【非弁護士の法律事務の取扱禁止(非弁行為)の基本(弁護士法72条)】
1 非弁護士の法律事務の取扱禁止(非弁行為の禁止)
2 非弁護士の法律事務の取扱禁止の条文規定(引用)
3 非弁護士の法律事務の取扱禁止の規定の整理(分解)
4 『法律事件・法律事務』の解釈(概要・※2・※3)
5 『周旋』の意味
6 『業とする』の意味(概要)
7 非弁護士の法律事務の取扱禁止の罰則
8 弁護士法72条違反行為の私法上の効力
9 業法違反と既存事業者の使命感の関係
10 違法な非弁護士の法律事務の実例(概要)
1 非弁護士の法律事務の取扱禁止(非弁行為の禁止)
弁護士以外による一定の法的サービスの提供は禁止されています。
俗にいう事件屋のような者が,弁護士が行うような交渉・裁判を引き受けて行うことを禁止するルールです。
非弁(行為)と呼ぶことも多いです。
非弁行為に関するルールの解釈は,複雑なものが多くあります。
本記事では,非弁行為の条文を中心に,解釈の基本的なものを説明します。
2 非弁護士の法律事務の取扱禁止の条文規定(引用)
まずは,非弁行為を禁止する条文の規定そのものを引用します。
<非弁護士の法律事務の取扱禁止の条文規定(引用)>
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
※弁護士法72条
この中に含まれるいくつかの用語について,複雑な解釈があります。
3 非弁護士の法律事務の取扱禁止の規定の整理(分解)
前記の条文そのものは1文がとても長く理解しにくいです。そこで,解釈に入る前に,条文の規定自体を分解して整理します。
<非弁護士の法律事務の取扱禁止の規定の整理(分解)>
あ 条文規定(基本;※1)
弁護士・弁護士法人でない者は
報酬を得る目的で
法律事件(後記※2)に関して
法律事務(後記※3)を取り扱うor周旋(後記※4)をすることを
業とすること(後記※5)
をしてはならない
い 適用除外
ただし,弁護士法or他の法律に別段の定めがある場合は禁止されない
※弁護士法72条
4 『法律事件・法律事務』の解釈(概要・※2・※3)
非弁行為の規定の中に『法律事件・法律事務』というものがあります(前記)。
『法律事件・法律事務』の意味(解釈)のヒントとして,条文の中に例示があります(前記)。
法律事件の例示は訴訟事件など,法律事務の例示は鑑定・代理などです。
それぞれの言葉の解釈は結構複雑です。
特に,禁止される行為が事件性があるものに限られるか,限られないかという解釈についてはいくつかの見解に分かれています。
いずれの解釈も,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|弁護士法72条の『法律事件』の解釈(事件性必要性と不要説)
詳しくはこちら|弁護士法72条の『法律事務』の解釈
5 『周旋』の意味
弁護士法72条で禁止される行為は法律事務を弁護士以外が行うことだけではありません。
弁護士に周旋(紹介)する行為も,(有償・業としてであれば)禁止されています。
ここで『周旋』とは紹介のようなものですが,詳しい解釈をまとめておきます。
<『周旋』の意味(※4)>
あ 基本的な解釈
弁護士法72条の『周旋』とは
依頼を受けて,訴訟事件などの当事者と鑑定,代理,仲裁,和解などをなす者との間に介在し,両者間における委任関係その他の関係成立のための便宜を図り,その成立を容易ならしめる行為をいう
※名古屋高裁金沢支部昭和34年2月19日
い 介入の程度
必ずしも委任などの関係成立の現場にあって直接関与介入することを要しない
例=電話連絡であってもよい
※大判昭和13年2月15日
う 弁護士への周旋
弁護士・弁護士法人に対して事件を周旋することも含まれる
※富山地裁高岡支部昭和33年2月18日
※日本弁護士連合会調査室編『条解弁護士法 第4版』弘文堂2007年p622
6 『業とする』の意味(概要)
非弁行為として禁止されるサービスは『業』として行うものに限定されます(前記)。
『業』の解釈についてはいろいろな見解があります。基本的で大雑把な意味だけを紹介しておきます。
<『業とする』の意味(概要・※5)>
『ア・イ』のいずれをも満たすこと
ア 行為が反復継続的に遂行されているイ 社会通念上『事業の遂行』とみることができる程度のものである
※吉国一郎『法令用語辞典第9次改訂版』学陽書房p165
詳しくはこちら|業法一般|『業』解釈論|基本|反復継続意思・事業規模・不特定多数
7 非弁護士の法律事務の取扱禁止の罰則
非弁行為の禁止に違反する行為には罰則が適用されます。
8 弁護士法72条違反行為の私法上の効力
非弁行為の禁止行為に対しては,前記の刑事罰が適用されるのとは別に,私法上の効力の問題もあります。
つまり,事件屋が代理した交渉がまとまり,相手方と合意書の調印が済んだというケースを考えます。
この合意(書)が無効となってしまうのかどうか,という解釈論です。
一般的には,無効とする見解が主流です。
もちろん,個別的事情によっては救済的に有効とすることもありえます。
<弁護士法72条違反行為の私法上の効力>
あ 判例の解釈
弁護士法72条に違反する行為について
公の秩序に違反する
→私法上の効果は生じない(無効である)
※最高裁昭和38年6月13日
※水戸地裁昭和33年10月12日
※福岡高裁昭和35年11月22日
※福岡高裁昭和37年10月17日
い 訴訟信託としての無効
債権を形式的に譲渡して訴訟などにより取り立てる依頼をしたケース
訴訟信託に該当する
→無効となる
※信託法11条
※水戸地裁昭和44年6月30日
う 例外的な救済措置
相手方の信頼を保護する必要がある
→信義則により無効主張が制限されることもある
※民法1条
※日本弁護士連合会調査室編『条解弁護士法 第4版』弘文堂2007年p631
なお,裁判が行われたケースでは訴訟行為の有効性が問題となります。これについてもいろいろな見解がありますが,ここでは割愛します。
9 業法違反と既存事業者の使命感の関係
以上のように,弁護士以外の者は一定の法的サービス提供を禁じられています。
結局,『弁護士の合法独占』となっているのです。
業法で競合を排除する,という意味では『ネオラッダイト』の一環とも言えます。
詳しくはこちら|マーケットの既得権者が全体最適妨害|元祖ラッダイト→ネオ・ラッダイト
そして,弁護士自身が『違法な非弁行為の批判』をするとポジショントークというニュアンスにもなります。
一方,違法な法的サービスが生じていることは,弁護士自身によるサービス提供が不十分であるということもできます。
<業法違反と既存事業者の使命感の関係>
あ 格言
違法業務を見て『社会のニーズ』(い)を知る
い 社会のニーズ
『ア〜ウ』は同じものである
ア 社会のニーズイ サービス提供の不足ウ 既存事業者の使命の不完全履行
10 違法な非弁護士の法律事務の実例(概要)
違法な非弁行為としては,いろいろな実例があります。
別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|違法な非弁護士の法律事務の実例(不動産編)
詳しくはこちら|違法な非弁護士の法律事務の実例(不動産以外編)