【養子縁組の縁組意思の内容のまとめ(実質的意思の判断基準)】
1 縁組意思の内容の見解の種類
養子縁組に必要とされる意思(縁組意思)の内容は民法上規定されていません。
本記事では縁組意思の内容について説明します。
まず,3つの見解の種類を整理します。
縁組意思の内容の見解の種類(※1)
あ 実質的意思説
縁組意思は,社会風俗に照らして,親子と認められるような関係を創設しようとする意思である
判例は実質的意思説をとる(後記※2)
い 形式的意思説
縁組意思は,縁組の届出をする意思で足りる
う 法律的定型説
縁組意思は,民法上の養親子関係の定型に向けられた効果意思である
※中川高男『親族・相続法講義』ミネルヴァ書房1989年p230
※松本博之著『人事訴訟法 第3版』弘文堂2012年p411
2 実質的意思説を示す最高裁判例
判例は実質的意思説をとります。
当然,実務では実質的意思説を前提として具体的な手続や処理が行われています。
つまり,養子縁組の届出はあっても実質的意思がない場合は,養子縁組が無効となります。
実質的意思説を示す最高裁判例(※2)
あ 縁組意思の内容
当事者間に縁組をする意思がないときとは,・・・
当事者間に真に養親子関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指す
※民法802条1項
※最判昭和23年12月23日
い 縁組の有効性
養子縁組をした当事者に『あ』の内容の縁組意思がない場合
例=親子としての人間関係構築の意思がまったくない
→養子縁組は無効となる
※最判昭和23年12月23日
※大阪高裁平成21年5月15日など
3 親子関係を作る以外の目的と縁組意思
無効となる具体例は,財産承継などの目的のみであり,親子関係を作る意思がないというようなケースです。
親子関係を作る以外の目的と縁組意思(※3)
あ 他の目的と縁組の有効性
親子関係を作る以外のみが目的である場合
→縁組意思が欠ける
→養子縁組は無効である
い 他の目的の例
ア 財産の承継イ 遺留分割合に影響を及ぼすウ 節税
主な例=相続税軽減
エ 扶養請求権の発生
※最高裁昭和38年12月20日
※名古屋高裁平成22年4月15日など
4 養子縁組の複数の意図の併存の例
実際に縁組意思の有無で有効性を判断するのは簡単ではありません。
養子縁組の意図・動機・目的といった主観(気持ち)は多くのものが存在するからです。
1つの目的が大きくでも,他の意図や目的が否定されるわけではないのです。
養子縁組の複数の意図の併存の例
あ 他の目的と縁組意思の併存
親子関係を作る以外の目的(前記※3)がある場合でも
親子としての精神的つながりを作る意思がある場合
→縁組意思がある
=縁組は有効とすべきである
※最高裁平成29年1月31日
※最高裁昭和38年12月20日
※大阪高裁平成21年5月15日など
※島津一郎ほか『新・判例コンメンタール民法12相続(3)』三省堂2016年p252
い 他の目的の位置づけ
親子関係を作る以外の目的について
例=節税の意図
→養子縁組の『動機』に過ぎない
=縁組意思と併存する
※最高裁平成29年1月31日
詳しくはこちら|養子縁組の目的の実例と縁組意思(有効性)の判断(集約)
5 縁組意思の主要な判断要素
以上のように,縁組意思があったといえるかどうかは,目的によって判断されるといえます。しかし実際には,「目的」がどこかに明記されているわけではなく,最終的には具体的な状況から判断(評価)するしかありません。
どのような事情が判断材料となるのか,ということをまとめます。
たとえば,もともと両者がどのくらい親しかったのか,世話をする関係だったのか,親子関係を新たに作る必要があったのか,将来の相続などの経済面でどのような影響が生じるのか,経済的に影響を受ける者(取り分が減ることになる相続人)との間で養子縁組をすることについて話し合いがあったのか,などは,縁組の目的は何だったのかという判断に直結します。
縁組意思の主要な判断要素
あ 養親の能力・資産
養親となる者の能力の程度及び資産
い 両者間の従来の関係性
縁組当事者間の従来の生活関係
う 親子関係創設の必要性
縁組当事者間に親子の身分関係を創設しなければならない理由の有無
え 現実の世話の状況
現実に老人の面倒をみていた者はだれか
お 発生する経済的得失
養親となるものの推定相続人の間で縁組によりどのような経済的得失が生じるか
か 周囲の者の協議の有無
縁組に関する利害関係人の間で縁組に関し話し合いが持たれているか
き 異常・不自然な点の有無
縁組に関する手続の進行につき一般的な社会習俗からみて異常な点,不自然な点はないか
※平林慶一稿/『判例タイムズ762号臨時増刊 主要民事判例解説』p162〜
6 養子縁組の目的の実例と有効性判断(概要)
養子縁組の実質的意思の実際の判断は複雑です。
具体的な主張・立証の状況とこれに対する裁判官の評価で結果が決まります。
いろいろな事案とその評価については別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|養子縁組の目的の実例と縁組意思(有効性)の判断(集約)
7 成年養子の縁組意思の判断基準
以上のように,縁組意思の内容を実質的意思とする解釈は判例で統一されています。
しかし実際の事案での実質的意思の有無がハッキリと判定できないことも多いです。
この点,学説では,いろいろな裁判例を元にして判断基準を示しています。
養子が成年か未成年かによって分類した2つの基準を順に紹介します。
まずは成年養子のケースでの縁組石の判断基準です。
成年養子の縁組意思の判断基準
あ 成年養子の法的効果
成年者を養子とする養子縁組について
主要な効果は扶養義務と相続権の発生である
縁組の当事者はこれを意識している
養育目的は普通は考えられない
い 有効性判断基準
扶養or相続についての効果意思がある場合
→縁組を有効として扱う
※中川善之助ほか『新版 注釈民法(24)』有斐閣1994年p337
※我妻栄『法律学全集 親族法』有斐閣1961年p275
※島津一郎『家族法入門』有斐閣1964年p289
※山畠正男/谷口知平ほか『総合判例研究業書・民法(15)』有斐閣1960年
※石井忠雄/林良平ほか『注解判例民法4親族法・相続法』青林書院1992年p316
8 未成年養子の縁組意思の判断基準
未成年養子の縁組意思の判断基準です。
未成年養子の縁組意思の判断基準
あ 未成年養子の法的効果
未成年者を養子とする養子縁組について
法的効果は扶養義務・監護義務・相続権の発生である
監護義務は重要な効果である
い 有効性判断基準
相続についての効果意思だけでは不十分である
『ア・イ』のいずれかが必要であろう
ア 監護養育目的イ 『精神的なつながり』
※中川善之助ほか『新版 注釈民法(24)』有斐閣1994年p337
※深谷松男『新版現代家族法』青林書院1988年p120
9 婚姻・離婚の意思の解釈(参考)
以上は,養子縁組の意思の解釈でした。
これに似ている解釈論として,婚姻や離婚の意思の内容もあります。
婚姻・離婚の意思の解釈(参考)
→それぞれ違う解釈がある
詳しくはこちら|婚姻の実質的意思が婚姻届提出の時まで維持していないと無効になる
関連コンテンツ|離婚無効審判・訴訟|『無効』の離婚届受理の撤回→審判or訴訟が必要
本記事では,養子縁組の有効,無効を判断する際に使う,縁組意思の内容について説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に養子縁組に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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