【借地上の建物の増改築許可の承諾料の相場(財産上の給付の金額)】
1 増改築許可の承諾料の相場(総論)
増改築禁止特約がある借地について、裁判所が増改築を許可するという手続があります。
詳しくはこちら|借地条件変更・増改築許可の裁判手続(基本・新旧法振り分け)
裁判所が増改築を許可する裁判をするときには、通常借地人が金銭を支払うことがセットとなります。
法律上は財産上の給付と呼びます。いわゆる承諾料に相当するものです。
本記事では増改築許可に伴う承諾料(財産上の給付)の金額について説明します。
2 旧法時代・全面改築の承諾料(財産上の給付)
最初に、旧法時代の借地(借地法が適用される借地=平成4年7月以前に開始した借地)であり、増改築禁止特約がある場合に、建物の全面的な改築をするということを想定します。
この場合の承諾料(財産上の給付)は更地の3%相当額が目安(標準)となります。
旧法時代・全面改築の承諾料(財産上の給付)
あ 基本的な相場
財産上の給付(承諾料)の金額について
全面改築の場合
→原則として更地価格の3%である
※市川太志『借地非訟事件の処理について』/『判例タイムズ967号』p51
※水本浩ほか『基本法コンメンタール 借地借家法 第2版増補版』日本評論社2009年p60
い 特殊事情の反映
『ア・イ』のような事情がある場合
→3%(あ)より高くなる傾向がある
ア 改築による床面積の増加の程度イ 借地人の収益の増加
例=賃貸物件の建築
う 相場の分布
おおむね3〜5%の範囲内に分布する
え 特殊事情による判断の具体例
自己使用から賃貸用物件への変更を伴う場合
→更地価格の3%を超える
※市川太志『借地非訟事件の処理について』/『判例タイムズ967号』1998年p51
3 旧法時代・一部改築の承諾料(財産上の給付)
改築の工事内容が、建物の一部を対象とするケースでは、承諾料の相場は下がります。
旧法時代・一部改築の承諾料(財産上の給付)
あ 割合の傾向
全面改築に至らない場合
増改築の程度に応じて更地基準の割合が決まる
更地価格の1%前後を中心にして分布する
3%が上限である
※市川太志『借地非訟事件の処理について』/『判例タイムズ967号』1998年p51
い 単純化した算定式
次の算定方法を採る裁判例も多い
3% × 増改築部分の床面積/全体の床面積
※市川太志『借地非訟事件の処理について』/『判例タイムズ967号』1998年p51、52
4 増改築の承諾料と更新料の関係
たとえば、直近(過去)の借地契約更新の時に、多額の更新料の支払があったケースでは、(今回の)増改築の承諾料は減額されるべきだ、という発想があります。
しかし一般的には、増改築の承諾料の金額の算定において、過去の更新料の支払実績を考慮することは否定されています。
借地条件変更の承諾料でも同じ考え方がとられています。
増改築の承諾料と更新料の関係
あ 基本的事項
更新料は考慮すべきではない
※東京地裁平成9年7月3日
※東京地裁平成9年8月12日
※市川太志『借地非訟事件の処理について』/『判例タイムズ967号』1998年p52
い 借地条件変更の承諾料と更新料の関係(参考)
借地条件変更の裁判に伴う財産上の給付(承諾料)について
更新料は考慮しない
詳しくはこちら|借地条件変更の承諾料(財産上の給付の裁判例集約)
『あ』もこれと同じ考え方である
5 増改築許可の財産上の給付と過去の承諾料
借地上の建物の増改築は、複数回行われることもよくあります。
この場合、過去に承諾料が支払われたことの扱いが問題となります。
この点、増改築の許可は、個々の増改築の工事が対象となるものです。
そこで、過去の増改築の際の承諾料については考慮されません。
増改築許可の財産上の給付と過去の承諾料
あ 増改築の承諾料の対応関係
複数回の増改築における承諾料について
各時期の増改築の内容に応じて金額が判断される
い 過去の承諾料の考慮
増改築許可に伴う財産的給付について
→過去の承諾料の支払は考慮しない
※東京地裁昭和56年2月2日
※市川太志『借地非訟事件の処理について』/『判例タイムズ967号』1998年p52
6 更地価格(評価)の算定(概要)
増改築許可の承諾料(財産上の給付)の算定では、更地の評価額がベースとなります(前記)。
実務では、算定方法については意見が一致しているけれど、更地の評価額について見解が熾烈に対立することも多いです。
更地の評価の方法については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|不動産(土地)の評価額の基本(実勢価格・時価・不動産鑑定評価・売出価格・成約価格)
7 増改築許可の承諾料相場(裁判例集約・概要)
増改築許可の裁判では、多くのケースで更地の3%相当額が承諾料として算定されています。
特殊事情によって、これより高い、または低い算定がなされた事例も多くあります。
例外的な事情は、多くの裁判例の事案の中にあります。
裁判例の内容については、別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|建物全面の増改築の承諾料(財産上の給付の裁判例集約)
また、改築の対象が建物の一部だけというケースでは承諾料も低くなります(前記)。
具体的な事例について判断したいくつかの裁判例については、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物の一部の改築の承諾料(財産上の給付の裁判例集約)
8 新法時代の借地の建物再築の承諾料の相場(概要)
新法時代の借地(借地借家法が適用される借地=平成4年8月以降に始まった借地)では、再築に関して、旧法とは違うルールが適用されます。
それは、増改築禁止特約がなかったとしても、更新後(第2ラウンド以降)は、地主の承諾がないと再築ができないのです。正確にいうと、無断で再築すると解約されることになっているのです。
この点、裁判所が再築を許可する制度は、旧法と同様にあります。
しかし、新法の基本設計は、再築(建替え)によって建物の寿命が伸びることを否定するという方向性になっています。
そこで、(旧法よりは)許可されない傾向が強く、許可する場合にも、旧法よりも承諾料(財産上の給付)は多額になるはずです。
目安としては、旧法時代の借地条件変更と同じ程度、つまり、更地の評価額の10%相当額が流用されると思われます。
新法時代の借地の建物再築の承諾料の相場
あ 裁判所による再築の承諾料算定が生じる状況
ア 再築許可の裁判
平成34年(令和4年)8月までは新法(借地借家法)上の再築許可の実例が生じない
詳しくはこちら|借地上の建物の再築許可の裁判制度の基本(趣旨・新旧法の違い)
イ 増改築許可の手続の流用
増改築許可の裁判において
再築が許可されることは現在でもある
詳しくはこちら|再築禁止特約と増改築許可の利用(新旧法共通)
い 再築の承諾料の相場
建物の再築の承諾料に関する
裁判所や当事者の合意の相場について
→原則として更地評価額の10%相当額である
詳しくはこちら|借地借家法(新法)における更新後の建物再築の承諾料相場(再築許可の財産上の給付)
本記事では、借地上の建物の増改築の承諾料の相場を説明しました。
実際には、個別的な事情によって法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地上の建物の増改築(建替え)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。