【賃料を不動産の評価額に連動させる特約の有効性判断】

1 固定資産評価額連動特約の裁判例(無効判断)
2 評価額連動特約の裁判例(無効判断;概要)
3 路線価連動特約の裁判例(有効判断)
4 更地評価の算定基準の特約の判断(無効判断)

1 固定資産評価額連動特約の裁判例(無効判断)

賃料に関する特約は,状況によって無効(失効)となることがあります。
詳しくはこちら|賃料に関する特約の一般的な有効性判断基準(限定的有効説)
本記事では不動産の評価額と賃料を連動させる特約について,有効性を判断した判例・裁判例を紹介します。
まずは地価の『上昇率』が当初より4倍となったことにより特約の効力を認めなかった事例です。実質的に特約が無効となったのです。

<固定資産評価額連動特約の裁判例(無効判断)>

あ 特約の内容

固定資産評価額の改定があったとき
賃料は固定資産評価額の1.27%に自動的に改定される

い 固定資産評価額の変動

昭和37年3月 賃貸借契約の開始
昭和39年度 契約締結時の4.75倍
昭和45年度 契約締結時の8.72倍
年平均前年度対比上昇率 約30%
→この上昇率自体が契約締結時の約4倍である

う 裁判所の判断

固定資産評価額の上昇率について
→当事者は予見できなかった
→契約文言がすべて有効とはならない
鑑定結果などにより,総合的に各期の地代を算定した
総合算定方式の算定方法といえる
※札幌地裁昭和52年3月30日
※『判例タイムズ365号』p306

2 評価額連動特約の裁判例(無効判断;概要)

路線価やその他の指数と賃料を連動させる特約についての有効性判断です。
特約どおりの改定賃料を認めませんでした。実質的に特約が無効と判断されたといえます。

<評価額連動特約の裁判例(無効判断;概要)>

あ 賃料改定特約(概要)

ア 甲地 土地路線価の増減に応じて賃料も当然に増減する
イ 乙地 次のうち最も増加率の高いものに応じて賃料も当然に増減する
・固定資産税及び都市計画税
・固定資産評価額
・路線価

い 特約に基づく算定の内容

ア 甲地

昭和53〜61年 賃料増額率年平均10%
昭和61〜62年 賃料増額率年平均20%
昭和63年〜平成2年 前年比賃料増加率32.6〜99.9%

イ 乙地

昭和58〜62年 賃料増額率年平均10%
昭和63年〜平成2年 前年比賃料増加率33.3〜100%
う 特約の有効性

著しく地価が高騰している
→特約どおりの改定賃料の算定を行わない
→賃料減額請求の行使として扱う
※東京地裁平成3年3月29日
詳しくはこちら|賃料に関する特約と賃料増減額請求権の関係(排除の有無と影響)

3 路線価連動特約の裁判例(有効判断)

路線価と賃料を連動させる特約についての判断です。
路線価は更地評価の単価です。結局,土地の評価額の変動と賃料を連動させるものといえます。

<路線価連動特約の裁判例(有効判断)>

あ 特約の内容

土地の賃料は,土地の北側道路部分に設定される毎年の路線価の増減率に応じて毎年10月1日に当然に増減するものとする

い 裁判所の判断

特約は有効である
※神戸地裁平成元年12月26日

4 更地評価の算定基準の特約の判断(無効判断)

改定賃料の算出方法の中の一部として,固定資産評価額の4倍を更地価格とするという特約がありました。
その後,想定外の地価上昇があったことを理由に,特約は無効と判断されました。

<更地評価の算定基準の特約の判断(無効判断)>

あ 特約の内容

改定賃料の算出基準の1要素として
更地としての適正価額について
固定資産評価額の4倍とする

い 有効性判断基準

次の範囲内で有効といえる
『算出基準が,固定資産評価額と時価との間に当時存在した懸隔と著しく異ならない程度のものが保たれている』

う 裁判所の判断(結論)

土地の固定資産評価額が従前から約5.7倍になった
特約の有効な範囲(い)を逸脱する
→特約は無効である
※最高裁昭和44年9月25日

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