【更新料特約の法定更新への適用(更新料支払義務)の有無】
1 更新料特約の法定更新への適用(更新料支払義務)の有無
借地契約において、更新料の支払の合意(特約)がなされることがあります。
詳しくはこちら|更新料支払合意(特約)の基本(種類・法的問題の分類)
本記事では、更新料の特約が法定更新でも適用されるのかという問題を説明します。
つまり、法定更新でも更新料支払義務があるのかどうか、ということです。
2 法定更新における更新料特約の効力
借地契約の中に、法定更新の場合にも更新料支払義務があるという特約があった場合に、これを否定とする発想もありますが、有効とする見解の方が現在では一般的です。
これはあくまでも法定更新の場合にも更新料を支払う、という合意があった場合が前提です。具体的な特約が合意更新の場合だけ(更新料を支払う)と読み取れる場合には、法定更新の場合には更新料支払義務はないという扱いになります。
法定更新における更新料特約の効力
あ 前提事情
地主と借地人が法定更新の場合にも更新料を支払う特約(合意)をした
い 法定更新には適用しない判断
法定更新においては更新料支払義務はない
合意した更新料を借地人が支払わないことについて
→法定更新には影響がない
※東京高裁昭和45年12月18日
詳しくはこちら|更新料支払特約に反する不払による解除の有効性
※東京地裁昭和59年6月7日(同趣旨)
※東京地裁昭和51年9月14日(同趣旨)
う 法定更新にも適用する判断
更新料支払の特約が法定更新の場合にも適用されるかは、当該特約の解釈の問題であり、法定更新の場合にも支払う旨が定められているときはその支払が認められるべきであろうが、その旨の定めがない場合には原則として法定更新の場合は適用がないと解すべきであろう
※澤野順彦著『論点 借地借家法』青林書院2013年p270
※平成11年6月28日参照(後記※1)
3 更新料を合意更新に限定する文言の認定
前述のように、法定更新の場合にも更新料の支払義務があるのかどうかは、結局、特約の解釈(読み取り方)によって決まる、といえます。更新料の特約の文言の解釈をした裁判例を紹介します。
この事案では、特約の文言が合意更新だけを想定しているように読めるものでした。
そこで、裁判所は法定更新には適用されないと判断しました。
この判断を裏返すと、特約の文言が法定更新も含むと読み取れるものであれば、法定更新の場合にも更新料支払義務がある、ということになります。このことを前提とした判断であると思えます。
更新料を合意更新に限定する文言の認定(※1)
あ 更新料の特約の内容
『本契約期間満了のとき賃借人において更新契約を希望するときは賃貸地の時価の2割の範囲内の更新料を賃貸人に支払い更新契約をなすべきことを当事者間において予約した』
い 裁判所の判断(認定)
『更新契約』という合意による更新を前提とする文言や『賃貸地の時価の2割の範囲内の更新料』という当事者間の協議を前提とする文言が用いられていることなどを勘案して判断すると、合意による更新を前提とする特約であると解することが相当である。
(更新料の特約は法定更新には適用されない)
※東京高判平成11年6月28日
4 法定更新における既払い更新料の返還請求
前記の裁判例の判断には、まだ続きがあります。実際には借地人が一定の更新料を支払っていたのです。
これについて、借地人は無効な特約によって払ったことを理由に、返還を請求したのです。裁判所は結論として、信義則によって返還請求を否定しました。
これを裏返すと、更新料特約が適用されない状況であるにも関わらず更新料を支払った場合には、(原則として)返還請求が認められる、ということになります。
法定更新における既払い更新料の返還請求
あ 事案
地主と借地人が更新料支払の合意(特約)をした(前記※1)
期間満了が到来した
地主は土地の時価の5%相当額を請求した
借地人は賃料約1か月分(20万円)を支払った
更新の合意には至っていない
=法定更新であった
借地人は支払済の更新料の返還を請求した
い 更新料合意の内容の判断
更新料についての当事者間の合意の成立に向けて
真摯な協議を尽くすべき信義則上の義務がある
う 返還請求の判断
(法定更新には更新料請求権が成立しないとしても)
借地人は真摯な協議を尽くしていなかった
既に支払った更新料の返還を請求することについて
→信義則上許されない
※東京高判平成11年6月28日
5 借家における更新料合意の有効性(参考)
以上のように、借地において法定更新にも更新料合意が適用されるかどうかの画一的な公的判断がない状態です。
参考として、借家については、法定更新も含めた更新料の合意が有効であるという裁判例があります。
借地と借家で異なるので注意が必要です。
借家における更新料合意の有効性(参考)
本記事では、借地契約の更新料の特約が法定更新の場合にも適用されるかどうか、という問題を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地の更新料に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。