【借地条件変更・増改築許可の審理における考慮事項】
1 借地条件変更・増改築許可の考慮事項(総論)
2 借地条件変更・増改築許可の考慮事情
3 借地の残存期間の考慮(概要)
4 土地の状況の考慮
5 従前の経緯の考慮
6 その他の事情の考慮
7 鑑定委員会の意見(概要)
8 増改築許可の要件(判断基準;概要)
1 借地条件変更・増改築許可の考慮事項(総論)
借地条件変更や増改築許可の裁判において,考慮すべき事情が法律上規定されています。
本記事では,これらの裁判の審理における考慮事情について説明します。
2 借地条件変更・増改築許可の考慮事情
まず,必ず考慮すべき事情として規定されているものをまとめます。
明示されている事情は必ず考慮すべきものです。
<借地条件変更・増改築許可の考慮事情>
あ 基本的事項
借地条件変更・増改築許可・付随的裁判のいずれの審理でも
『い』の3つの事情は常に考慮される
い 必須考慮事情
ア 借地権の残存期間(後記※1)イ 土地の状況(後記※2)ウ 借地に関する従前の経過(後記※3)
※借地借家法17条4条
※星野英一『法律学全集26 借地・借家法』有斐閣1969年p179
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p124
う 付随的な考慮事情
『その他一切の事情』(後記※4)を考慮する
※借地借家法17条4項
え 考慮事情と判断基準(補足)
『い・う』の規定は『考慮事情(の種類)』を示すものである
許可(や条件変更を)するorしないという判断基準は示されていない
3 借地の残存期間の考慮(概要)
借地条件変更・増改築許可の裁判では,借地の残存期間は必ず考慮されます(前記)。
要するに,残存期間が短いと,それだけで棄却となるということです。
詳しい内容は別の記事で説明しています。
<借地の残存期間の考慮(概要;※1)>
あ 短い残存期間
借地の残存期間が短い場合
→原則的に棄却となる
例外もある
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p218;借地条件変更について
い 旧借地法の朽廃が近い
旧借地法が適用される借地について
建物の朽廃が近い場合
→原則的に棄却となる
詳しくはこちら|借地条件変更・増改築許可の審理における残存期間の影響
4 土地の状況の考慮
土地の状況も必ず考慮される事情の1つです(前記)。
ここでは,考慮する事情の内容を整理しておきます。
判断結果との結びつきが規定されている(判断基準)というわけではありません。
<土地の状況の考慮(※2)>
あ 基本的事項
対象土地の具体的状況を考慮する
※借地借家法17条4項
内容は『い・う』がある
い 物理的状況
例;土地の広さ,形状,地盤の強度,隣地との位置関係など
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p220
う 社会的状況
周囲,隣地の状況など
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p125
5 従前の経緯の考慮
借地に関する従前の経緯も,必ず考慮される事情です(前記)。
考慮する事情の具体例をまとめておきます。
判断結果との結びつき(判断基準)ではありません。
<従前の経緯の考慮(※3)>
あ 基本的事項
借地に関する従前の経緯を考慮する
地主と借地人との間に存在した現在までの種々の事情である
※借地借家法17条4項
い 内容の具体例
ア 契約成立の事情・経緯イ 経過した契約の継続期間ウ 権利金や更新料の授受やその額エ 地代などの授受の状況
例;不払いの有無
オ 土地の利用状況・その推移カ 借地に関する従前の事実関係
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p125
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p220
6 その他の事情の考慮
以上の事情が必ず考慮される事情の種類でした。
条文上,『その他一切の事情』も考慮事項として規定されています。
考慮すべき事情が前記のものに限定されるわけではないので当然といえます。
その他の事情のうち典型的なものをまとめます。
<その他の事情の考慮(※4)>
あ 基本的事項
『その他一切の事情』を考慮する
※借地借家法17条4項
い 内容の具体例
ア 裁判を必要とする程度
借地条件の変更や増改築について
借地人の必要の程度
イ 地主の不利益の程度
借地条件の変更や増改築を認めることによる
地主の不利益の程度
ウ 利害調整
例;財産給付を命じれられる当事者の資力
エ 当該地方の慣習
社会的・公益的見地からの判断など
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p125
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p220
7 鑑定委員会の意見(概要)
借地条件変更・増改築許可の審理において,鑑定委員会が関与します。
鑑定委員会の意見を聴くということが法律上規定されているのです。
解釈としては,付随的裁判の判断において鑑定委員会の意見が必須とされています。
ただし,鑑定委員会の意見は裁判所を拘束するわけではありません。
あくまでも参考であり,裁判所が鑑定委員会とは異なる判断をすることは可能です。
とはいっても実務では,鑑定委員会の意見と同じ裁判結果となることが多いです。
実務では,鑑定委員会の意見作成前の段階の,資料提出や主張によって有利な意見を勝ち取ることが重要です。
<→★鑑定委員会(借地非訟全体)
8 増改築許可の要件(判断基準;概要)
以上の説明は審理において考慮される事情の種類や審理のプロセスに関するものでした。
増改築の許可の審理における許可の判断基準(要件)については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|借地上の建物の増改築許可の要件(形式的・実質的判断基準)