【土地売買後の土壌汚染の発覚によるトラブル(基本と裁判例の集約)】

1 土壌汚染に関する公的な基準と除去指示(概要)
2 売買における土壌汚染の責任の種類(概要)
3 6価クロムの土壌汚染と瑕疵担保責任(肯定裁判例)
4 6価クロムの土壌汚染と瑕疵担保責任(否定裁判例)
5 地盤改良工事による6価クロムの汚染(概要)
6 鉛・フッ素の土壌汚染と説明義務違反(肯定裁判例)
7 砒素の土壌汚染と瑕疵担保責任(肯定裁判例)

1 土壌汚染に関する公的な基準と除去指示(概要)

土地の売買の後から土壌汚染が発覚して,法的責任を追及するケースはよくあります。
本記事では,売買の対象土地の土壌汚染に関する責任を説明します。
土壌汚染に関しては公的な基準や手続があります。
これは法的責任の判断に影響する重要なものです。

<土壌汚染に関する公的な基準と除去指示(概要)>

あ 有害物質

第1〜3種特定有害物質が指定されている

い 行政の除去指示

土壌の汚染について
→都道府県知事が除去指示を行うことがある
詳しくはこちら|土壌汚染に関する公的規制(汚染除去指示・第1〜3種特定有害物質)

2 売買における土壌汚染の責任の種類(概要)

売買の対象の土地に土壌汚染が発覚すると法的責任が生じることがあります。
生じる可能性のある責任の種類をまとめます。

<売買における土壌汚染の責任の種類(概要)>

あ 売買後の土壌汚染の発覚と責任

売買契約の締結の後において
土壌汚染が発覚した
→売主や仲介業者の責任が生じることがある

い 法的責任の種類

ア 瑕疵担保責任 売買契約解除や売主の損害賠償責任が認められることがある
イ 調査・説明義務違反 売主や仲介業者の調査・説明義務違反
→損害賠償責任が認められることがある
詳しくはこちら|売買契約に関する責任の種類(瑕疵担保・債務不履行・不法行為)

以下,土壌汚染の責任が判断された裁判例を紹介します。

3 6価クロムの土壌汚染と瑕疵担保責任(肯定裁判例)

6価クロムによる土壌汚染を土地の『瑕疵』として認めた裁判例です。

<6価クロムの土壌汚染と瑕疵担保責任(肯定裁判例)>

あ 事案

製缶業者に土地を賃貸していた
土地売買
土壌汚染調査実施
→基準値を超える6価クロム・鉛が検出された

い 瑕疵の判断

『瑕疵』にあたる
→瑕疵担保責任が生じる

う 免責特約の有効性

土壌汚染を想定できた
免責特約は無効である
※商法526条類推適用

え 損害賠償責任

売主は損害賠償責任を負う

お 賠償額

土壌汚染対策工事費用
=約1470万円
※東京地裁平成23年1月20日

4 6価クロムの土壌汚染と瑕疵担保責任(否定裁判例)

免責特約によって売主の瑕疵担保責任が生じなかったケースです。

<6価クロムの土壌汚染と瑕疵担保責任(否定裁判例)>

あ 事案

土地の売買契約が締結された
6価クロムによる地下水汚染が発覚した

い 免責特約の有効性

土地上には『発生源』が過去にあったわけではない
→土壌汚染は想定内ではない
→『免責特約』が有効である

う 結論

売主の瑕疵担保責任は生じない
※東京地裁平成24年9月25日

5 地盤改良工事による6価クロムの汚染(概要)

6価クロムが存在する原因は,過去に稼働していた工場から排出されたというものが典型的です。
しかしそれ以外にも,地盤改良工事が原因となっているケースもあります。
地盤改良工事によって土地の価値が下がってしまったといえます。
地盤の『改良』とは逆の効果が生じたといえます。
詳しくはこちら|地盤改良工事によって『土壌汚染』が生じるトラブル

6 鉛・フッ素の土壌汚染と説明義務違反(肯定裁判例)

鉛・フッ素による土壌汚染が発覚するケースもあります。
売主の説明義務違反による損害賠償責任を認める一方,買主の過失相殺で減額した裁判例です。

<鉛・フッ素の土壌汚染と説明義務違反(肯定裁判例)>

あ 事案

工場敷地+建物を40億3900万円で売買した
後から,調査を実施した
→鉛・フッ素等による土壌汚染が判明した
除去に要する費用=約1億7600万円

い 説明義務

過去の土地利用方法について
→『土壌汚染を発生する可能性が高い』ものであった
売主はこれを知っていた
売主は買主に次の事項を説明する信義則上の付随義務を負う
説明内容=土壌の来歴や過去の土地利用方法

う 損害賠償責任

売主には説明義務違反があった
→損害賠償責任を負う

え 過失相殺

買主の過失は6割である

お 賠償額

除去に要する費用を6割控除する
→約7500万円
※東京地裁平成18年9月5日

7 砒素の土壌汚染と瑕疵担保責任(肯定裁判例)

砒素やその他の埋設物が発覚したケースです。
瑕疵担保責任がストレートに認められました。

<砒素の土壌汚染と瑕疵担保責任(肯定裁判例)>

あ 売買契約

土地の売買契約が締結された
土地上には,過去に工場があった
売主は土地の使用来歴を説明した
調査を実施したが,土壌汚染は発覚しなかった

い 引渡後の調査

土地の引渡後,水質測定を実施した
砒素が環境基準値を超えて検出された
それ以外にも,次のような埋設物が大量に発覚した

う 埋設物

PCB含有汚泥
インキ廃材
焼却灰
燃え殻

え 瑕疵の判断

土地の瑕疵があった
→売主は瑕疵担保責任として損害賠償責任を負う

お 賠償額

調査・対策費用の相当額
=約5億7000万円
※東京地裁平成20年7月8日

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