【襲名による名の変更(許可基準と裁判例)】
1 襲名を理由とする名の変更の許可基準
2 郵便局・山林業の承継+襲名→変更許可
3 350年の家業承継+襲名→変更許可
1 襲名を理由とする名の変更の許可基準
名の変更の実質的な理由にはいろいろなものがあります。
詳しくはこちら|名の変更許可制度の基本(規定・趣旨・現実的理由)
その1つに,襲名により名を変更するというものがあります。
一般的には,変更は許可されます。
<襲名を理由とする名の変更の許可基準>
あ 一般的な見解
襲名の事実と変更の必要性が認められる場合
→正当な事由に該当する
(氏の変更よりも)容易に許可されるべきである
※斎藤秀夫ほか『注解 家事審判規則(特別家事審判規則)改訂』青林書院1994年p515
い 襲名の種類との関係
生活上正当な利益があれば変更を許可してよい
営業上の襲名に限られない
※昭和30年6月名古屋高裁管内家事審判官会協議結果・家庭局見解
2 郵便局・山林業の承継+襲名→変更許可
郵便局や山林の事業を承継することに伴う襲名があったケースです。
裁判所は名の変更を許可しました。
<郵便局・山林業の承継+襲名→変更許可>
あ 襲名の履歴
ア 祖父の父A
『新兵衛』
イ 祖父B
『新之助』→Aの死後,『新兵衛』に改名した
ウ 父C
『新吉郎』→Bの死後,『新兵衛』に改名した
近年隠居(引退)した
その後死亡した
エ 申立人D
Cの長男である
家督を相続した
戸籍名『新八』
い 家業の承継
B・Cは郵便局長の勤務と山林業への従事をしていた
Dも郵便局長を勤め,山林業を承継していた
Dは山林・田畑を承継していた
う 襲名と通称使用
Dは通称として『新兵衛』の名を使用していた
自宅の表札にも『新八』の名を用いていない
世間の人は老若男女を問わずDのことを『新兵衛さん』と呼ぶ
Dが従事する郵便局のことを『新兵衛さんの郵便局』と呼ぶ
え 裁判所の判断
正当な事由がある
→変更を許可した
※大阪高裁昭和27年2月22日
3 350年の家業承継+襲名→変更許可
創業350年を誇る家業の承継に伴う襲名がなされたケースです。
裁判所は名の変更を許可しました。
<350年の家業承継+襲名→変更許可>
あ 変更希望の名
戸籍名『秀夫』(仮名)→希望名『信三郎』
い 家業の経営の承継
Aの家業は,みそ・醤油の醸造業であった
Aは従来より家業に従事していた
父『信三郎』が亡くなった
Aに家業を承継することとなった
Aは株式会社○○屋醸造所の代表取締役に選任された
会社の経営を統括するようになった
う 当主の氏名と家業の関連性
350年にわたって父祖伝来の家業を続けている
従来の12代の当主が『大和信三郎』と称していた
近年『株式会社○○屋醸造所』を設立し法人成りした
従来の『○○屋大和信三郎商店』と実質的に同一である
え 父の改名
亡父は幼時,『大和洋助』という名であった
明治年間に父は家督を相続して当主となった
この時,慣習に従って『信三郎』と改名した
父は『第12代大和信三郎』として家業の維持にあたった
お 周囲の意向
取引先・取引銀行・親族の意向について
→Aが大和信三郎を承継することを積極的に望んでいる
か 裁判所の判断
『大和信三郎』の名によって会社の信用の維持・拡大を計っている
→正当な事由がある
→変更を許可する
※東京高裁昭和44年6月11日
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