【広告モデルとサービスの規制における『有償』との関係】
1 広告モデルと『有償』の関係(総論)
2 オフライン広告による『無償』化モデル
3 オンライン広告による『無償』化モデル
4 広告料の法的な位置づけの考察
5 厳格解釈=適法方向
6 目的論的解釈=違法方向
1 広告モデルと『有償』の関係(総論)
シェアリングサービスは法規制の対象となるものが多いです。
原則的に『有償』でなければ法規制から外れます。
詳しくはこちら|シェアリングサービスの適法化=規制回避の方法(全体)
ところで,一般的な新規サービスの収益構造として広告モデルがあります。
ユーザーから料金をもらわず,広告料を収入源とするものです。
新規サービスの普及段階におけるフリーミアムという方式もこれに近いものです。
法規制との関係では,広告モデルは『有償』に該当せず,法規制の対象から外れるという発想もあります。
本記事ではこのような広告モデルと『有償』の関係について説明します。
2 オフライン広告による『無償』化モデル
広告を使ってサービスを無償にする方式にはいろいろなものがあります。
まず,オフラインでの広告を使ったモデルの例を紹介します。
<オフライン広告による『無償』化モデル>
あ オフライン広告の例
運送サービスにおいて
自動車内に広告を掲出する
サービス提供者(ドライバー)は広告主から広告料を受領する
い 無償利用
サービスのユーザー(乗客)は料金を支払わない
3 オンライン広告による『無償』化モデル
次に,オンラインの広告を使って無償化するモデルの例を紹介します。
<オンライン広告による『無償』化モデル>
あ オンライン広告の例
マッチングのサイト・アプリにおいて
広告が掲出される
→サービス提供者は『広告料の一定額の分配金』を受領する
『アフィリエイト』方式である
い 無償利用
サービスのユーザーは料金を支払わない
4 広告料の法的な位置づけの考察
サービス提供者が得た広告料はどのような性格かを分析します。
この性格が,『有償』に該当するかどうかの判断につながります。
<広告料の法的な位置づけの考察>
あ 価値の発生と移転
ア サービス提供者が受け取る広告料(※1)イ ユーザーが受けるサービス(価値)(※2)
い 経済的な対価性(※3)
前記※1は前記※2の対価ではない
『サービス提供の対価を得た』には該当しない
う 現実的な相関性(※4)
前記※1と前記※2には(統計学上の)相関関係がある
民法上の用語では『相当因果関係』という(民法416条)
『サービス提供によって金銭を得た』といえることである
え 業法の規制
各種業法には規制の対象として『有償(性)』が規定されている
業法の制定当時に広告モデルは想定されていなかった
『有償』の内容が『い・う』のいずれかについて
→特に規定(明記)されていない
→解釈によって異なる(後記※5,※6)
5 厳格解釈=適法方向
業法の規制の解釈の方針として厳格な解釈があります(前記)。
これを前提にすると広告モデルは『有償』に該当しない方向性となります。
<厳格解釈=適法方向(※5)>
あ 厳格解釈の内容
業法の規制は違反に対する刑事罰を伴っている
規制対象を拡大する方向の解釈は人権侵害につながる
規制対象は,文言から確実に想定できる範囲に限定すべきである
い 『有償』の解釈
『有償』はユーザーからサービス提供者への金銭の移転に限定される
=経済的対価性(前記※3)が必要である
う 広告モデルの『有償』該当性
広告モデルは『有償』に該当しない
6 目的論的解釈=違法方向
業法の規制の解釈の方針として,趣旨や目的を重視するものがあります(前記)。
これを前提にすると広告モデルは『有償』に該当する方向性となります。
<目的論的解釈=違法方向(※6)>
あ 目的論的解釈の内容
規制の趣旨・目的にさかのぼって解釈する
い 業法の『有償』限定の趣旨
業法が規制対象を『有償』に限定する趣旨について
サービス提供者が収益を得ると反復・継続する構造となる
→サービス提供の規模が大きくなる
→利益を優先する引き換えにユーザーが犠牲となる傾向が生じる
→法律で規制するべきである
う 『有償』の解釈
サービス提供者がサービス提供に伴って金銭を得ること
ユーザーの金銭の負担の有無は関係ない
=現実的な相関性(前記※4)で足りる
え 広告モデルの『有償』該当性
広告モデルは『有償』に該当する
結局,広告モデルが『有償』に該当するかどうかは,最高裁判例のような統一的な解釈がない状況であるといえます。
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