【借地借家法の借地上の建物の滅失や再築による解約(全体・趣旨)】
1 借地借家法の借地上の建物の滅失や再築による解約(全体・趣旨)
借地借家法(新法)の借地に関するルールには、旧借地法とは大きく異なるものがあります。それは更新後の建物再築に関するルールです。これは、借地借家法の基本方針が具体化されたものといえます。
本記事では、更新後の建物再築のルールの全体像や趣旨(基本方針)を説明します。
2 借地借家法の建物滅失や再築による解約(まとめ)
この制度は多少複雑になっていますので、最初に要点をまとめます。まず、この解約の制度が適用されるのは、更新後だけです。
最初の更新の前と後で扱いを変える、というは借地法になかった特徴的なものです。分かりやすく「第1ラウンド」、「第2ラウンド」と呼ぶこともあります。
まず、第2ラウンドに建物が滅失すると、借地人が解約できます。常識的には借地人が自ら借地契約を酋長させることはあり得ないのですが、再築が制限されているため、それだったら借地を続けても無駄に地代が発生するだけなので解約することもある、という意味で規定が作られています。
次に、建物が滅失した後に、地主の承諾がないのに借地人が建物を再築(築造)すると、今度は地主が解約できます。こちらのルールの方が現実に影響が大きいところ、改正の重要なところです。
借地借家法の建物滅失や再築による解約(まとめ)
あ 建物滅失時期(更新前後)による違い
建物の滅失の時期 解約の制度 更新前(第1ステージ) なし 更新後(第2ステージ) あり
い 建物滅失による解約の種類
状況 解約できる者 建物の滅失 借地人 承諾なしの再築 地主
3 更新後の再築を制限する趣旨=借地借家法の基本方針
前述のように、更新後は、借地人が建物を再築しようとしても、地主の承諾が必要です。旧借地法では再築は本来自由ですが、多くの借地契約には増改築禁止特約がついているので地主の承諾が必要なのは同じです。
この点、借地借家法では裁判所による再築許可の制度、旧借地法では裁判所による増改築許可の制度があり、再築(改築)の制限を突破する道があります。この点、旧借地法の増改築許可は原則として許可が出るのに対して、借地借家法の再築許可はハードルが高い、つまり原則として許可しない、という設定になっています(後述)。
というのは、借地借家法の基本設計として、第1ラウンドの期間は保障するけれど、第2ラウンドに入ったら、本来の期間は終えているのであるからなるべく早く終わらせる(長引かせない)という方針がとられているのです。
更新後の再築を制限する趣旨=借地借家法の基本方針
あ 更新後の再築における解約の制度の趣旨
(注・借地借家法8条=解約の制度について)
旧法にはこのような規定は存在しない。
更新後の借地権の存続期間を短くし、建物滅失後の再築による期間延長(更新)を借地権設定者の承諾にかかわらせたことは、端的にいえば、更新後の借地権はなるべく早期に消滅すべきものとする立法政策的配慮に基づくものといえる。
※稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p54
い 更新後の再築についての裁判所の許可制度の趣旨
(注・借地借家法18条=再築許可の制度について)
本法の立法者は、借地権は一定の期間存続を保障されれば、なるべく早期に解消されることを期待し、それが合理的な借地関係であると考えていたようである。
※澤野順彦稿/稻本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第4版』日本評論社2019年p142
4 借地借家法の更新後の建物再築に関するルールの要点
建物再築による解約の制度については重要なところなので、改めて整理しておきます。旧借地法では更新前であろうと更新後であろうと同じように借地人が保護されていましたが、借地借家法(新法)では強い保護は更新前に限定されたのです。
借地借家法の更新後の建物再築に関するルールの要点
あ 更新後(第2ラウンド)の扱い
更新後(第2ラウンド)について
解約できる制度を作った
い 更新前(第1ラウンド)の扱い
更新前(第1ラウンド)について
借地権(借地人)を強く保護する
借地権の強い保護は更新前に限定する
5 建物滅失による解約の新旧法の適用の振り分け
前述のように、更新後の建物再築に関するルールは旧借地法と借地借家法(新法)で大きく異なります。ところで実際には特定の借地契約について、旧借地法と借地借家法のどちらが適用されるかが問題となることもあります。簡単にいえば、最初の契約(借地の開始時期)で決まります。借地借家法の施行日(平成4年8月1日)よりも前であれば旧借地法が適用されます。この日以降に最初の借地契約が始まった場合には借地借家法の適用となります。
建物滅失による解約の新旧法の適用の振り分け(※2)
あ 旧借地法の規定(前提)
旧借地法において
建物の滅失や再築による解約の制度は存在しなかった
い 建物滅失による解約の適用範囲
建物滅失や再築による解約の規定(借地借家法8条)について
借地借家法の施行前に設定された借地権には適用しない
※改正附則7条2項
う 借地借家法の施行日
平成4年8月1日
※改正附則1条
※平成4年政令25号
6 建物の滅失・再築による解約が実現する時期
前述のように、建物の再築による解約の制度は、新法時代(平成4年8月以降)に開始した借地だけが対象です。しかも、更新後に限定されています。
結果的に、少なくとも平成34年(令和4年)8月までは解約がなされること自体が生じません。そこで、現時点(令和6年5月)では、実例、つまり裁判例の蓄積はほとんどない状況です。
建物の滅失・再築による解約が実現する時期
あ 前提事情
建物の滅失や再築による解約には『ア・イ』の前提条件がある
ア 借地借家法施行後の借地開始
平成4年8月以降に借地が開始した(前記※2)
イ 初回更新後
1度目の期間満了後である
期間の最低限は30年である
詳しくはこちら|借地借家法の借地期間の基本(法定期間は30年→20年→10年)
い 滅失や再築による解約が実現する時期
最速でも平成34年(令和4年)8月に解約ができるようになる
平成34年(令和4年)8月より前には解約がなされることはない
7 建物の再築による解約の規定と基本的解釈(概要)
借地上の建物の再築による解約の条文規定には細かい要件が決められています。
条文の規定の内容や、その基本的な解釈については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|借地借家法の借地上建物の滅失・再築による解約の規定と基本的解釈
8 承諾に代わる裁判所の再築許可(概要)
前述のように、第2ラウンドで建物の再築に地主が承諾してくれない場合、再築を強行すると、地主は解約できることになります。借地を長引かせない方針が実現した状態ですが、状況によっては借地人を保護する必要があることもあります。そこで、裁判所の判断で再築を許可する制度も用意されています。
詳しくはこちら|借地借家法(新法)の更新後の建物再築許可手続の基本
しかし、裁判所が容易に許可を出したら、基本方針が実現しません。そこで、裁判所が許可を出せるのはやむを得ない事情がある場合だけ、となっています。つまり特殊な事情がある場合にだけ例外的に許可が出る、という設計になっているのです。
詳しくはこちら|借地借家法(新法)の更新後の建物再築許可の実質的要件(判断基準)
9 関連テーマ
(1)再築と増改築禁止特約(概要)
再築について地主が解約できるのは更新後(第2ラウンド)に限定されます。更新前(第1ラウンド)や旧法時代の借地には解約は適用されません。とはいっても、借地人が自由に再築をできるとは限りません。特約で禁止(制限)されていることも多いです。
再築と増改築禁止特約(概要)
あ 更新前と解約の規定
更新前(第1ラウンド)において
借地人が『建物を再築すること』について
→地主の承諾がなくても解約は適用されない(前記※1)
い 旧法時代の借地と解約の規定(参考)
旧法時代の借地について
更新前と後の両方とも解約は適用されない(前記※2)
う 増改築禁止特約による制限
解約(あ・い)とは別に
増改築禁止特約がある場合
再築(建物の滅失後の築造)は増改築に含まれる
詳しくはこちら|増改築禁止特約における『増改築』の意味と解釈
→無断での再築は特約違反になる
→解除の対象となる
ただし、解除は制限される傾向もある
詳しくはこちら|借地契約の増改築禁止特約の有効性と違反への解除の効力
え 増改築許可による違反の回避
『う』の場合
地主の承諾に代わる裁判所の許可の制度を利用できる
詳しくはこちら|再築禁止特約と増改築許可の利用(新旧法共通)
※水本浩ほか『基本法コンメンタール 借地借家法 第2版補訂版』2009年p28
(2)再築の承諾による期間延長(概要)
更新後の建物の再築のルールとは別に、地主が建物再築を承諾した場合は借地期間が延長される、というルールもあります。これは旧借地法時代のルールが借地借家法に引き継がれた、つまり実質的に旧法、新法で違いはないといえます。
詳しくはこちら|借地借家法における承諾のある建物再築による期間延長
本記事では、借地借家法(新法)における更新後の建物再築に関するルールや基本方針について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地上の建物の工事(再築、増改築、大規模修繕)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。