【離婚後の氏の変更許可申立(裁判例の集約)】
1 離婚後の氏の変更(総論)
2 続称後の婚姻前の氏への変更(肯定裁判例)
3 復氏後の婚姻中の氏への変更(肯定裁判例)
4 夫婦の氏変更後の離婚における実質的復氏(肯定裁判例)
5 家裁の許可による氏変更と復氏の適用
1 離婚後の氏の変更(総論)
離婚に伴う復氏と姓の継続使用の選択ができる制度があります。
詳しくはこちら|婚姻と離婚による苗字(姓・氏)の変化(夫婦同姓・離婚時の復氏・続称届)
この選択の期限後には、家裁の氏の変更の許可を得る必要があります。
詳しくはこちら|離婚後に氏(苗字)を変更する家庭裁判所の許可手続の許可基準
本記事では、離婚後の氏の変更を判断した裁判例を紹介します。
2 続称後の婚姻前の氏への変更(肯定裁判例)
離婚時にいったん続称届を提出して、後から結婚前の姓に戻すことにしたケースです。
家裁は、このカテゴリの変更をほぼすべて許可しています。
詳しくはこちら|離婚後に氏(苗字)を変更する家庭裁判所の許可手続の許可基準
変更を許可した多くの裁判例の中から1つを紹介します。
<続称後の婚姻前の氏への変更(肯定裁判例)>
あ 離婚と婚姻姓の選択
婚姻をした
妻は夫の姓を選択した
協議離婚をした
元妻は婚姻姓の継続使用を選択した
い 元の姓の通称使用
元妻は実家に戻った
実際には実家の姓を使っていた
う 新たな子の出生(特殊事情)
元夫とは別の男性との間に子を出生した
え 裁判所の判断
(子からみた)母の通称・祖父母が同じ姓に揃うことが望ましい
変更を許可した
※名古屋高決平成7年1月31日
3 復氏後の婚姻中の氏への変更(肯定裁判例)
前述のケースと逆方向のケースもあります。つまり、離婚の時に婚姻前の苗字に戻して、その後に、状況が変わって婚姻中の苗字を使うことにしたいという状況です。これを認めた裁判例を照会します。
なお、このような事案の裁判例はほとんどみあたりません。おそらく、大部分は第1審で認められ、そのまま確定しているので公表されない、ということになっていると思われます。
詳しくはこちら|離婚後に氏(苗字)を変更する家庭裁判所の許可手続の許可基準
<復氏後の婚姻中の氏への変更(肯定裁判例)>
妻は離婚に際し婚氏を継続使用する意思をもっていたが、別れた夫の要請で離婚届出を控えているうちに法定期間を徒過し婚氏継続使用の届出ができなかったこと、本件申立ては、法定の3か月の期間より2か月余りを経過したに過ぎない時点でされているのみならず、その間妻は乙川の氏(婚姻中の氏)で社会生活を営んでいたので、乙川に改氏させても妻の同一性に関する識別について社会に混乱を生じさせるおそれはないこと、妻はすでに18年間以上も乙川の氏を称してきたのであり、教師として、また、2児の親権者として乙川の氏の継続使用をする実際上の必要性が存することの諸事情が認められるのであって、これを前示説示に照らすときは、・・・氏の変更許可の申立ては、戸籍法第107条第1項のやむを得ない事由があるものとして許可するのが相当であると判断される。
※東京高決平成元年2月15日
4 夫婦の氏変更後の離婚における実質的復氏(肯定裁判例)
夫婦は同じ姓にすることが強要されています。
詳しくはこちら|夫婦同姓と離婚に伴う復氏・続称届の基本
この制約の範囲内で、『夫婦が揃って姓を変更する』ことが許可されることもあります。
この後離婚すると、姓の法的扱いが難しくなります。
まず『復氏』が適用されなくなるのです。
そこで以前の姓に戻るためには、氏の変更許可の手続が必要なのです。
このようなケースについて氏の変更を許可した裁判例です。
<夫婦の氏変更後の離婚における実質的復氏(肯定裁判例)>
あ 婚姻後の選択姓の変更
男Aと女Bが婚姻した
夫婦は妻Bの姓を選択した(※1)
夫婦は家裁の許可を得て夫Aの姓に変更した
詳しくはこちら|夫婦同姓の制度の問題点(全体)と不都合を避ける方法
い 離婚と婚姻姓の継続
A・Bは協議離婚した
Bには復氏が適用されない(後記※2)
BはAの姓のままであった
Bは実家に戻った
Bは両親の姓に戻したい
う 裁判所の判断
変更を許可した
※宇都宮家裁平成7年9月22日
え 解釈
仮に最初から夫の姓を選択していた場合
→自由に復氏ができた
このこととの整合性にも配慮された
※村重慶一『精選 戸籍法判例解説』日本加除出版2007年p111
お 夫婦同姓強制問題
『夫婦同姓』が強制される問題が表面化している
『夫婦別姓』を求める動きの前触れと言える
詳しくはこちら|夫婦同姓の制度の問題点(全体)と不都合を避ける方法
5 家裁の許可による氏変更と復氏の適用
夫婦がそろって氏を変更することがありますが、その場合は復氏の制度が適用されません。
前記の裁判例の判断の前提となっている法的扱いです。
復氏が適用されない理由をまとめます。
<家裁の許可による氏変更と復氏の適用(※2)>
あ 復氏の要件
復氏の対象者は次のように規定されている
『婚姻によって氏を改めた』夫or妻
※民法767条1項
い 夫婦での氏変更との関係
前記事案のAについて
婚姻時に『氏を改めた』わけではない(前記※1)
『氏が変わった』のは婚姻後の家裁の許可による
→『復氏』(あ)が適用されない
本記事では、離婚後に氏(苗字)を結婚前の氏に戻す手続について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応は違ってきます。
実際に離婚後の苗字の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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