【変更後の名の常用平易性と変更の許可基準】
1 変更後の名の常用平易性と許可判断(総論)
2 難解・難読な名への変更の不許可傾向
3 変更後の文字と許可判断の方向性
4 人名用漢字外が含まれる名への変更許可基準
5 人名用漢字外の通称名への変更の基本的判断基準
6 人名用漢字外の通称名への変更許可の傾向
7 人名用漢字外の神官・僧侶名への変更許可基準
8 難解・難読な通称名への変更の実例(概要)
1 変更後の名の常用平易性と許可判断(総論)
命名のルールとして,常用平易な文字であることが要求されています。
これは命名に適用される規定であり,名の変更に直接的に適用されるわけではありません。
詳しくはこちら|名の常用平易性(使用可能文字)の基本
しかし,希望する名が難解・難読であることは好ましくないと考えられています。
そこで,名の変更の審判では,変更後の名前も判断に影響を与えます。
本記事では,難解・難読な名への変更の判断の傾向について説明します。
2 難解・難読な名への変更の不許可傾向
難解や難読である名は,名として用いることが好ましくありません。
そこで,名の変更としても不許可となる傾向があります。
<難解・難読な名への変更の不許可傾向>
あ 難読な名の回避
難読な名に変更することについて
→戸籍法50条1項の趣旨(い)にも反する
→名の変更を認めない
い 戸籍法50条1項の趣旨
子の名には常用平易な文字を使用しなければならない
※広島家裁竹原支部平成元年12月18日
※昭和23年1月13日民事甲37号最高裁民事部長回答
3 変更後の文字と許可判断の方向性
実際に特定の名が『難解・難読』であるかどうかを画一的に判断できるわけではありません。
人名用漢字が判断の目安になりますが,これだけで変更を認めるかどうかを判断できるわけでもありません。
大きな方向性として,肯定・否定の2つの見解があります。
<変更後の文字と許可判断の方向性>
あ 基本的事項
希望する変更後の名について
人名用漢字でない文字が含まれている場合
→許可する/しないの両方の見解(い・う)がある
い 許可する見解
個人識別機能を優先する
例;永年使用・襲名を理由とするもの
う 許可しない見解
本来使用が不可能な名である
※斎藤秀夫ほか『注解 家事審判規則(特別家事審判規則)改訂』青林書院1994年p518
4 人名用漢字外が含まれる名への変更許可基準
変更を希望する名が人名用漢字ではない文字を含む場合は,変更が許可されない傾向があります。
ただし,宗教名・襲名という特殊な事情や,通称として長期間使用されてきたという事情によって判断の傾向は違ってきます。
前記の大きな方向性よりもやや詳しい基準としてまとめます。
<人名用漢字外が含まれる名への変更許可基準>
あ 大原則
出生届が受理されないような名への改名は許されない
い 特に否定する事情
変更した名が難読・珍奇なものである
→仮に変更を認めると,その後再度変更する正当事由になる可能性がある
→なおさら許されない
う 宗教名の特殊性(概要)
例;僧籍
伝統的慣習の特殊性を考慮する
ただし,正当事由を否定する傾向がある(後記※2)
え 襲名の特殊性
選択の余地のない同一性の必要がある
→変更はやむを得ない
お 人名用漢字外の通称名(概要)
個別的事情により許可/不許可の両方があり得る(後記※1)
※昭和43年10月福岡高裁管内家事審判官会同家庭局見解
5 人名用漢字外の通称名への変更の基本的判断基準
通称名が人名用漢字以外の文字を含むケースでの変更許可の基本的な基準をまとめます。
<人名用漢字外の通称名への変更の基本的判断基準(※1)>
あ 基本的事項
長期間使用した通称名に人名用漢字外が含まれる場合
→変更の可否を『い・う』の事情により考慮・判断する
い 客観的な妥当性
将来その個人の徴表として通用するのに適当かどうか
う 社会的な認識
長期使用された名と本人との同一性についての社会的認識の程度
え 難読・難解な通称名
変更を希望する通称名が難解・難読である場合
→原則として社会的定着性が否定される
→『い・う』が否定される方向である
→許可されるべきではない
※斎藤秀夫ほか『注解 家事審判規則(特別家事審判規則)改訂』青林書院1994年p510
6 人名用漢字外の通称名への変更許可の傾向
人名用漢字以外の文字を含む通称名への変更は,使用期間と文字の難しさの程度が判断に大きな影響を及ぼします。
10年程度の使用期間があると,特に難しい文字ではない限り許可される傾向があります。
<人名用漢字外の通称名への変更許可の傾向>
あ 具体的事例
10年以上通称名を使用している
社会生活上その人の同一認識の標準となっている
用いられている文字が戸籍法にいう常用平易な文字ではない
特にむずかしい文字でない限り,当分の間改名を許可すべきである
※昭和24年1月25日大阪家裁家事部決議
い 同趣旨の見解
『あ』の判断内容と同趣旨の裁判例・見解は多く存在する
※東京高裁昭和39年11月6日
※宮崎家裁昭和47年5月13日
※名古屋高裁昭和52年12月19日
※昭和26年8月13日家甲143号最高裁家庭局長回答
※谷口知平『新版 戸籍法 法律学全集25−1』有斐閣1957年p141
※青木義人ほか『全訂 戸籍法』日本評論社1982年p443
7 人名用漢字外の神官・僧侶名への変更許可基準
神官・僧侶としての名が人名用漢字以外の文字を含むケースもよくあります。
このような名への変更については,許可されない傾向が強いです。
要するに,宗教的な背景を考慮しない傾向があるといえます。
<人名用漢字外の神官・僧侶名への変更許可基準(※2)>
あ 人名用漢字外の名
神官・僧侶としての名に人名用漢字外が含まれる
い 利害のバランスの考慮
新しく名を付ける場合に準じて多少の不便を忍ぶべきである
→国の国語政策に協力すべきである
通名という理由で許した場合
→結局制限を免れる手段に用いられることにつながる
制限外の平易な字という基準をどこに求めるのかが困難となる
う 結論
変更を許可すべきではない
※千種達夫『氏の変更 中川善之助教授還暦記念・家族法大系1』有斐閣1959年p265
※昭和25年4月25日大阪家裁家事部決議;同趣旨
8 難解・難読な通称名への変更の実例(概要)
通称名が難解・難読といえるようなケースは結構多くあります。
実際には難解や難読の程度の判断が画一的ではなく,判断のブレは大きいです。
実際に判断された事例については別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|難解・難読な通称名への変更(裁判例の集約)
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