【売買・請負の契約不適合責任(瑕疵担保責任)の全体像】

1 売買・請負の契約不適合責任の要件と責任の内容の全体像

売買契約や請負契約では、目的物や仕事の内容に契約内容との不適合(瑕疵・欠陥)があると一定の法的責任が生じます。これを契約不適合責任(瑕疵)担保責任といいます。
本記事では、売買や請負契約の担保責任の要件と責任の内容といった基本的な内容を説明します。

2 契約不適合責任の基本的要件

(1)平成29年改正前→隠れた「瑕疵」

契約不適合責任が発生する要件のうち基本的な内容をまとめます。

平成29年改正前→隠れた「瑕疵」

あ 売買

隠れた瑕疵』が存在する場合
→契約不適合責任が発生する
※民法570条、566条1項

い 請負

『瑕疵』が存在する場合
→契約不適合責任が発生する
※民法634条
瑕疵が隠れていることは必要ではない

う 「瑕疵」の意味(概要)

(要旨)
目的物に欠陥があり、通常の用途or契約で定めた用途に適合しないこと
※大判昭和8年1月14日
詳しくはこちら|『瑕疵』の意味・品質や性状の基準・種類(物理・法律・心理的)

(2)平成29年改正後→契約不適合

平成29年の民法改正で、瑕疵担保責任の規定は廃止され、これに代わるものとして契約不適合責任が創設されました。
詳しくはこちら|平成29年民法改正による瑕疵担保責任から契約不適合責任への変化(性質・用語)
改正後は文字どおり契約に適合しない状況がある場合に売主や請負人に責任が発生する、ということになっています。

3 契約不適合責任における過失の要否

(1)平成29年改正前→無過失責任

ところで、債務不履行や不法行為といった一般的な責任は、(少なくとも)過失があって初めて発生します。この点、契約不適合責任過失(帰責事由)がない者についても責任が発生します。このような性質を持つ責任なので、無過失責任といいます。

平成29年改正前→無過失責任

(売買・請負の)契約不適合責任は無過失責任である
→売主・請負人に過失がなくても責任は発生する
※幾代通ほか編『新版 注釈民法(16)債権(7)』有斐閣1989年p138
※後藤勇著『請負に関する実務上の諸問題』判例タイムズ社1994年p115

(2)平成29年改正後→損害賠償だけは過失責任

平成29年の民法改正後の契約不適合責任の内容は4つありますが、そのうち損害賠償請求(責任)だけは債務不履行による損害賠償の性質、つまり過失責任という分類になりました。
他の3つ、具体的には追完請求、代金減額請求、解除については無過失責任(帰責事由は不要)という分類のままです。

4 売買の契約不適合責任の具体的内容

(1)平成29年改正前→修補請求否定・損害賠償は信頼利益

売買契約について適用される契約不適合責任の内容、つまり請求できる内容は、損害賠償請求と解除の2つがあります。修補を請求することは含まれていません。

基本的内容

あ 修補請求

修補請求は含まれない

い 損害賠償請求

本来の使用ができなかったことによる損害の賠償
例=修理に要する費用相当額
※民法570条、566条1項
信頼利益に限られる(後記※2

う 解除

瑕疵のために契約の目的を達成できない場合
→契約自体を解除できる
※民法570条、566条1項

(2)平成29年改正後→追完請求創設・損害賠償は履行利益

平成29年の民法改正で、追完請求が条文として誕生しました。修補(修理)を請求する、というものです。また、損害賠償請求については債務不履行責任の規定を使うことが条文上明記されました。そのため、賠償すべき損害は信頼利益ではなく履行利益ということになります。

平成29年改正後→追完請求創設・損害賠償は履行利益

あ 責任の内容

責任の内容 条文 追完請求 民法562条 代金減額請求 民法563条 損害賠償請求 民法564条→415条 解除 民法564条→541条、542条

い 損害賠償責任の内容

賠償すべき損害は履行利益である(債務不履行責任)

(3)代金支払拒絶権(参考)

ところで、代金減額請求や解除が想定される状況では、それを見越して、そもそも代金を支払わないでおくという対策が有用です。そこで、権利の不適合については、契約不適合責任そのものの前段階での処理として、買主の代金支払拒絶権があります。
詳しくはこちら|抵当権や仮登記の負担つきの不動産売買(担保責任・支払拒絶権)

5 請負の契約不適合責任の具体的内容

請負契約について適用される契約不適合責任の内容は、修補請求・損害賠償請求・解除の3つです。売買の契約不適合責任と違うのは修補請求が含まれるところです。
請負契約にはいろいろな種類がありますが、建物の建築については、解除はできません。

請負の契約不適合責任の具体的内容

あ 修補請求

請負人が修繕する
※民法634条1項

い 損害賠償請求

本来の使用ができなかったことによる損害の賠償
例=修理に要する費用相当額
※民法634条2項
信頼利益と履行利益の両方を含む(後記※2

う 解除(※1)

建物建築の請負契約は解除できない
※民法635条

なお、請負契約の内容が建物の建築工事である場合の契約不適合責任の内容については、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物の建築工事の契約不適合責任の内容(請求できる内容)

6 売買と請負における損害賠償の範囲の違い(改正前後)

契約不適合責任(瑕疵担保責任)の内容として、売買でも請負でも損害賠償請求が含まれます(前記)。ただ、損害賠償請求の内容、つまり損害としてカウントされるものの範囲については、平成29年改正前には違いがありました。改正後は違いがなくなりました。
改正前の違いの内容は、売買の瑕疵による損害賠償には履行利益が含まれないけれど、請負の瑕疵による損害賠償には履行利益が含まる、というところです。

売買と請負における損害賠償の範囲の違い(改正前後)(※2)

あ 平成29年改正前

契約の種類 信頼利益 履行利益 売買 請負
※幾代通ほか編『新版 注釈民法(16)債権(7)』有斐閣1989年p138
※後藤勇著『請負に関する実務上の諸問題』判例タイムズ社1994年p115

い 平成29年改正後

契約の種類 信頼利益 履行利益 売買 請負

7 担保責任の内容のまとめ(改正前後)

以上で説明した、売買と請負契約の契約不適合責任の内容(請求できる内容)の組み合わせをまとめます。

担保責任の内容のまとめ(改正前後)

あ 平成29年改正前

請求(責任)の内容 売買 請負 瑕疵修補請求 × 修補に代わる賠償請求 修補とともにする賠償請求 × 解除 ×(前記※1

い 平成29年改正後

請求(責任)の内容 売買 請負 追完請求 追完に代わる賠償請求 追完とともにする賠償請求 解除 ×(前記※1

8 請負における建替費用相当額の損害賠償(概要)

請負契約については、瑕疵の内容が重大だとしても解除は禁止されています(前記※1)。一方、損害賠償請求は当然可能です。
建物の請負で建て替えが必要なくらい大規模な瑕疵があった場合は、建替費用相当額の損害賠償請求が可能です。この場合、実質的には解除を認めたのと同じような状態であるといえます。
詳しくはこちら|建物の建築工事の瑕疵による建替費用相当額の損害賠償請求

9 担保責任を免除・制限する特約・規定(概要)

実際には、担保責任の免除や制限をする特約が存在するケースが多いです。
ただし、担保責任を免除や制限できないこともあります。
また、裁判所の競売では担保責任が適用されません。

担保責任を免除・制限する特約・規定(概要)

あ 特約による免除・制限(原則)

担保責任は特約(合意)により免除・制限できる

い 特約の制限

一定の状況では特約による担保責任の免除・制限ができない
詳しくはこちら|契約不適合責任の期間制限の規定と特約の制限(まとめ)

う 競売における担保責任の制限(概要)

競売については種類・品質に関する不適合による担保責任が適用されない
※民法568条4項(改正前民法570条ただし書)
しかし、例外的に救済される措置もある
詳しくはこちら|競売における担保責任(権利・種類・品質の不適合)

10 危険負担の移転時期(カバーする不適合の発生時期制限)→引渡時

担保責任がカバーする不適合(瑕疵)はいつまでに発生したものが対象になるのか、という問題があります。危険(負担)の移転時期という言い方をすることもあります。
平成29年改正前は、引渡時という解釈が優勢でした。平成29年改正で条文上、引渡時ということが明記されました。規定の仕方には細かい違いがありますが、実務上の扱いとしては違いはないといえます。

危険負担の移転時期(カバーする不適合の発生時期制限)→引渡時

平成29年改正前 平成29年改正後 民法534条 民法567条 契約一般 売買契約(後記※3 条文にタイミング記載なし 引渡時(条文規定) 解釈で引渡時 (解釈不要)
(※3)売買以外の有償契約に準用される(民法559条)

なお、競売における危険負担の移転時期も、一種の売買として引渡時という見解が(今では)優勢です。ただ、これについては平成29年の民法改正前は、民法に明記がなかったため、所有権移転時(買受人の代金納付時)という見解も優勢でした(後述)。

11 請負の担保責任の発生時期

請負契約の内容である仕事にはいろいろなものがあります。そこで、担保責任がいつ発生する(した)かが問題となることがあります。これについては、仕事完了後の引渡があるかないかによって違います。簡単にいうと、仕事の完成と引渡の遅い方ということになります。

請負の担保責任の発生時期

目的物の引渡の有無 契約不適合責任の発生時期 引渡を必要としない 完成した時 目的物の引渡を必要とする 引き渡した時
※幾代通ほか編『新版 注釈民法(16)債権(7)』有斐閣1989年p138

12 契約不適合責任の期間制限(概要)

契約不適合責任には、いろいろな期間制限があります。複雑なので誤解しやすいところです。
契約不適合責任の期間制限については別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|契約不適合責任の期間制限の規定と特約の制限(まとめ)

13 関連テーマ

(1)住宅の建築請負契約の担保責任

なお、住宅の建築請負契約の担保責任については別の法律で基本ルールがアレンジされています。
詳しくはこちら|住宅品確法による瑕疵担保責任の強化(基本構造部分は最低10年)

(2)競売における危険負担の移転時期(参考)

ところで、競売も、実質的には売買なので担保責任が適用されます。ただし競売の特徴に合わせて、責任の内容は大きく制限されています。また、危険負担時期については、民法改正による条文への明記が原因となって、改正前後で解釈の傾向に変化が起きています。
詳しくはこちら|競売における担保責任(権利・種類・品質の不適合)

本記事では、契約不適合責任の基本的な内容を説明しました。
契約不適合責任にはこれら以外に多くの細かい規定があります。
実際に瑕疵の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【不動産売買・建築請負における欠陥の典型例】
【瑕疵担保責任免除特約の有効性】

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