【喘息対策の自然環境と仲介の開発計画の説明義務(肯定裁判例)】
1 周辺環境の変化の説明義務違反の裁判例(総論)
2 土地・建物の購入までの経緯
3 購入後の大規模擁壁工事
4 目的達成妨害事情への注意義務(一般論)
5 開発計画についての仲介の調査・説明義務(肯定判断)
6 損害額の算定
1 周辺環境の変化の説明義務違反の裁判例(総論)
不動産の売買の後に,周辺の環境が想定したものではなかったことになるケースがあります。
事情によっては,売主や仲介業者の責任が認められます。
本記事では,周辺環境を重視して住居を購入したケースについて,その後の環境変化の説明義務の不履行が認められた裁判例を紹介します。
2 土地・建物の購入までの経緯
この事案では,土地・建物の購入の根本的な理由は,喘息対策としての良好な環境の確保にありました。
<土地・建物の購入までの経緯>
あ 媒介契約の締結
Xの長女Aは,小児喘息を患っていた
そのため,Xは,周辺環境が良好な場所に転居したかった
Xはこれを説明し,仲介業者Yに住宅購入の媒介を依頼した
い 物件の紹介と購入
Yは,B所有の土地・建物をXに紹介した
土地・建物の,南東側には幅約4メートルの水路用敷地があった
その先には小高い丘が続いていた
丘には竹や雑木が約10メートルの高さで繁茂していた
YはXに,この雑木林部分に将来公園ができると説明をした
Xは,このような周辺環境を気に入り,土地・建物を購入した
Xの家族は転居した
※千葉地裁平成14年1月10日
3 購入後の大規模擁壁工事
住居の購入後に,周辺環境は大きく変化しました。
買主が想定していた良好な環境とはほど遠いものになってしまったのです。
<購入後の大規模擁壁工事>
あ 購入後の問題発生
転居して約2か月後において
土地の南東側約4メートルの位置に擁壁工事が始まった
い 擁壁の形状
高さ約5メートルの鉄筋コンクリート製擁壁
全長約103.8メートル
う 擁壁の位置づけ
丘を対象地とする土地区画整理事業があった
その一環として,調整池及び調整池兼用公園が築造された
これに伴って『い』の擁壁が建築された
建築計画は,Xが土地・建物を購入するより数年前に決まっていた
え 提訴
Xは,Yに対し債務不履行に基づく損害賠償を請求した
Xは訴訟を提起した
お 主張内容
擁壁により『ア・イ』が失われた
ア 売買契約当時は存在していた竹や雑木イ 『ア』によって作られた空間と景観
※千葉地裁平成14年1月10日
4 目的達成妨害事情への注意義務(一般論)
裁判所は,仲介業者は買主の意図に関する事項について一般的な注意義務を負うと判断しました。
<目的達成妨害事情への注意義務(一般論)>
あ 購入の動機・目的(要件)
仲介業者が,依頼者が購入をする動機・目的を知った
動機・目的は依頼者が購入を決定する際の重要な要素である
い 注意義務の発生(効果)
『あ』に該当する場合
→仲介業者は『う』の注意義務を負う
売買の目的物に直接関係することではないとしても同様である
う 注意義務の内容
『い』の動機・目的に反する結果を生じることがないように注意を払う義務
※千葉地裁平成14年1月10日
5 開発計画についての仲介の調査・説明義務(肯定判断)
裁判所は,仲介業者の注意義務の具体的な内容として,開発計画に関する事項の調査・説明をする義務を認めました。
そして,仲介業者はこの義務に反していたことになりました。
<開発計画についての仲介の調査・説明義務(肯定判断)>
あ 動機・目的の把握
Yは,売買に至るまでの間,Xの希望を聞きつつ物件を案内し,その過程でXの不動産の購入動機・目的を知った
Xが,竹や雑木などの緑やそれによって造られる空間の存在など本件不動産の周辺環境を気に入って購入に至った状況を十分に認識していた
い 注意義務
Yは,本件不動産の周辺環境に何らかの影響を及ぼすような事情については,特に慎重に調査し,Xに情報提供をすべきであった
区画整理事業・公園の建設の事実の把握では不十分である
擁壁設置についての調査・説明をする義務があった
→Yには説明義務違反があった
※千葉地裁平成14年1月10日
6 損害額の算定
仲介業者は調査・説明義務違反として損害賠償責任を負うと判断されました(前記)。
損害額については,眺望悪化を解消する改築費用をベースにして,約半額を賠償すべきものとして認めました。
因果関係が100%ではないため,裁判所の裁量で減額したのです。
<損害額の算定>
あ 現実的な損害
建物の1階の眺望の悪化により居間を2階に設置する必要が生じた
Xは,改築費用約700万円を要した
い 因果関係の判断
因果関係は認めた
相当因果関係の立証が困難である
→この費用の一部300万円を損害として認めた
※民事訴訟法248条
※千葉地裁平成14年1月10日