【土地売買後の文化財の埋設(埋蔵文化財包蔵地)の発覚によるトラブル】

1 土地売買後の文化財の埋設(埋蔵文化財包蔵地)の発覚によるトラブル

土地の売買の後から、地下に文化財があることが発覚することがあります。場合によっては、建物の建築が制限される、あるいは、多大な調査費用を所有者(買主)が負担しなくてはならなくなる、ということが起きます。そのような場合には、売買契約が解消される、あるいは売主や仲介業者の法的責任が認められるということがあります。
本記事では、土地売買の後に文化財の埋設が発覚したケースにおける法的問題を説明します。

2 『周知の埋蔵文化財包蔵地』の定義と判断

地下に文化財があるかもしれないという理由で、建物建築工事に規制がかかることがあります。
法律上は周知の埋蔵文化財包蔵地といいます。これに該当するかどうかが曖昧なケースがよくあります。
遺跡地図・遺跡台帳を見ればスグ分かる、というわけではないのです。地域住民の認識というハッキリしないものが判断材料になっているのです。

『周知の埋蔵文化財包蔵地』の定義と判断

あ 『周知の埋蔵文化財包蔵地』の定義

埋蔵文化財を包蔵する土地として周知されている土地
※文化財保護法93条1項

い 『埋蔵文化財』の具体的内容

石器・土器などの遺物
貝塚・古墳・住居跡などの遺跡

う 『周知』の内容

地域社会で認識されていること

え 『周知』の具体例

市町村の教育委員会が作成する遺跡地図・遺跡台帳に表示されている区域
この表示区域には限られない
伝説・口伝も『周知』に含まれる
※大阪高裁平成7年11月21日

3 『周知の埋蔵文化財包蔵地』の規制内容

『周知の埋蔵文化財包蔵地』に該当した場合に適用される規制の内容をまとめます。

『周知の埋蔵文化財包蔵地』の規制内容

あ 届出義務

土木工事等の目的で発掘する場合
→発掘に着手する日の60日前までに文化庁長官に届出をする

い 文化庁長官による指示

埋蔵文化財の保護上、特に必要が場合
ア 試掘調査 工事掘削深度が現地表面マイナス50cmを超え、埋蔵文化財に影響を及ぼす可能性がある場合
イ 立会調査 水道管・ガス管等を新たに設置する場合
工事掘削深度が現地表面マイナス50cm未満の場合
ウ 慎重工事 水道管・ガス管等の取り替え工事の場合

う 費用負担

指示内容(工事)施工費用は開発者が負担する(後記※1
※文化財保護法92条、93条

4 埋蔵文化財の発掘調査の費用負担

『周知の埋蔵文化財包蔵地』に該当すると、土地の権利者は一定の工事を行うよう指示されることがあります(前記)。
この工事に要する費用を負担するのは開発者です。
通常は土地の所有者が開発を行っています。
そうすると、土地所有者が費用を負担することになります。
さらに建物建築などが大幅に遅れることになります。

埋蔵文化財の発掘調査の費用負担(※1)

あ 発掘調査の指示の法的性格

発掘調査の指示は行政指導である
強制力はない
※行政手続法32条
※文化財保護法57条の2

い 現実的な効果

事実上強制される

う 費用負担

開発者が費用を負担する
→ある程度の経済的負担を負う結果となる

え 『負担を強制すること』の適法性

法の趣旨を逸脱した不当に違法なものではない
→受忍限度内である(→請求棄却)
※東京高裁昭和60年10月9日

5 文化財埋蔵と瑕疵担保責任→肯定(昭和57年東京地判)

文化財が埋蔵されている土地は、建物の建築がすぐにできず、多額の費用を要することになります(前記)。
売買で取得した土地に文化財が埋蔵されていると、買主としては想定外の損失を受けます。
当然、売買における瑕疵や説明義務違反などの責任が生じるケースもあります。
売主が、売買契約当時には文化財の埋蔵を知らなかったけれど、買主が2520万円の費用を負担する結果になることから、「隠れた瑕疵」にあたるとして、売主が同額の損害賠償義務を負うと判断した裁判例があります。

文化財埋蔵と瑕疵担保責任→肯定(昭和57年東京地判)

あ 要点

売買契約より前に、市が国に埋蔵文化財包蔵地として報告した
売買契約の後に、国(文化庁)が発行した全国遺跡地図に売買対象土地一帯が埋蔵文化財包蔵地として記載された
売買契約の後に、売買対象土地に文化財が埋蔵されていたことが発覚した
市が買主に発掘調査の指示をした
発掘調査に要する費用は2520万円である
裁判所は、隠れた瑕疵にあたるとして、売主への2520万円の損害賠償請求を認めた

い 判決文

ア 埋蔵文化財包蔵地であることの認識の有無 (注・原告=買主、被告=売主、売買契約の日=昭和51年3月10日)
・・・本件土地を含む府中市一帯はかつての武蔵の国に属し、遺跡、遺構が多いところから、東京都及び府中市の各教育委員会において昭和四九年七月ころから継続して遺跡の分布調査をした結果本件土地一帯にも文化財が埋蔵されている可能性が大きいとみられ、そこで府中市として昭和五〇年一〇月本件土地一帯を埋蔵文化財包蔵地として国に報告するとともに右包蔵地の所在を示す一万分の一の地図を作成したほか、昭和五一年五月に文化庁から発行された全国遺跡地図に本件土地一帯も包蔵地として記載されたのみならず、現に昭和五四年七月一二日原告において本件土地の一〇か所を試掘してみたところ、一か所から奈良もしくは平安時代と思われる竪穴住居址、一か所から右時代のものと思われる遺構がそれぞれ発見せられたこと、ところが、前記売買当時原告はもとより被告及び同補助参加人のいずれもが本件土地が右のような埋蔵文化財の包蔵地であることを知らなかったことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。
イ 買主の負担 本件の場合も原告が本件土地上にビルディングを建築する計画を有しているところから、昭和五四年七月二四日付で府中市教育委員会から原告に発掘調査及び協議の指示がなされ、しかも費用については事業者である原告が負担すべきものと取扱われていること、本件売買当時発掘調査するとすればその費用として金二五二〇万円を要することがそれぞれ認められ、他に右認定を左右する証拠はない。
ウ 隠れた瑕疵→肯定 右認定事実によると、本件土地には売買当時既に前記のような発掘調査費用の支出を必要とする文化財が埋蔵されていたのであるから、本件土地が文化財包蔵地として周知であったか否かに関りなく本件土地には隠れた瑕疵があったものといわざるを得ない。
エ 費用負担に関する検討 ・・・本件発掘費用は事実上原告において負担しなければならないものと解されるほか、前記法(注・文化財保護法)の定める損失補償も文理上現状変更行為の停止、禁止命令による損失にとどまり、発掘費用までは含まれないものと解されるから、発掘費用を原告において負担すべき明文上の根拠がないとしても、本件埋蔵文化財の存在が瑕疵に当るというのに妨げないものというべきである。
※東京地判昭和57年1月21日

6 文化財埋蔵と瑕疵担保責任(否定裁判例)

文化財の埋蔵が発覚したけれど売主の責任が否定された裁判例です。

文化財埋蔵と瑕疵担保責任(否定裁判例)

あ 事案

売買契約締結後に買主が『文化財保護法の規制』を知った
その後契約解消に向けた動きがなかった
逆に積極的に銀行融資の手続を進めていた

い 裁判所の判断

『売主』の責任を認めない
※京都地裁昭和59年2月29日

7 文化財埋蔵と仲介の説明義務(否定裁判例)

売買の後に文化財埋蔵が発覚したことについて、仲介業者の責任が追及されたケースです。
文化財の埋蔵が分かるような状況ではなかったことにより、仲介業者の責任は否定されました。

文化財埋蔵と仲介の説明義務(否定裁判例)

あ 事案

古墳の埋蔵が発覚した

い 裁判所の判断

ありふれた自然な地形である
→専門家でない限り、古墳包蔵の可能性を感じない
→過失なし
→『仲介業者』の責任を認めない
※大阪地裁昭和43年6月3日

8 文化財埋蔵と売主の調査義務(否定裁判例)

文化財が発覚した土地について『周知の埋蔵文化財包蔵地』に該当しないと判断した裁判例です。
売主の調査義務違反の責任を否定しました。

文化財埋蔵と売主の調査義務(否定裁判例)

あ 事案

外観上は一般の宅地であった
文化財埋蔵についての伝説・口伝はなかった(明らかではない)
埋蔵物が発覚した

い 裁判所の判断

『周知の埋蔵文化財包蔵地』には当たらない
→売主に調査義務なし
→『売主』の責任を認めない
※大阪高裁平成7年11月21日

本記事では、土地の売買において、文化財の埋蔵が発覚した場合の法的責任について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に、土地の売買の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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