【利回り法における特殊事情の賃料額レベルでの反映(増改築拒否など)】
1 過去の経緯による60%の減額事例
2 従前地代などによる50%の減額事例
3 地主の改築拒否による50%の減額事例
4 地主の増築拒否による3分の2の減額事例
5 改築不能による増額否定事例(概要)
1 過去の経緯による60%の減額事例
利回り法は継続賃料算定手法の1つです。
利回り法による試算では,一定の修正を行うことがあります。
修正する方法はいくつかあります。
詳しくはこちら|利回り法の試算の修正方法の種類全体
本記事では,利回り法をベースにして,特殊事情を賃料額のレベルで反映した実例を紹介します。
まずは,賃貸借における過去の経緯から60%が減額された裁判例です。
<過去の経緯による60%の減額事例>
あ 試算賃料の算定
底地価格に一般的期待利回りを乗じた
期待利回り=年6%
これを元にして試算賃料を算定した
い 増額修正要素
明治初期から始まり,100年以上継続している
→地主にとっては賃貸借が投資的性格を持っている
現行賃料は固定資産税を若干上回る程度である
=低額に抑えられている
今後も地価上昇が見込まれる
う 減額修正要素
土地は当初,医業経営の場所として利用されていた
現在は専ら居住の用に供されている
地価上昇の利益を所有者にのみ享受させることは妥当でない
一挙に大巾な賃料の増額をすることは好ましくない
え 総合判断
『い・う』の事情を考慮して
純賃料の60%を減額した
この結果に必要諸経費などを加算した
→相当賃料とした
※仙台高裁昭和50年7月3日
2 従前地代などによる50%の減額事例
積算賃料をベースにしつつ,従前の地代の反映として50%の減額をした裁判例です。
<従前地代などによる50%の減額事例>
利回り方式から積算賃料(新規賃料)を算出した
従前地代その他の事情を考慮して
積算賃料の50%を相当賃料と判断した
※東京高裁昭和43年2月29日
※大阪地裁昭和43年3月25日;同様の内容
3 地主の改築拒否による50%の減額事例
地主が借地人の改築の承諾の要請を拒否したことにより,賃料額に50%の減額をした裁判例です。
<地主の改築拒否による50%の減額事例>
あ 事案
対象借地の周囲はほとんど堅固建物である
借地上の建物は木造である
地主の反対のために改築できないためである
い 裁判所の判断
利回り法に基づく賃料額について
→50%を減額した
※大阪地裁昭和40年7月13日
4 地主の増築拒否による3分の2の減額事例
地主の増築拒否が試算賃料の3分の2の減額として反映された裁判例です。
場所が商業地域であったことでより減額の幅が大きくなったといえます。
<地主の増築拒否による3分の2の減額事例>
あ 事案
借地は市街地の商業地域内に所在している
借地上の建物は木造トタン葺の平家建建物である
賃貸借契約には増改築禁止の特約があった
地主が増築を拒否している
い 裁判所の判断
借地人は借地の効率的利用ができない
衡平の見地から適正賃料の決定にあたってこれを考慮する
利回り法(積算法)による鑑定結果の賃料について
→約3分の2を減額した
=約3分の1まで減額した
※仙台高裁昭和51年2月4日
5 改築不能による増額否定事例(概要)
借地上の建物が改築不能であることを改定賃料の算定で考慮した事例もあります。
これについては,利回り法の試算に反映されたものではありません。
別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|賃料増減額請求において考慮する特殊事情(特約の存在・改築不能)