【建物の『滅失』の意味と判断基準(新旧法共通)】
1 建物の『滅失』の意味・解釈と判断基準(総論)
2 建物の『滅失』による生じる効果(前提・概要)
3 『滅失』の一般的な意味
4 実務的な『滅失』の判断基準
5 『滅失』の判断の対立が生じる状況
6 『滅失』の判断が難しい典型例
7 滅失や再築の解釈によるバリエーション(概要)
1 建物の『滅失』の意味・解釈と判断基準(総論)
旧借地法と借地借家法では、建物の『滅失』によって期間延長や解約がなされるというルールがあります。
いずれも地主と借地人にとって非常に大きな結果です。
そこで、実務では建物の『滅失』に該当するかどうかについて見解の対立が生じるケースがよくあります。
本記事では、建物の『滅失』の基本的な意味(解釈)と、実務における判断基準について説明します。
2 建物の『滅失』による生じる効果(前提・概要)
建物の『滅失』が借地の期間延長や解約につながることがあります。
借地の開始時期によって適用されるルールが異なります。
多少複雑なところですので、関係する規定をまとめて整理しておきます。
<建物の『滅失』による生じる効果(前提・概要)>
あ 旧借地法の再築→期間延長(概要)
平成4年8月より前に開始した借地について
建物再築(滅失+築造)について地主の異議がない場合
→借地の存続期間が延長される
※借地法7条、借地借家法改正附則7条
詳しくはこちら|旧借地法における異議のない建物再築による期間延長(基本)
い 借地借家法の再築→期間延長(概要)
建物再築(滅失+築造)について地主の承諾がある場合
→借地の存続期間が延長される
詳しくはこちら|借地借家法における承諾のある建物再築による期間延長
う 借地借家法の再築→解約(概要)(※1)
更新後(第2ラウンド)に借地人が建物を再築(滅失+築造)した
地主の承諾がない場合
→地主は解約できる
平成4年8月より前に開始した借地については適用されない
※借地借家法8条2項、3項、改正附則7条2項
詳しくはこちら|借地借家法の借地上の建物の滅失や再築による解約(全体・趣旨)
3 『滅失』の一般的な意味
建物の『滅失』とは、一般的な日本語の意味としては、建物が、その寿命よりも前に消滅することです。人為的な消滅(解体)も、自然災害や事故による消滅も含みます。登記実務でもこのような解釈がとられています。
<『滅失』の一般的な意味>
あ 一般的な「滅失」の意味
第三者または自然力による、建物の寿命前の消滅である
物理的な建物の効用の喪失である
い 自然による滅失の具体例
自然災害・事故により
例=地震、火災、風水害など
倒壊、損傷、流失、焼失した
※水本浩ほか『基本法コンメンタール 借地借家法 第2版増補版』日本評論社2009年p28、188
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第3版』日本評論社2010年p56、57
う 登記手続上の「滅失」の意味(参考)
(登記手続上の)建物の「滅失」とは、建物が物理的に壊滅して社会通念上建物としての存在を失うことであつて、その壊滅の原因は自然的であると人為的であるとを問わない
※最判昭和62年7月9日
詳しくはこちら|建物の移動(移築・再築・曳行)における建物の同一性・「滅失」該当性
4 実務的な『滅失』の判断基準
現実の事案において、『滅失』の有無を明確に判断できないことは多くあります。
基本的な判断の方法の枠組みとしては、社会的・経済的効用を評価するということになります。
当然ですが、判断をする者(裁判官)による一定のブレは存在します。
<実務的な『滅失』の判断基準>
建物を全体として観察する
建物としての社会的・経済的効用が失われていないかどうかについて
→総合的に判断する
※『コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2003年p131、132
5 『滅失』の判断の対立が生じる状況
『滅失』が法律的な効果を生じる場面は3つあります(前記)。
実際に『滅失』といえるかどうか、が対立しやすいのは、そのうち『解約』が主張されるような状況です。
<『滅失』の判断の対立が生じる状況>
建物の『滅失(+再築)』による解約(前記※1)の主張において
『滅失』にあたるかどうかの判断による現実的効果が非常に大きい
→『滅失』の判断について熾烈な見解の対立が生じやすい
※『コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2003年p131、132
6 『滅失』の判断が難しい典型例
実際に、具体的な建物の状況から『滅失』といえるかどうかの判断が難しいケースもとても多くあります。
老朽化の程度が進んでいるとか、一部は完全に失われたが部分的には損傷なく残っているような状況です。
<『滅失』の判断が難しい典型例>
あ 著しい老朽化
建物が著しく老朽化している
既に相当腐朽が進んでいる
建物としての形はとどめている
建物としての効用はほとんど失われている
い 消失の割合
火災で建物の約2分の1が焼失した
※『コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2003年p131、132
7 滅失や再築の解釈によるバリエーション(概要)
滅失やその後の建物の築造(再築)については、ほかにもいろいろな解釈があります。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物の『滅失』と再築(築造)の解釈とバリエーション(新旧法共通)
本記事では、借地関係における建物の「滅失」の意味と判断基準を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地上の建物「滅失」(老朽化や建替え)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。