6 公租公課増価分上乗せ特約の裁判例(事案)

一般的な公租公課と賃料の連動とは違う特約についての裁判例があります。
公租公課の増額分を従前の賃料に上乗せする,というタイプの特約です。
まずは事案の内容だけをまとめます。

<公租公課増価分上乗せ特約の裁判例(事案)>

あ 土地賃貸借契約の基本的内容

契約変更時期 昭和59年6月
目的 鉄筋9階建建物の所有
期間 30年
賃料 1か月34万4400円

い 賃料増額の特約

土地について,固定資産税・都市計画税が増額されたときは,当該年の4月1日から増額された金額を従来の賃料に加算した賃料を支払う

う 固定資産税の増額

昭和60年4月1日
固定資産税+都市計画税が増額された
年額79万4644円→141万0440円
=1か月あたり5万1316円の増価
※大阪地裁昭和62年4月16日

7 公租公課増価分上乗せ特約の裁判例(有効判断)

前記の事案について,裁判所は特約を有効と判断しました。
1年間の変化(上昇)が21.9%であり,これを相当であると評価したのです。

<公租公課増価分上乗せ特約の裁判例(有効判断)>

あ 特約の内容

土地について固定資産税・都市計画税が増額されたときは,この増額分を当然に賃料に加算する

い 裁判所の判断

ア 用いる判断基準 一般的な賃料改定特約の有効性判断基準
詳しくはこちら|賃料に関する特約の一般的な有効性判断基準(限定的有効説)
イ 基準の適用 『あ』の特約の内容について
税額(租税)は借地法12条1項本文の考慮要素に含まれている
1年間の変化が約21.9%にとどまる
経済的事情の変更の程度と著しく乖離するものとはいえない
不合理なものではない
→無効となる事情に該当しない
→特約は有効である
※大阪地裁昭和62年4月16日

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