【スライド法の不合理性と修正方法や総合方式での比重】

1 利回り法とスライド法の関係性と比重(概要)

本記事では利回り法による試算方法自体の不合理性やこれを回避するための修正について説明します。
スライド法はもともと、過去、主流であった利回り法の代替的な位置付けで登場しています。
現代の相当賃料の算定(鑑定)でも、この経緯が反映されます。

利回り法とスライド法の関係性と比重(概要)

あ 経緯のまとめ(概要)

以前は利回り法による算定が合理的・主流であった
著しい地価高騰が生じた
→利回り法の結果が妥当性を失った
→代替的・補充的にスライド法が活用された

い 現在の鑑定への反映

地価高騰がなければ利回り法の妥当性が高い
→スライド法の比率を低くして利回り法の比重を高める
詳しくはこちら|スライド法と利回り法の関係(普及経緯)

2 スライド法の理論的な成立根拠

スライド法の試算が相当賃料を示すという根本的・構造的な理由をまとめます。

スライド法の理論的な成立根拠

あ スライド法の特徴

経済的な鑑定理論から逸脱している
現実の社会の紛争解決の要請によるものである

い 法律の規定における根拠

賃料増減額請求の規定において
賃料の変更の要因として
『その他の経済事情』が最後に規定されている
※借地借家法11条、32条
詳しくはこちら|借地・借家の賃料増減額請求の基本

う 実質的な理由・背景

賃貸借契約について
通常、長期の契約関係におかれる
→社会の変化・経済情勢の変化が想定される
事情変更の原則により賃料の変更を認める
※賃料評価実務研究会『賃料評価の理論と実務〜継続賃料評価の再構築〜』住宅新報社p94

賃料増減額請求の背景に事情変更の原則があることは、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|借地法・借家法の立法前の賃料増減額請求(慣習・事情変更の原則)

3 スライド法の理論の前提と不合理性

スライド法の試算が合理的となる前提は物価と賃料の変動が連動するということです。
逆に、この前提が成り立たないと当然、スライド法の試算は不合理となります。

スライド法の理論の前提と不合理性

あ スライド法の論拠の前提条件(※1)

継続賃料の変動の過程は、物価と基本的に同じである

い 前提の不成立

継続賃料の変動が物価水準と同一となる必然性はない
連動するわけではない
→『あ』の前提は成立しない

う 不合理性

スライド法による賃料算定について
適正な賃料が求められるという理論的な説明はない
経済事情の変動率をそのまま反映させることになる
→妥当ではない
→スライド法は合理性を欠く
※賃料評価実務研究会『賃料評価の理論と実務〜継続賃料評価の再構築〜』住宅新報社p95、103
※江間博『新版 不動産鑑定評価の実践理論』株式会社プログレスp97

4 スライド法の変動指標と不合理性

スライド法は経済指標(指数)を用います。
用いる指標が継続賃料を反映したものではないことによる不合理性が指摘されています。

スライド法の変動指標と不合理性

あ 適切な指標の欠如と経済指標の代用(※2)

継続賃料市場の変動を表す信頼性のある指標は存在しない
→消費者物価指数などの一般的な経済指標で代用することになる
詳しくはこちら|スライド法の試算における指数(指標)
→継続賃料市場との関連性が薄くなる
=継続賃料市場の実態や地域性を十分に反映できない

い 個別的事情の反映の欠如

一般的な経済指標を用いる
→個々の契約の個別的な事情が反映されない
(実質的な)利回りを固定すること自体が不合理である
※賃料評価実務研究会『賃料評価の理論と実務〜継続賃料評価の再構築〜』住宅新報社p103
※鈴木忠一ほか『実務民事訴訟講座4 不動産訴訟・手形金訴訟』日本評論社1969年p150

5 スライド法の機能と不合理性

スライド法の実質的な機能は貨幣価値の調整と位置付けることができます。
この位置付けを前提とすると、スライド法の試算は重視すると不合理となります。
反映する程度(比重)を小さくすることが合理的です。

スライド法の機能と不合理性

あ スライド法の機能の内容

スライド法の成立根拠について
→賃料の変動の過程をなぞることではない(前記※1)(前記※2
契約当事者の所得の再調整である
スライド法の本質は賃料水準における貨幣価値の調整である
※社団法人日本不動産鑑定協会調査研究委員会『論点整理 継続賃料評価手法を考えるために』p64;論点その1

い 不合理性

貨幣価値の調整であれば賃料算定における比重は小さくすべきである
※賃料評価実務研究会『賃料評価の理論と実務〜継続賃料評価の再構築〜』住宅新報社p95

6 スライド法の試算における修正の方法

以上の説明のように、スライド法の試算は不合理なところが多いです。
そこで、不合理性が表面化しないような修正が必要です。
修正の方法についてまとめます。

<スライド法の試算における修正の方法>

あ 不合理性の回避・修正(全体)

スライド法による改定賃料の算定について
→いろいろな不合理なところがある(前記)
不合理な結果の回避する方法として『い〜え』がある
『い』の方法が現在では一般的・対多数である
『う・え』は例外的な扱いである

い 総合方式

スライド法の試算賃料について
他の試算額との調整で考慮する
=総合方式においてスライド法の試算賃料の比重を小さくする
藤田耕三ほか『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p761〜763

う 変動率の修正

土地価格の客観的上昇率に対して
投機的要素を排除することにした
→変動率(騰貴率)の算定において修正を加えた
※大阪地裁昭和41年5月30日
※鈴木忠一ほか『実務民事訴訟講座4 不動産訴訟・手形金訴訟』日本評論社1969年p149

え 試算賃料の修正

スライド法に基づき賃料を算定した
この賃料額に別個独立の修正を加えた
※旭川地裁昭和40年3月23日
※福岡地裁昭和47年11月29日

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