【養子縁組の目的の実例と縁組意思(有効性)の判断(集約)】

1 養子縁組の目的の分類と有効性(総論)

養子縁組には『親子関係を作る意思』が必要とされます。
詳しくはこちら|養子縁組の縁組意思の内容のまとめ(実質的意思の判断基準)
実際の養子縁組では、養親・養子にはいろいろな目的や気持ちがあります。
相続による財産の承継や遺留分への影響や節税効果なども意識されることです。
本記事では、典型的な意図や目的を分類します。
それぞれの目的と有効性との関係について説明します。

2 相続や財産目的の縁組と縁組意思(概要)

相続における財産の承継を意識して養子縁組をするケースは多いです。
というより、養子縁組をする時に相続や財産のことを意識しない方が異常でしょう。相続や財産という目的の養子縁組の実例は多いです。
このようなケースにおける裁判所の縁組意思の判断は別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|相続や財産を目的とする縁組の縁組意思(有効性)の判断事例

3 節税意図と縁組意思(平成29年最高裁)

明確に節税目的で養子縁組をしたケースがあります。
平成29年の最高裁判例は、このことを理由にして縁組意思を否定することはできないと判断しました。

節税意図と縁組意思(平成29年最高裁)

あ 縁組と節税効果の関係

相続税の節税効果は相続税法の規定によって発生する
養子縁組の直接的な効果ではない
節税は養子縁組の動機である

い 節税と縁組意思の意図の関係

『ア・イ』は併存しうる
ア 相続税の節税の動機イ 縁組をする意思

う 節税意図と縁組の有効性

専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても
直ちに『縁組意思が欠ける』とは判断できない
※最高裁平成29年1月31日

養子縁組による節税の効果については、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|相続税の節税|相続人を増やす|養子縁組・2割加算・養子人数上限

4 性的関係(情交関係)・妾養子と縁組意思

養子縁組をした者同士の関係性にはいろいろなものがありますが、性的関係をもっていたケースもあります。性的関係があるということは、常識的にいえば親子というより夫婦です。そこで、(養)親子としてあるべき姿ではないから養子縁組は無効である、という考え方があります。
しかし、性的関係が一定の時期だけであったケースについて、判例は、夫婦同然ではないということで養子縁組を無効とはしませんでした。
いわゆる妾養子も一律に無効とはいえないのです。

性的関係(情交関係)・妾養子と縁組意思

あ 性的関係があっても無効としない見解

ア 昭和7年大判 情交関係(性的関係)のある者の間の縁組は必ずしも無効になるわけではない
※大判昭和7年2月12日
イ 昭和46年最判(概要) 情交関係は、偶発的に生じたものにすぎず、人目をはばかつた秘密の交渉の程度を出なかつたものであつて、事実上の夫婦然たる生活関係を形成したものではなかつた
→養子縁組を無効としなかった
※最判昭和46年10月22日
詳しくはこちら|相続や財産を目的とする縁組の縁組意思(有効性)の判断事例
ウ 妾養子の有効性 いわゆる妾養子も事情いかんにより有効になる
※『判例タイムズ270号』p227〜

い 性的関係により無効とする見解

性的関係の存在は一般習俗上の親子の観念と相容れないものであつて、社会的に親子関係と認められるような実体を創設する合理的意思すなわち「あるべき意思」を欠くものとして、縁組は無効である
※中川善之助『親族相続判例総評 第1巻』p147
※福地俊雄『身分行為と効果意思』/『中川善之助教授還暦記念 家族法大系1』p153

5 高齢の判断能力低下と縁組意思(無効判断)

相続に関する目的での養子縁組のケースです。
最終的に養子縁組の目的そのものは決定的な判断の根拠になりませんでした。
養親の判断能力の低下を理由として、養子縁組が無効と判断されました。

高齢の判断能力低下と縁組意思(無効判断)

あ 事案

養親となるAの子=推定相続人の兄弟間で感情的な対立が高まっていた
長男Bが、他の兄弟を相続において極力排除する意図を強く持っていた
長男Bは『その妻C・長男D・Dの妻E』の3人をAの養子とすることを計画した
実際にC・D・Eの3人とAとの養子縁組について同時に届出を行った
この当時、Aは高齢であり、判断能力が低下していた
B・C・D・Eは、他のAの推定相続人に養子縁組のことを隠していた

い 裁判所の判断

Aは、正常な意思能力がなかった
=養子縁組の趣旨・目的を正確に理解していなかった
→実質的な養子縁組の意思に欠けていた
→養子縁組は無効である
※東京高裁昭和57年2月22日

本記事では、養子縁組の目的の典型的なものや、その有効性について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に養子縁組に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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