【姓名判断による名の変更(許可基準と裁判例)】

1 姓名判断による名の変更の許可基準
2 姓名判断よる通称→変更不許可
3 姓名判断による虚弱体質改善→変更不許可
4 姓名判断による改名希望→変更不許可
5 姓名判断による動機の認定→変更不許可
6 同姓同名+姓名判断→変更不許可(概要)
7 悪名から姓名判断による名へ→変更不許可(概要)
8 人名用漢字の拡大と姓名判断→変更許可(概要)

1 姓名判断による名の変更の許可基準

名の変更の実質的な理由にはいろいろなものがあります。
詳しくはこちら|名の変更許可制度の基本(規定・趣旨・現実的理由)
その1つに,姓名判断によって現在の名にネガティブな評価がなされたというものがあります。
このような理由は,名の変更の審判では不合理なものとして正当事由として認められません。

<姓名判断による名の変更の許可基準>

あ 姓名判断と名の変更の関係

姓名判断により戸籍名にネガティブな評価がなされた場合
→他の理由による変更の端緒となる
希望する名の選定の基礎になることが多い

い 許可判断の傾向

姓名判断のみを理由とする場合
→原則的に許可されない
※斎藤秀夫ほか『注解 家事審判規則(特別家事審判規則)改訂』青林書院1994年p515

2 姓名判断よる通称→変更不許可

姓名判断の結果を理由として戸籍名を使わなくなり通称を使うようになったケースです。
裁判所は名の変更を認めませんでした。

<姓名判断よる通称→変更不許可>

あ 姓名判断による通称

出生届で『和加子』と命名された
出生後間もない時期に,姓名判断を行った
『ゆみえ』がベストと指南された
家族は『ゆみえ』と呼ぶようになった
子供が小学校に入学した
『有満恵』への変更許可を申し立てた

い 裁判所の判断

変更を許可しない
※東京高裁昭和52年10月25日

3 姓名判断による虚弱体質改善→変更不許可

姓名判断によって,虚弱体質の原因が名前であると指摘されたケースです。
名の変更には正当事由がないとして許可されませんでした。

<姓名判断による虚弱体質改善→変更不許可>

あ 姓名判断と虚弱体質

姓名判断を行った
名が悪いために体質が虚弱であると判断された
両親が名の変更を望んでいる

い 裁判所の判断

変更を許可しなかった
※大阪高裁昭和30年8月19日

4 姓名判断による改名希望→変更不許可

姓名判断で,適切な名を示されたケースです。
裁判所は名の変更を許可しませんでした。

<姓名判断による改名希望→変更不許可>

あ 姓名判断の結果

姓名判断学において
『伸昭』『直毅』の名が良くないと判断された
『信昭』『直紀』への変更を申し立てた

い 裁判所の判断

変更を許可しなかった
※福岡家裁昭和36年10月5日

5 姓名判断による動機の認定→変更不許可

実際には,名の変更を希望する理由として正面から『姓名判断』を主張しないケースが多いです。
つまり,姓名判断の理由を隠しているということです。
裁判所は,審理の中で可能な範囲で調査・判断をします。
名の変更の希望の根底にある『姓名判断』の影響を裁判所が見抜いて不許可とした事例です。

<姓名判断による動機の認定→変更不許可>

あ 類似する名の存在

申立人は『◯◯元助』(もとすけ)である
約1キロメートル離れたところに同姓の『◯◯本介』(ほんすけ)という者が居住していた
呼称が紛らわしい
申立人宛の電報と郵便が,各1回,『本介』方に誤配されたことがある

い 姓名判断による動機

名の文字・呼び名(読み方)は異なる
電報と郵便物の誤配は,申立人の転居後,間もない頃の一時的な事故である
将来そう度々起るものではない
申立人は,姓名判断で好ましいとされた『龍司』に変更したいという動機が窺われる

う 裁判所の判断

変更を許可しなかった
※東京高裁昭和32年9月7日

6 同姓同名+姓名判断→変更不許可(概要)

同姓同名の者が近隣に存在するケースでは,一般的に名の変更が許可されます。
詳しくはこちら|同姓同名や類似の名による支障と名の変更の許可基準
しかし変更希望の名が姓名判断によるものであると否定方向に働きます。
姓名判断による希望の名であったことにより変更が許可されなかった事例です。

<同姓同名+姓名判断→変更不許可(概要)>

あ 事案

近隣に同姓同名の者がいる
日常生活に支障が生じている

い 希望する名

希望する名について
→姓名判断によるものであった

う 裁判所の判断

変更を許可しなかった
※東京高裁昭和32年2月21日
※東京高裁昭和32年9月7日;同趣旨
詳しくはこちら|同姓同名や類似の名による支障と名の変更(否定裁判例の集約)

7 悪名から姓名判断による名へ→変更不許可(概要)

戸籍名が悪名であるという主張がなされたケースがあります。
多くの事情が考慮されましたが,希望する名が姓名判断によるものであることがマイナス方向に働きました。
最終的には裁判所は変更を許可しませんでした。

<悪名から姓名判断による名へ→変更不許可(概要)>

あ 変更希望の名

戸籍名『コトラ』→希望名『和孝』(かずこ)

い 希望名の不都合性

希望名『和孝』は姓名判断によるものである

う 裁判所の判断(結論)

他の事情も考慮した
→変更を許可しなかった
※大阪高裁昭和32年5月27日
※昭和32年9月25日大阪家裁家事部決議
詳しくはこちら|悪名(珍奇・難解)の変更(裁判例の集約)

8 人名用漢字の拡大と姓名判断→変更許可(概要)

純粋に姓名判断による名の変更ではなく,人名用漢字の拡大が絡んだケースがあります。
当初の出生届に記載した名が不本意なものだったのです。
このような事情があったため,名の変更が許可されました。
純粋な姓名判断だけを理由とする変更とは違う扱いとなったのです。

<人名用漢字の拡大と姓名判断→変更許可(概要)>

あ 出生届(命名)

希望する名は当用漢字に含まれない文字を含んでいた
希望する名による出生届が受理されなかった
次順位の候補の名によって出生届を提出した

い 通称使用

実際には姓名判断による名を通称として使用するようになった

う 人名用漢字の拡大

通称の名の文字が人名用漢字に追加された

え 裁判所の判断

通称名への変更を許可した
※大阪高裁昭和29年6月4日
詳しくはこちら|人名用漢字の範囲の拡大に伴う名の変更(許可傾向と裁判例)

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