【差額配分法の不合理性と修正する方法】

1 差額配分法の不合理性(引用)
2 差額配分法の不合理性の実情と合理化
3 配分率の不合理性
4 差額配分法の不合理性と総合方式
5 地価急騰と差額配分法(概要)
6 マイナス差額の配分(概要)

1 差額配分法の不合理性(引用)

差額配分法による賃料試算の手法は本質的な理論を欠くという指摘がされています。まずは裁判例による指摘を紹介します。

<差額配分法の不合理性(引用)>

『差額配分法は,土地の市場価格が収益還元価格と乖離して変動していた過去の時代に,土地の市場価格を基礎にして算定される地代と実際支払い地代との差額を,賃貸人と賃借人間で配分するという思想で作られていた。
しかしそれがなにがゆえに正当なのかを検証することは極めて困難であった。
現在は,土地の市場価格のうち将来の値上がり期待部分が減少し,次第に収益還元価格に近づこうとしているのであって(略)差額配分法の存在意義を認めることは困難である。』
※東京高裁平成14年10月22日/『判例時報1800号』
詳しくはこちら|総合方式と賃料試算の4手法の合理性を否定した裁判例(平成14年東京高判)

2 差額配分法の不合理性の実情と合理化

差額配分法は本質的な理論的裏付けを持ちません。実際に用いている算定でも理論を離れて形式的な算定をしているという指摘があります。実務で用いる際には合理性を十分に確認する必要があります。

<差額配分法の不合理性の実情と合理化>

あ 不合理な鑑定の横行

『差額部分の配分割合を形式的に一定の実践手法で導き出し,契約当事者間の具体的事情に対する考察を欠いたものもある。
このような簡便な差額配分法は,(略)総合方式を具現する有用な内容を備えるとはいえない。』
※藤田耕三ほか『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p764

い 不合理性の回避

『そこで,裁判で争われるときには,配分の中身を証拠による事実認定を経た事実関係を基礎として,不動産鑑定が前提とした事情や各手法の判断過程の細部を検討して当該事件に対する鑑定としての合理性を判断した上で,具体的な当該契約の条項を解釈しながら相当賃料を確認することになろう。』
※藤田耕三ほか『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p764

3 配分率の不合理性

差額配分法では文字どおり『配分率』を用います。
配分率にはいくつかのバリエーションがあります。逆に,どの配分率を用いるかの判断については明確な理論はありません。理論的根拠も再現可能性も乏しいのです。

<配分率の不合理性>

あ 配分率の分類

折半法・底地割合配分法などがある

い 配分率の根拠

『あ』の配分率について
→根拠は十分明らかであるとはいえない
※藤田耕三ほか『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p763
※江間博『新版 不動産鑑定評価の実践理論』株式会社プログレスp91
詳しくはこちら|差額配分法の配分率の基本(理論と代表的/マイナーな配分率)

4 差額配分法の不合理性と総合方式

以上の説明のように,差額配分法は理論が欠如しています。
そこで,実際に用いる際には他の試算賃料と合わせて用いることになります。
これを総合方式と呼んでいます。

<差額配分法の不合理性と総合方式>

あ 過去の裁判例

差額配分法を単独では用いることは不適切である
他の算定方式による試算賃料額と併用する必要がある
=複数の試算賃料を比較考量して最終的な相当賃料額を決定する
詳しくはこちら|改定賃料算定の総合方式(一般的な比重配分の傾向や目安)
※東京高裁昭和51年5月27日
※名古屋高裁昭和51年12月14日
※名古屋高裁昭和52年6月30日
※東京高裁昭和53年6月28日
※東京地裁昭和56年3月27日
※東京高裁昭和58年5月16日
※東京高裁昭和61年6月25日

い 総合方式の公式化

現在の鑑定評価基準において
総合方式が採用されている
実質的に『あ』と同様の内容である
※不動産鑑定評価基準p52(第2章第1節Ⅱ2)
詳しくはこちら|改定(継続)賃料に関する不動産鑑定評価基準の規定内容

5 地価急騰と差額配分法(概要)

差額配分法の試算手法は,地価が上昇していることが想定されています。
しかし上昇のスピードが速いケースでは,より合理性を失います。

<地価急騰と差額配分法(概要)>

一時的な地価急騰が生じている場合
→差額配分法の試算賃料は重視しない
※東京地裁平成3年9月25日/『判例時報1427号』p103
詳しくはこちら|改定賃料算定の総合方式(一般的な比重配分の傾向や目安)

6 マイナス差額の配分(概要)

地価下落時には『マイナスの差額』が発生します。
差額配分法の試算手法では,マイナスの差額を借主と貸主で分配することになります。
マイナス差額を配分することはより強く,不合理性が表面化します。
そこで,マイナス差額の配分については否定的な見解が強いです。

<マイナス差額の配分(概要)>

マイナス差額の配分の理由が不明である
→マイナス差額は配分しない傾向が強い
※藤田耕三ほか『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p764
詳しくはこちら|差額配分法におけるマイナス差額の配分の肯定/否定説と配分率

本記事では,継続賃料の算定で用いる差額配分法の不合理性と,修正する方法について説明しました。
実際には,個別的な事情によっては,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に地代や家賃など,賃貸借契約に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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