【期間の定めのない建物賃貸借の解約申入・解約予告期間】

1 期間の定めのない建物賃貸借の解約申入(基本)
2 期間の定めのない建物賃貸借(参考)
3 解約申入期間(解約予告期間)
4 借地借家法27条の位置付けと性質
5 解約申入期間の有効性(まとめ)
6 解約申入の実務的な方法(概要)
7 期間の定めのある賃貸借と解約申入(概要)

1 期間の定めのない建物賃貸借の解約申入(基本)

建物賃貸借では,期間が設定されていないという状況もあります。
本記事では,期間の定めのない建物賃貸借における解約申入について説明します。
まずは,解約申入の基本的事項をまとめます。
なお,一般的には解約予告と呼ぶことも多いです。

<期間の定めのない建物賃貸借の解約申入(基本)>

あ 解約申入(基本)

期間の定めのない建物賃貸借(後記※1)について
各当事者からいつでも解約の申入をすることができる
解約申入後,一定期間(後記※2)の経過により契約は終了する
※民法617条1項

い 正当事由

賃貸人からの解約申入には正当事由を要する
※借地借家法28条
詳しくはこちら|建物賃貸借終了の正当事由の内容|基本|必要な場面・各要素の比重

う 期間の定めとの関係

期間が定められている場合
→解約申入はできない(後記※3

2 期間の定めのない建物賃貸借(参考)

建物賃貸借の期間の定めがない状況というのは3つのパターンがあります。

<期間の定めのない建物賃貸借(参考)(※1)

あ 基本的事項

期間の定めのない建物賃貸借について
『い』の3種類と『う』が存在する

い 期間の定めのない建物賃貸借の種類

ア 当初から期間の定めがなされなかったイ 契約で1年未満の期間が定められた 期間の定めがないものとみなされる
※借地借家法29条
ウ 法定更新がなされた 法定更新後は期間の定めがないものとなる
※借地借家法26条1項ただし書
※稲本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第3版』日本評論社2016年p209

う 解釈による期間の定めのない賃貸借

『永久貸与』という契約文言について
長期間の賃貸借という趣旨である
→期間の定めがないものとなる
※最高裁昭和27年12月11日
別の解釈の学説も存在した
※稲本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第3版』日本評論社2016年p209

3 解約申入期間(解約予告期間)

解約申入期間は法律上規定されています。
賃貸人・賃借人で原則的な期間や合意の制限が異なります。

<解約申入期間(解約予告期間)(※2)

あ 解約申入期間の意味

解約を申し入れてから契約終了までの期間

い 賃借人からの解約申入

賃借人からの解約申入について
→借地借家法27条は適用されない
→解約申入期間は3か月である
※民法617条1項
任意規定である
→他の期間を合意することができる

う 賃貸人からの解約申入

賃貸人からの解約申入について
→6か月
※借地借家法27条
強行規定である(後記※4
→6か月より短い期間を合意できない
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p200

4 借地借家法27条の位置付けと性質

借地借家法では,賃貸人からの解約申入について規定されています。
この規定の法律的な位置付け・性質をまとめます。

<借地借家法27条の位置付けと性質>

あ 対象となる契約(※3)

期間を定めのない建物賃貸借が対象である
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p199,200
※水本浩ほか『基本法コンメンタール 借地借家法 第2版補訂版』日本評論社p95
※広中俊雄『注釈借地借家法 新版注釈民法(15)別冊』有斐閣1993年p933

い 一般法と特別法の関係

解約申入期間を民法617条1項の規定よりも伸長するものである
民法617条の特則である

う 強行規定(※4)

借地借家法27条は強行規定である
→これに反する特約で賃借人に不利なものは無効となる
※借地借家法30条

5 解約申入期間の有効性(まとめ)

解約申入の期間については,法律上原則的な期間が設定されています。
そして,これ以外の期間の合意(特約)については,一定の範囲で制限されています。
間違えやすいところなので,具体的にまとめます。

<解約申入期間の有効性(まとめ)>

あ 賃借人からの解約申入
期間・有効性 根拠条文・理由
原則 3か月 民法617条1項2号
短縮する特約 有効 借家人に有利
延長する特約 有効 借家人に不利だが借地借家法の適用外
い 賃貸人からの解約申入
期間・有効性 根拠条文・理由
原則 6か月 借地借家法27条1項
短縮する特約 無効 借家人に不利
延長する特約 有効 借家人に有利

6 解約申入の実務的な方法(概要)

解約申入をした後から,解約申入をしたかどうかが不明確になるトラブルがよくあります。
そこで,実際に解約申入を行う場合は,記録に残しておくことが好ましいです。
また,賃貸人からの解約申入については,登記が必要になることがあります。
このような実務的な解約申入の方法については,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物賃貸借の解約申入の実務的な方法(登記の要否と記録化)

7 期間の定めのある賃貸借と解約申入(概要)

以上の説明は,賃貸借の期間が定められていないというものが前提です。
一方,期間が定められている場合は,法律上は,途中で当事者の意向で解約することはできません。
しかし実際には,契約書の条項で,賃借人による中途解約が認められていることがほとんどです。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物賃貸借の中途解約と解約予告期間(解約権留保特約)

本記事では,期間の定めがない建物賃貸借の解約申入について説明しました。
実際には,個別的事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることがあります。
実際に建物賃貸借の解約に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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