【改定(継続)賃料に関する不動産鑑定評価基準の規定内容】

1 継続賃料に関する不動産鑑定評価基準(総論)
2 継続賃料の価格形成要因
3 継続賃料の改定の基準(基本)
4 継続賃料の改定の基準(条件・目的変更)
5 賃料を求める場合の一般的留意事項
6 差額配分法
7 利回り法
8 スライド法
9 賃貸事例比較法
10 積算法(新規賃料)
11 不動産鑑定評価基準の情報ソース

1 継続賃料に関する不動産鑑定評価基準(総論)

賃料増減額請求がなされた場合には適正な賃料が算定されることになります。
当事者の協議でも,裁判所の判断でも,公的な基準に基づいた算定方法が活用されます。
公的な基準としては,裁判例や学説もありますが,代表的なものは不動産鑑定評価基準です。
本記事では,不動産鑑定評価基準の中の継続賃料に関する基準を紹介します。
関係する項目について,以下引用します。
不動産鑑定評価基準の情報のソースは最後にまとめてあります。

2 継続賃料の価格形成要因

<継続賃料の価格形成要因>

第2章 賃料に関する鑑定評価
第1節 宅地
II 継続賃料を求める場合
1.継続賃料の価格形成要因
継続賃料固有の価格形成要因は、直近合意時点から価格時点までの期間における要因が中心となるが、主なものを例示すれば、次のとおりである。
(1)近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における宅地の賃料又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃料の推移及びその改定の程度
(2)土地価格の推移
(3)公租公課の推移
(4)契約の内容及びそれに関する経緯
(5)賃貸人等又は賃借人等の近隣地域の発展に対する寄与度
※不動産鑑定評価基準p52(第2章第1節Ⅱ1)

3 継続賃料の改定の基準(基本)

<継続賃料の改定の基準(基本)>

2.継続中の宅地の賃貸借等の契約に基づく実際支払賃料を改定する場合
継続中の宅地の賃貸借等の契約に基づく実際支払賃料を改定する場合の鑑定評価額は、差額配分法による賃料、利回り法による賃料、スライド法による賃料及び比準賃料を関連づけて決定するものとする。
この場合においては、直近合意時点から価格時点までの期間を中心に、次に掲げる事項を総合的に勘案するものとする。
(1)近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における宅地の賃料又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃料、その改定の程度及びそれらの推移
(2)土地価格の推移
(3)賃料に占める純賃料の推移
(4)底地に対する利回りの推移
(5)公租公課の推移
(6)直近合意時点及び価格時点における新規賃料と現行賃料の乖離の程度
(7)契約の内容及びそれに関する経緯
(8)契約上の経過期間及び直近合意時点から価格時点までの経過期間
(9)賃料改定の経緯
なお、賃料の改定が契約期間の満了に伴う更新又は借地権の第三者への譲渡を契機とする場合において、更新料又は名義書替料が支払われるときは、これらの額を総合的に勘案して求めるものとする。
※不動産鑑定評価基準p52(第2章第1節Ⅱ2)

4 継続賃料の改定の基準(条件・目的変更)

<継続賃料の改定の基準(条件・目的変更)>

3.契約上の条件又は使用目的が変更されることに伴い賃料を改定する場合
契約上の条件又は使用目的が変更されることに伴い賃料を改定する場合の鑑定評価に当たっては、契約上の条件又は使用目的の変更に伴う宅地及び地上建物の経済価値の増分のうち適切な部分に即応する賃料を前記2.を想定した場合における賃料に加算して決定するものとする。この場合においては、前記2.に掲げる事項のほか、特に次に掲げる事項を総合的に勘案するものとする。
(1)賃貸借等の態様
(2)契約上の条件又は使用目的の変更内容
(3)条件変更承諾料又は増改築承諾料が支払われるときはこれらの額
※不動産鑑定評価基準p52,53(第2章第1節Ⅱ3)

5 賃料を求める場合の一般的留意事項

<賃料を求める場合の一般的留意事項>

第7章 鑑定評価の方式
第2節 賃料を求める鑑定評価の手法
不動産の賃料を求める鑑定評価の手法は、新規賃料にあっては積算法、賃貸事例比較法、収益分析法等があり、継続賃料にあっては差額配分法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法等がある。
I 賃料を求める場合の一般的留意事項
賃料の鑑定評価は、対象不動産について、賃料の算定の期間に対応して、実質賃料を求めることを原則とし、賃料の算定の期間及び支払いの時期に係る条件並びに権利金、敷金、保証金等の一時金の授受に関する条件が付されて支払賃料を求めることを依頼された場合には、実質賃料とともに、その一部である支払賃料を求めることができるものとする。
1.実質賃料と支払賃料
実質賃料とは、賃料の種類の如何を問わず賃貸人等に支払われる賃料の算定の期間に対応する適正なすべての経済的対価をいい、純賃料及び不動産の賃貸借等を継続するために通常必要とされる諸経費等(以下『必要諸経費等』という。)から成り立つものである。
支払賃料とは、各支払時期に支払われる賃料をいい、契約に当たって、権利金、敷金、保証金等の一時金が授受される場合においては、当該一時金の運用益及び償却額と併せて実質賃料を構成するものである。
なお、慣行上、建物及びその敷地の一部の賃貸借に当たって、水道光熱費、清掃・衛生費、冷暖房費等がいわゆる付加使用料、共益費等の名目で支払われる場合もあるが、これらのうちには実質的に賃料に相当する部分が含まれている場合があることに留意する必要がある。
2.支払賃料の求め方
契約に当たって一時金が授受される場合における支払賃料は、実質賃料から、当該一時金について賃料の前払的性格を有する一時金の運用益及び償却額並びに預り金的性格を有する一時金の運用益を控除して求めるものとする。
なお、賃料の前払的性格を有する一時金の運用益及び償却額については、対象不動産の賃貸借等の持続する期間の効用の変化等に着目し、実態に応じて適切に求めるものとする。
運用利回りは、賃貸借等の契約に当たって授受される一時金の性格、賃貸借等の契約内容並びに対象不動産の種類及び性格等の相違に応じて、当該不動産の期待利回り、不動産の取引利回り、長期預金の金利、国債及び公社債利回り、金融機関の貸出金利等を比較考量して決定するものとする。
3.賃料の算定の期間
鑑定評価によって求める賃料の算定の期間は、原則として、宅地並びに建物及びその敷地の賃料にあっては1月を単位とし、その他の土地にあっては1年を単位とするものとする。
4.継続賃料を求める場合
継続賃料の鑑定評価額は、現行賃料を前提として、契約当事者間で現行賃料を合意しそれを適用した時点(以下『直近合意時点』という。)以降において、公租公課、土地及び建物価格、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における賃料又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃料の変動等のほか、賃貸借等の契約の経緯、賃料改定の経緯及び契約内容を総合的に勘案し、契約当事者間の公平に留意の上決定するものである。
※不動産鑑定評価基準p31,32(第7章第2節Ⅰ)

6 差額配分法

<差額配分法>

III 継続賃料を求める鑑定評価の手法
1.差額配分法
(1)意義
差額配分法は、対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料又は支払賃 料と実際実質賃料又は実際支払賃料との間に発生している差額について、契約の内容、契約締結の経緯等を総合的に勘案して、当該差額のうち賃貸人等に帰属する部分を適切に判定して得た額を実際実質賃料又は実際支払賃料に加減して試算賃料を求める手法である。
(2)適用方法
1 対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料は、価格時点において想定される新規賃料であり、積算法、賃貸事例比較法等により求めるものとする。
対象不動産の経済価値に即応した適正な支払賃料は、契約に当たって一時金が授受されている場合については、実質賃料から権利金、敷金、保証金等の一時金の運用益及び償却額を控除することにより求めるものとする。
2 賃貸人等に帰属する部分については、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、一般的要因の分析及び地域要因の分析により差額発生の要因を広域的に分析し、さらに対象不動産について契約内容及び契約締結の経緯等に関する分析を行うことにより適切に判断するものとする。
※不動産鑑定評価基準p34(第7章第2節Ⅲ1)

7 利回り法

<利回り法>

2.利回り法
(1)意義
利回り法は、基礎価格に継続賃料利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法である。
(2)適用方法
1 基礎価格及び必要諸経費等の求め方については、積算法に準ずるものとする。
2 継続賃料利回りは、直近合意時点における基礎価格に対する純賃料の割合を踏まえ、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、期待利回り、契約締結時及びその後の各賃料改定時の利回り、基礎価格の変動の程度、近隣地域 若しくは同一需給圏内の類似地域等における対象不動産と類似の不動産の賃貸借等の事例又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸借等の事例における利回りを総合的に比較考量して求めるものとする。
※不動産鑑定評価基準p34,35(第7章第2節Ⅲ2)

8 スライド法

<スライド法>

3.スライド法
(1)意義
スライド法は、直近合意時点における純賃料に変動率を乗じて得た額に価格時点における必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法である。
なお、直近合意時点における実際実質賃料又は実際支払賃料に即応する適切な変動率が求められる場合には、当該変動率を乗じて得た額を試算賃料として直接求めることができるものとする。
(2)適用方法
1 変動率は、直近合意時点から価格時点までの間における経済情勢等の変化に即応する変動分を表すものであり、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、土地及び建物価格の変動、物価変動、所得水準の変動等を示す各種指数や整備された不動産インデックス等を総合的に勘案して求めるものとする。
2 必要諸経費等の求め方は、積算法に準ずるものとする。
※不動産鑑定評価基準p35(第7章第2節Ⅲ3)

9 賃貸事例比較法

<賃貸事例比較法>

4.賃貸事例比較法
賃貸事例比較法は、新規賃料に係る賃貸事例比較法に準じて試算賃料を求める手法である。
試算賃料を求めるに当たっては、継続賃料固有の価格形成要因の比較を適切に行うことに留意しなければならない。
※不動産鑑定評価基準p35(第7章第2節Ⅲ4)

10 積算法(新規賃料)

継続賃料の算定の中で,新規賃料における積算法という算定方法が使われます。
そこで,積算法の項目も関係するので紹介します。

<積算法(新規賃料)>

II 新規賃料を求める鑑定評価の手法
1.積算法
(1)意義
積算法は、対象不動産について、価格時点における基礎価格を求め、これに期待利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して対象不動産の試算賃料を求める手法である(この手法による試算賃料を積算賃料という。)。
積算法は、対象不動産の基礎価格、期待利回り及び必要諸経費等の把握を的確に行い得る場合に有効である。
(2)適用方法
1 基礎価格
基礎価格とは、積算賃料を求めるための基礎となる価格をいい、原価法及び取引事例比較法により求めるものとする。
2 期待利回り
期待利回りとは、賃貸借等に供する不動産を取得するために要した資本に相当する額に対して期待される純収益のその資本相当額に対する割合をいう。
期待利回りを求める方法については、収益還元法における還元利回りを求める方法に準ずるものとする。
この場合において、賃料の有する特性に留意すべきである。
3 必要諸経費等
不動産の賃貸借等に当たってその賃料に含まれる必要諸経費等としては、次のものがあげられる。
ア 減価償却費(償却前の純収益に対応する期待利回りを用いる場合には、計上しない。)
イ 維持管理費(維持費、管理費、修繕費等)
ウ 公租公課(固定資産税、都市計画税等)
エ 損害保険料(火災、機械、ボイラー等の各種保険)
オ 貸倒れ準備費
カ 空室等による損失相当額
※不動産鑑定評価基準p32,33(第7章第2節Ⅱ1)

11 不動産鑑定評価基準の情報ソース

以上の不動産鑑定評価基準の本体について情報のソースをまとめておきます。

<不動産鑑定評価基準の情報ソース>

あ タイトル・作成者

不動産鑑定評価基準
国土交通省
→本記事では単に『不動産鑑定評価基準』と呼ぶ

い 改正履歴

平成14年7月3日全部改正
平成19年4月2日一部改正
平成21年8月28日一部改正
平成26年5月1日一部改正

う 情報ソース

外部サイト|国土交通省|不動産鑑定評価基準

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