【父or母の独断での命名後の名の訂正・変更の裁判例集約】
1 独断命名後の名の訂正・変更の裁判例集約(総論)
2 父独断での命名後の変更(許可判断)
3 父独断の命名後の変更(許可判断)
4 父出張中の母独断の『精子』命名後の変更(許可判断)
5 おじ推奨+母決断の命名後の変更(許可判断)
6 父母の伝達ミスによる命名後の変更(許可判断)
7 母独断の命名後の訂正(許可判断)
1 独断命名後の名の訂正・変更の裁判例集約(総論)
本来,共同親権の父母は協議して出生児の名を決めます。
しかし,父母の一方が独断で命名してしまうことも実際にあります。
原則的に出生届は有効となり,その後の修正は名の変更や訂正という手続になります。
つまり,家裁の許可が必要になるのです。
詳しくはこちら|戸籍『訂正』の手続と名の『訂正』の問題点(基本)
詳しくはこちら|違法な命名(独断命名・人名用漢字外)と『訂正or変更』の振り分け
本記事では,父か母の独断での命名後の名の変更や訂正の実例を紹介します。
2 父独断での命名後の変更(許可判断)
父が独断で命名したケースです。
裁判所は,父・母の間の仲違いを避けることを重視し,名の変更を許可しました。
<父独断での命名後の変更(許可判断)>
あ 父独断での命名
父が一存で子の名を決定した
出生届を提出した
命名に関して父母にいさかいが生じた
い 命名の意見一致
父母双方で命名について意見が一致した
名の変更許可の申立をした
う 裁判所の判断
父母の間にいさかいを残すことは子の将来にとって望ましくない
未だ乳児で名の変更による社会的影響も少ない
→変更を許可した
※東京高裁昭和51年12月8日
3 父独断の命名後の変更(許可判断)
父が独断で命名したケースです。
別の名への変更許可申立が出生届の1か月以内になされました。
スピーディーであったことが変更許可につながっています。
<父独断の命名後の変更(許可判断)>
あ 事案
命名について父母間で十分協議がなされなかった
父の独断により命名がなされた
出生届の提出・受理がなされた
その直後に父・母で協議した
別の名の命名について意見が一致した
家裁に名の変更許可の申立をした
申立は出生届提出後1か月以内であった
い 裁判所の判断
命名後の非常に早期の申立である
名の社会的関連,定着を生じる程度はほぼゼロである
→変更を許可した
※鳥取家裁米子支部昭和42年2月16日
4 父出張中の母独断の『精子』命名後の変更(許可判断)
父が出張中であったため,母は独断で命名したケースです。
通信手段が現在のように発達していなかったからこそ生じたトラブルです。
なお,母は『精子』と命名しました。
裁判所は名前自体は不便・支障を生じないと判断しています。
裁判所は,父の意向が反映されていないことを重視して変更を許可しました。
<父出張中の母独断の『精子』命名後の変更(許可判断)>
あ 命名に関する両親の意見不一致
女児が誕生した
父母で命名を考えていたが意見が食い違っていた
父の意見=『家を整える』→『整子』
母の意見=『精神の強い子になれ』→『精子』
い 母独断での『精子』命名
父は漁船のドック入りのため沖縄に2か月間の出張が始まった
母は独断で『精子』の命名で出生届を提出した
う 両親が改めて協議→後悔
父は沖縄出張が終わり,戻ってきた
父は『精子』命名を知って,強く反対した
『精子』の兄・姉も反対した
そこで『精子』は『せい子』という表記を用いるようになった
え 名の変更許可申立
正式に『精子』から『整子』に変更する許可申立がなされた
お 裁判所の判断
出生届は有効である
客観的には不便や支障はあまりない
親権者は子の名の命名の自由を有する
親権者の心情も無視することはできない
→変更を許可した
※那覇家裁昭和47年10月30日
5 おじ推奨+母決断の命名後の変更(許可判断)
命名のプロセスで,母の兄(出生児のおじ)の意向が反映されてしまったケースです。
父の希望する名よりもおじの希望が優先された結果となりました。
出生後約4か月の時点からは父の希望する名を実際に使っていました。
子自身も父の希望する名に反応するようになっていました。
裁判所は,このような事情を考慮して名の変更を許可しました。
<おじ推奨+母決断の命名後の変更(許可判断)>
あ 母独断での命名
母は出産の前から実家に戻っていた
父は従前の住居にとどまった
父母は別居している状態になった
父は『男児ならば『吉政』がよい』と母に手紙で伝えた
母も『吉政』を気に入った
母は男児Aを出産した
母の兄Bが『高也』の名が良いと主張した
出産費用の負担など,母は兄Bに世話になっていた
そこで,不本意ながら『高也』の名で出生届を提出してしまった
父は出生届の名が『高也』であることを知らなかった
い 戸籍名の封印
その後,父母は子とともに同居する状態に戻った
子Aの生後約4か月であった
その後,父母は子Aのことを『吉政』と呼んでいた
子Aは『高也』と呼んでも反応しなくなっていた
『吉政』と呼んだ時だけ反応していた
近所も『吉政』で通している
父母ともに『吉政』という命名に合意している
う 裁判所の判断
出生届は有効である
その後,戸籍名以外の名への変更を父母ともに望んでいる
戸籍名は社会生活上未だ定着していない
→正当事由がある
→変更を許可した
※山形家裁鶴岡支部昭和57年11月29日
6 父母の伝達ミスによる命名後の変更(許可判断)
以上の事案は父か母が独断で命名したというものでした。
これと似ているケースとして,命名について,父と母の間の伝達ミスが生じたというものがあります。
命名自体に勘違いがあったということになります。
裁判所は,出生届は有効であると判断しました。
その上で,名の変更として許可しました。
<父母の伝達ミスによる命名後の変更(許可判断)>
あ 誤った命名
子の出生当時,父は出張中であった
父は出張先から母に対して『幸次郎』の命名を指示した
母は産後日が浅く多忙であり混乱していた
母は,父の指示を『幸次』であると勘違いした
母は,『幸次』の名に賛成して出生届に『幸次』と記載した
母は出生届を提出し,受理された
い 命名の修正
後日,父母が協議した
『幸次郎』の命名について意見が一致した
う 出生届・命名の有効性判断
共同親権者が協議の上命名すべきである
その一方の意思のみに基づくものについて
→届出は有効であるが命名は違法である
え 名の変更許可の判断基準
親権者の双方が協議の上改めて名を定めた場合
特段の事情がない限り正当な事由がある
特段の事情の例=改名に伴う弊害が顕著である
お 裁判所の判断(結論)
名の変更を許可した
※函館家裁昭和45年10月22日
7 母独断の命名後の訂正(許可判断)
以上の事案は名の変更として許可したというものでした。
この点,名の変更ではなく訂正が許可された実例もあります。
<母独断の命名後の訂正(許可判断)>
あ 母独断での命名
子の出生前,父は母に『美里』の命名を希望すると伝えた
子が出生した
母は独断で『佐世』の名で出生届を提出した
戸籍に『佐世』が名として記録された
い 父母の協議による意見の一致
その後,父母が協議した
『美里』の命名をすることで意見が一致した
う 戸籍訂正の申立
家裁に戸籍訂正許可の申立をした
え 出生届の有効性判断
『佐世』の名の出生届について
親権者2名の協議がなかった
→無効である
お 訂正許可の判断
『美里』の名への訂正について
親権者2名の一致した意見である
→訂正を許可した
※大阪家裁岸和田支部昭和41年3月2日
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