【財産分与における過去の生活費負担の過不足(未払い婚姻費用)の清算】
1 財産分与における過去の生活費負担の過不足の清算
2 財産分与における婚姻費用の清算(まとめ)
3 円満(同居)時の負担の過不足と財産分与
4 破綻(別居)時の負担の過不足と財産分与
5 有責性による減額の事後的な清算(概要)
6 夫婦共有財産の持出しの清算(概要)
1 財産分与における過去の生活費負担の過不足の清算
通常,夫婦が別居すると,生活費の負担が支払われます。
これを婚姻費用分担金と呼びます。
詳しくはこちら|別居中は生活費の送金を請求できる;婚姻費用分担金
しかし実際には,婚姻費用を請求した時点以降の分だけしか認められないケースが多いです。
詳しくはこちら|養育費・婚姻費用分担金請求の支払の始期(いつまでさかのぼるか)
この場合,婚姻費用を請求した時点より前(過去)の分が未払いとなってしまいます。
当然,婚姻費用の未払いは不公平です。
最終的な夫婦間の清算である財産分与で不公平が解消されます。
しかし,生活費の負担の過不足がすべて解消されるわけではありません。
本記事では,生活費の負担の過不足についての財産分与での扱いを説明します。
2 財産分与における婚姻費用の清算(まとめ)
財産分与で婚姻費用を清算するかどうかの判断の結論を最初にまとめておきます。
<財産分与における婚姻費用の清算(まとめ)>
あ 基本的事項
婚姻費用(生活費)の負担に関する過不足について
時期によって財産分与の扱いが異なる
い 時期と財産分与の扱いの関係
時期 | 財産分与での扱い |
同居中 | 反映しない(後記※1) |
別居中 | 反映(加算)する(後記※2) |
う 典型的な清算の内容
夫婦の別居時において
婚姻費用分担金の未払い期間がある
→未払分を財産分与で増額or減額する
同居か別居かという状況よって違う判断になります。
ただし,判例・裁判例の内容としては,もう少し分かりにくい表現が使われています。
このまとめの元となる理論を示している判例・裁判例は以下順に説明します。
3 円満(同居)時の負担の過不足と財産分与
夫婦関係が円満である時の生活費の負担の過不足について判断した裁判例をまとめます。
<円満(同居)時の負担の過不足と財産分与(※1)>
あ 前提事情
夫婦関係が円満に推移している間において
夫婦の一方が過当に婚姻費用を負担した
い 財産分与における扱い
過分な費用負担は贈与の趣旨でなされたものである
→清算を要しない
=清算的財産分与の対象にはならない
う 例外
特段の事情があれば財産分与の対象として扱う
例;『清算を要する』旨の夫婦間の合意がある
え 円満な時期
一般的に同居している期間について
→『夫婦関係が円満』といえる
※高松高裁平成9年3月27日
円満な時期とは,通常は同居している時期と同一です。
4 破綻(別居)時の負担の過不足と財産分与
次に,夫婦関係が破綻に近い状況での生活費の負担の過不足に関する判例を紹介します。
<破綻(別居)時の負担の過不足と財産分与(※2)>
あ 前提事情
夫婦関係が破綻に瀕した後において
夫婦の一方が過当に婚姻費用を負担した
い 清算の必要性
過分な費用負担には贈与の趣旨はない
→清算を要する
う 法的扱い
過分な費用負担について
『一切の事情』に該当する
※民法768条3項,771条
→清算的財産分与の対象とする
※最高裁昭和53年11月14日
え 破綻の時期
別居開始より後を破綻に瀕したものとする
※高松高裁平成9年3月27日
※『判例タイムズ375号』p77
通常は,別居時期は破綻しているものといえます。
5 有責性による減額の事後的な清算(概要)
不貞(不倫)をした者が婚姻費用を請求するケースでは,有責性があることを理由として婚姻費用の請求が認められないことや金額が減額されることがあります。
とはいっても,婚姻費用の審判手続では有責性については大雑把な審理しか行われません。仮に判断が誤っていることが後から判明した場合には,財産分与の判断の中で清算されることになります。
このような扱いについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|婚姻費用の審判手続における有責性の審理方法(暫定的心証による判断)
6 夫婦共有財産の持出しの清算(概要)
ある意味,生活費の負担の過不足といえるものとして,別居の際,夫婦の一方が夫婦共有財産を持ち出したという状況がよく起きています。典型例は,妻が夫名義の預金を引き出して現金を確保したというようなケースです。
このようなケースでは,原則として(清算的)財産分与の既払いとして扱います。ただ,事情によっては例外的に財産分与での清算はせず,代わりに婚姻費用の既払いとして扱うこともあります。
詳しくはこちら|別居の際の夫婦共有財産の持出しは婚姻費用に影響しないが例外もある
本記事では,婚姻費用分担金の未払い分を離婚の際の財産分与の中で清算することについて説明しました。
実際には,裁判所の判断(裁量)の幅が大きいです。
つまり,個別的事情の主張や立証のしかたによって判断が大きく変わります。
現実に婚姻費用分担金や財産分与の問題に直面している方は,本記事の内容だけで判断せず,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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