【財産的損害による慰謝料が認められた事例(裁判例の集約)】
1 財産的損害による慰謝料(概要)
2 特別な物の毀損と慰謝料(最高裁判例)
3 特別な物の毀損と慰謝料(裁判例集約)
4 違法性が高い加害行為と慰謝料(裁判例集約)
5 交通事故による家屋損壊と慰謝料(50万円認容)
6 交通事故による自宅玄関損壊と慰謝料(20万円認容)
1 財産的損害による慰謝料(概要)
物の毀損による賠償責任は,原則として財産的損害に限られます。
しかし,事情によっては慰謝料も認められることがあります。
詳しくはこちら|財産的損害による慰謝料の発生の基本(理論と特別事情の分類)
本記事では,物の毀損による慰謝料が認められた具体的事例を紹介します。
多くの事例があるので,最初に大きく2つのパターンに分類します。
<財産的損害による慰謝料(概要)>
あ 基本的事項
財産的損害について
原則として慰謝料は認められない
例外的に認められることもある
認められるケースは大きく『い・う』の2つに分類できる
い 特別な物
目的物が被害者にとって特別な価値を有する(後記※1,※2)
う 違法性の高い加害行為
加害行為の違法性が著しく高い(後記※3)
詳しくはこちら|物の毀損による慰謝料の基本(判例・学説と特別事情の分類)
2 特別な物の毀損と慰謝料(最高裁判例)
最初に,被害者にとって特別な価値を有する物が毀損されたというパターンです。
そのうち,最高裁(大審院)の判例となったものをまとめます。
<特別な物の毀損と慰謝料(最高裁判例;※1)>
あ 先祖伝来の土地
先祖伝来の土地を横領された
※大判明治43年6月7日
い 長期間居住した建物
60年間住み慣れた家屋が破壊された
※最高裁昭和35年3月10日
3 特別な物の毀損と慰謝料(裁判例集約)
被害者にとって特別な価値を有する物が毀損されたパターンについての下級審裁判例を紹介します。
<特別な物の毀損と慰謝料(裁判例集約;※2)>
あ 愛おしい動物
飼い犬や飼い猫が死亡した
例;他人所有の犬に噛み殺した・他人の過失による
※東京地裁昭和36年2月1日
※東京高裁昭和36年9月11日
※東京地裁昭和45年7月13日
詳しくはこちら|ペット死亡・負傷|損害賠償|財産的損害×慰謝料|理論・基準
い 愛車
愛用する自動車が毀損された
※東京地裁昭和38年9月16日
う 住居の損壊
※岡山地裁平成8年9月19日(後記※4)
※大阪地裁平成15年7月30日(後記※5)
え 藩主へのロイヤリティ
藩主から植木を拝領した
特別の愛着をもって育てていた
移植の際,加害者が過失により枯死させてしまった
※秋田地裁昭和48年12月3日
お 山林への愛着
長年愛着をもって育てていた山林を不法に伐採された
山林の内容=かやなど
※大阪高裁昭和43年11月30日;トトロ事件
4 違法性が高い加害行為と慰謝料(裁判例集約)
加害行為の態様に着目して,特別に慰謝料を認めるパターンの裁判例です。
<違法性が高い加害行為と慰謝料(裁判例集約;※3)>
あ 紛争中の意図的な破壊活動
借地権についての紛争中において
地主が借地人の物置を塀を故意に壊した
※大阪高裁昭和38年1月30日
い 家屋の不法占拠
加害者が家屋を不法占拠していた
被害者は訴訟提起を余儀なくされるなどの迷惑を被った
※東京地裁昭和32年9月26日
う 不法な土地所有権移転登記
Aが所有する土地について
Aが知らない間に他人に所有権移転登記がされていた
※東京高裁昭和46年5月27日
え 宅地売買における重大事情の不告知
宅地の売買において
売主・仲介業者が『隣地への高架建設予定』を説明しなかった
※松山地裁平成10年5月11日
詳しくはこちら|高架建設予定の不告知による売主・仲介の連帯責任(肯定裁判例)
以上の裁判例の中から,いくつかのケースについて,もう少し詳しい内容を紹介します。
5 交通事故による家屋損壊と慰謝料(50万円認容)
居住する自宅は,損壊されることで,類型的に大きな精神的なダメージが生じます。
財産的損害の賠償とは別に慰謝料が認められやすいです。
交通事故により住居が損壊したケースの裁判例です。
<交通事故による家屋損壊と慰謝料(50万円認容;※4)>
あ 事案
深夜,トラックが民家に飛び込んだ
い 裁判所の判断
財産的損害のほかに慰謝料50万円を認めた
※岡山地裁平成8年9月19日
6 交通事故による自宅玄関損壊と慰謝料(20万円認容)
住居の玄関だけの損壊でも慰謝料が認められた裁判例を紹介します。
<交通事故による自宅玄関損壊と慰謝料(20万円認容;※5)>
あ 事案
乗用車が自宅玄関を損壊した
い 裁判所の判断
財産的損害のほかに慰謝料20万円を認めた
※大阪地裁平成15年7月30日