【差額配分法の配分率の基本(理論と代表的/マイナーな配分率)】
1 差額配分法の配分率の基本と理論
2 鑑定評価基準における配分率の記述
3 差額配分法の配分率決定の困難性と実務の傾向
4 配分率に関する理論の欠如
5 土地価格高騰時に配分率3分の1を採用した裁判例
6 マイナーな配分率
7 賃料不変更合意と差額配分法の適用事例
8 信頼関係破壊による配分率の決定
9 マイナス差額の扱い(概要)
1 差額配分法の配分率の基本と理論
賃料の増減額において,適正な賃料(継続賃料)を計算することになりますが,計算方法のひとつに,差額配分法があります。差額配分法では,現在の賃料と,適正な新規賃料に開きがあることを前提として,その中間のどこかを継続賃料(試算)とするものです。中間のどこを選ぶかについては,配分率を使った計算を行います。
詳しくはこちら|差額配分法の基本(考え方と算定式)
実際には,配分率としてどのような数値を使うか,ということについて対立が生じることがよくあります。本記事では,差額配分法における配分率について説明します。
2 鑑定評価基準における配分率の記述
配分率については,鑑定評価基準の中に説明があります。要するに,現在の賃料が適正な新規賃料と違った(開きが出た)要因がどこにあるかを突き止めて,その要因は賃貸人と賃借人のどちらの影響なのか,ということを数値化する,という意味のことが説明されています。
<鑑定評価基準における配分率の記述>
(差額配分法の配分率について)
賃貸人等に帰属する部分については,継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ,一般的要因の分析及び地域要因の分析により差額発生の要因を広域的に分析し,さらに対象不動産について契約内容及び契約締結の経緯等に関する分析を行うことにより適切に判断するものとする。
※不動産鑑定評価基準p34(第7章第2節Ⅲ1(2)2)
3 差額配分法の配分率決定の困難性と実務の傾向
前述のように,鑑定評価基準では,いろいろな賃料に関する細かい要因を分析して配分率を決めることになっています。しかし,実務ではそのような要因の分析は大胆に簡略化することがとても多いです。
どのくらい大雑把なのかというと,2分の1や3分の1という割合です。
<差額配分法の配分率決定の困難性と実務の傾向>
あ 配分率決定の困難性
適切な配分率の決定は困難である
他の方式を併用することが前提となる
理論的な合理性を欠いている(後記※1)
詳しくはこちら|差額配分法の不合理性と修正する方法
い 実務で採用する配分率の傾向
3分の1(3分の1法),2分の1(折半法),3分の2と割り切った率を採用する
2分の1が説得力の点でまさる
※江間博『新版 不動産鑑定評価の実践理論』株式会社プログレスp91
う 割り切った配分率の理由
ア 折半法
賃貸人,賃借人で均等に配分する
賃貸人:賃借人=1:1
→賃貸人帰属分=2分の1→差額のうち2分の1を加算する
イ 3分の1法
賃貸人,賃借人,社会一般で均等に配分する
賃貸人:賃借人:経済社会の一般的な成長=1:1:1
→賃貸人帰属分=3分の1→差額のうち3分の1を加算する
4 配分率に関する理論の欠如
もともと,差額配分法が登場した歴史を振り返ると,実は,計算結果が妥当な金額となるように逆算(調整)したという考え方が根底にあると指摘されています。正式な鑑定評価基準としては前述のように要因の分析がうたってありますが,実務では大雑把な割合が使われています。逆にいえば,実務で使う割合はしっかりした理論的な根拠があるわけではないともいえます。
<配分率に関する理論の欠如(※1)>
平成3年の座談会『継続家賃の鑑定評価』において
珍田龍哉不動産鑑定士
『昔のことを申しまして恐縮ですが,昔は積算法一本で出していまして,それが改定賃料になるべきであるということを言いますと,地価がうんとあがったのにそれだけを上げるのは無理だからせいぜい7掛けにしておけよということで鑑定評価書を書くという時代があったような気がします。2分の1法というのは差額が50%とすると75%法なんですね。3分の1法というのは,それでも手に負えない場合ということになってきているようです。』
※賃料評価実務研究会『賃料評価の理論と実務〜継続賃料評価の再構築〜』住宅新報社p73
5 土地価格高騰時に配分率3分の1を採用した裁判例
実際に差額配分法の配分率として使われる数値(割合)は,2分の1や3分の1という割り切ったものが多いです。最近では2分の1の方を選択する傾向があります。しかし,土地価格が高騰していた時代は,2分の1で賃料を計算すると高すぎるので,もっと抑えるために3分の1を使う傾向がありました。裁判例として現れているものを紹介します。
<土地価格高騰時に配分率3分の1を採用した裁判例>
あ 平成元年東京地裁
A鑑定は,・・・(合意賃料と正常賃料の差額について配分割合を3分の1として合意賃料に加算し・・・
・・・差額配分方式の最も典型的,標準的な賃料算出方法を示すもので,その手法は,・・・首肯するに足りるものということができる。
※東京地裁平成元年11月10日(建物賃貸借)
い 平成3年東京地裁
賃貸借期間中において土地価格が高騰していた
→差額配分法の配分率として3分の1を採用した
※東京地裁平成3年10月21日
う 平成4年東京地裁
・・・鑑定評価の方式として差額配分法とスライド法を併用し,差額配分法における正常賃料と合意実際賃料との差額の配分については,貸主にその3分の1を帰属させる三分法を基礎に市場性を考慮した修正を加え,最終的に貸主にその15分の4を帰属させるものとして,・・・試算し,・・・
右差額配分法による試算賃料とスライド法によるそれとをそれぞれ2対3の割合で加重平均した額である42万8000円をもつて適正賃料とするものである
・・・
右鑑定の結果が採用した方法,基礎数値は一応の合理性があり,信頼するに足りるものである。
※東京地裁平成4年2月6日(建物賃貸借)
6 マイナーな配分率
前述のように,配分率は実務上割り切った数値が使われる傾向が強いですが,本来は,いろんな要因を分析して定めるものです。具体的な計算の方法(考慮する要因)としていくつか指摘されているものがあります。
<マイナーな配分率>
あ 借地権/底地権割合を用いる見解
配分の根拠を経済的側面に求める
両当事者間の公平に求めるのではない
→借地権/底地権の割合を用いる
い 近隣借地の配分率を流用する見解
周辺地域における同種の賃貸借の賃料改定事例について
多数を収集し配分率を分析(算定)する
→これを流用する
現実的には情報の把握が困難である
※賃料評価実務研究会『賃料評価の理論と実務〜継続賃料評価の再構築〜』住宅新報社p77
7 賃料不変更合意と差額配分法の適用事例
個別的な特殊事情があったため,複数の配分率を使って複数の試算賃料を算出した事例もあります。
<賃料不変更合意と差額配分法の適用事例>
あ 鑑定の種類
地方裁判所からの継続賃料の鑑定評価
い 賃貸借契約の特約
平成7年の大震災に際して
賃料を変更しない合意(特約)がなされていた
う 差額配分法の試算の内容
次の両方の試算を用いた
その後に他の試算も含めて調整を行った
ア 3分の1法
賃料を変更しない合意を理由に3分の1法を用いた
賃料差額を貸主と借主で1:2に配分した
=貸主が負担する賃料減額分を賃料差額の3分の1とした
イ 2分の1法
貸主と借主とを平等に取り扱う
=1:2で配分する
※賃料評価実務研究会『賃料評価の理論と実務〜継続賃料評価の再構築〜』住宅新報社p83
え 補足説明
賃料を変更しない合意は特殊な事情である
『ア・イ』はこの特殊事情による判断といえる
=いずれも原則的なケースで通常の扱いとはいえない
ア 差額配分法を試算の1つとして採用したイ 配分率は2分の1だけでなく3分の1も用いた
8 信頼関係破壊による配分率の決定
信頼関係破壊という特殊事情を配分率に反映させて,賃貸人帰属分を8割とした裁判例があります。
<信頼関係破壊による配分率の決定>
あ 事案
現行賃料が決定されたときから約13年が経過している
当事者間にあった特別の信頼関係が消滅していた
い 配分率
差額配分法の配分率について
→賃貸人帰属分を8割とした
(差額の8割を現行賃料に加算した)
※東京地裁平成6年2月7日/『判例時報1522号』
9 マイナス差額の扱い(概要)
ところで,差額配分法は,前述のように,地価や賃料が上がってゆく状況を前提として作られています。そこで,地価や賃料が下がってゆく状況では,そのまま使うことは本来想定されていません。このような場合には,差額配分法をどのように扱うか,ということについてはいろいろな見解があります。
<マイナス差額の扱い(概要)>
賃料差額がマイナスである場合
→扱いについては複数の見解がある
※賃料評価実務研究会『賃料評価の理論と実務〜継続賃料評価の再構築〜』住宅新報社p76
詳しくはこちら|差額配分法におけるマイナス差額の配分の肯定/否定説と配分率
本記事では,差額配分法の配分率について説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に賃料(地代や家賃)の増減額に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。