【建物の『滅失』と再築(築造)の解釈とバリエーション(新旧法共通)】
1 建物の滅失や再築の解釈によるバリエーション(総論)
建物の『滅失』や、滅失後の築造(再築)によって、借地期間の延長や解約がなされることがあります。
詳しくはこちら|建物の『滅失』の意味と判断基準(新旧法共通)
実務には、日本語としての『滅失』や『再築(築造)』の意味だけでは判定できないようなケースもあります。
そこで、建物の『滅失』やその後の再築については、いろいろな法律的な解釈があります。
解釈によって、『滅失』や『再築』にはいろいろな種類の行為が含まれるのです。
本記事では、『滅失』や『再築』の解釈について説明します。
2 人為的な取壊しと『滅失』
建物を借地人が意図的に取り壊したことも『滅失』に含みます。
旧借地法の時代には最高裁判例でこのような解釈が示されました。
借地借家法では、この判例を踏まえて、条文の中に規定されています。
人為的な取壊しと『滅失』
あ 旧借地法の解釈
旧借地法の『滅失』について
借地人による任意の取壊しも『滅失』に含まれる
※最高裁昭和38年5月21日
い 借地借家法の『滅失』について
条文規定において
借地人の取壊しを含むと定義されている
※借地借家法7条1項
3 段階的な解体と滅失
具体的な工法によっては『滅失』(や築造)に該当するかどうかが曖昧なこともあります。
段階的な解体方法について、最高裁は『滅失』に該当すると判断しています。
段階的な解体と滅失
あ 事案
新建物の建築工事と並行して旧建物を順次取り壊した
新建物完成の時に旧建物を全部取り壊したことになった
い 裁判所の判断
建物の『滅失』に該当する
※最高裁昭和50年9月11日
4 大規模修繕が再築(滅失+築造)にあたるかどうか(概要)
ところで、建物を完全に解体(滅失)しない修繕の範囲でも、規模が大きい場合には再築(滅失+築造)と同じ扱いとする見解もあります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|借地上の建物の大規模修繕は再築(滅失・築造)にあたるかどうか
5 旧借地法の『朽廃』と『滅失』の関係
旧借地法には、一定の場合、建物の『朽廃』により借地権が消滅するという規定がありました。
『朽廃』と『滅失』は似ているともいえますが、異なる概念です。
包含関係としては、『滅失』が『朽廃』を包含するという関係にあります。
これはこれらの言葉の意味する内容の関係のことです。
法的には『朽廃』と『滅失』で、それぞれ別の規定が適用されます。
当然、別個独立の法的効果が発生することになります。
旧借地法の『朽廃』と『滅失』の関係
あ 『朽廃』と『滅失』の包含関係
借地法における『朽廃』について
詳しくはこちら|旧借地法における建物の朽廃による借地の終了(借地権消滅)
→『滅失』に含まれる
※水本浩ほか『基本法コンメンタール 借地借家法 第2版補訂版』2009年p28
い 『朽廃』と『滅失』の法的効果
建物の『朽廃』と『滅失』について
法律上の扱い(生じる効果)は別である
6 建物の朽廃後の残存期間内の再築
旧借地法では、建物の朽廃によって借地が終了することがあります。
一方、合意した借地期間がある場合は、建物が朽廃しても借地は終了しません。
借地人としては、朽廃した建物を撤去して新たに建物を新築する発想が生じます。
このようなケースでも、再築(滅失+築造)として扱われます。
建物の朽廃後の残存期間内の再築
あ 朽廃による残存期間(前提)
借地期間の合意がある場合
=法定期間ではない
→建物が朽廃しても借地権が消滅しない
=残存期間について借地権は存続する
※借地法2条2項
詳しくはこちら|旧借地法における建物の朽廃による借地の終了(借地権消滅)
い 朽廃後の再築の扱い
『あ』の残存期間において借地人が建物を再築した場合
→『滅失と築造』として扱う
=借地法7条1項が適用される
→地主の異議がないと期間が延長される
詳しくはこちら|旧借地法における異議のない建物再築による期間延長(基本)
※鈴木禄弥『借地法(上)改訂版』青林書院1980年p367
※水本浩ほか『基本法コンメンタール 借地借家法 第2版増補版』日本評論社2009年p188
本記事では、借地上の建物の「滅失」や「再築」の意味(解釈)について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地上の建物の解体、増改築など、借地に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。