【借地借家法(新法)の更新後の建物再築許可の実質的要件(判断基準)】
1 借地借家法(新法)の更新後の建物再築許可の実質的要件(判断基準)
借地借家法では、初回の更新後(第2ラウンド)における建物の再築について、裁判所が許可する手続があります。
詳しくはこちら|借地借家法(新法)の更新後の建物再築許可手続の基本
裁判所が再築を許可するかしないか、という実質的な判断の基準や考慮する事情が条文上決められています。
また、判断する際には鑑定委員会の関与が必要です。
本記事では、再築許可の実質的要件や鑑定委員会の関与について説明します。
2 条文上の要件
(1)借地借家法18条1項の条文
最初に条文を確認します。再築許可の実質的要件はやむを得ない事情があるとしか書かれていません。
借地借家法18条1項の条文
※借地借家法18条1項
(2)他の借地非訟制度の条文上の要件(文言)との比較
条文上の記述はシンプルなので、他の類似する制度の条文と比較してみます。借地条件変更、増改築許可の要件は「相当」という記述です。「相当」よりも「やむを得ない事情がある」の方がハードルが高いことになります。
他の裁判所の許可制度の条文上の要件(文言)との比較
あ 借地条件変更
建物の種類、構造、規模又は用途を制限する旨の借地条件がある場合において、法令による土地利用の規制の変更、付近の土地の利用状況の変化その他の事情の変更により現に借地権を設定するにおいてはその借地条件と異なる建物の所有を目的とすることが相当であるにもかかわらず、借地条件の変更につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、当事者の申立てにより、その借地条件を変更することができる。
※借地借家法17条1項
い 増改築許可
増改築を制限する旨の借地条件がある場合において、土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、その増改築についての借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。
※借地借家法17条2項
3 借地借家法の基本方針=更新後は長引かせない(概要)
以上のように、再築許可の要件は厳しく設定されていますが、これは、借地借家法における借地の基本方針と直結しています。基本方針とは、更新後については借地を長引かせないというものです。その具体的ルールが、地主の承諾がない建物再築があったら解約できるというルールと、これに対する救済手段として裁判所が許可する制度では、あくまでも特殊事情がある場合にだけ例外的に許可するというルールなのです。
詳しくはこちら|借地借家法の借地上の建物の滅失や再築による解約(全体・趣旨)
4 実質的要件の解釈
(1)コンメンタール借地借家法
以上のように条文上の実質的要件はシンプルですので、これについて解釈を紹介します。
最初に、コンメンタール借地借家法は、借地人側の事情と地主側の事情の比較で判定する、という見解をとっています。借地人側の事情とは建物を再築する理由で、地主側の事情とは承諾しない事情です。承諾しない事情とは、地主自身が土地を使う必要性のようにも読めます。いずれにしても基準としてはとても抽象的です。
コンメンタール借地借家法
あ 借地人と地主の事情の比較→超過が必要
したがって、この「やむを得ない事情」は、借地権者が建物を再築せざるをえない理由が、借地権設定者が再築の承諾をしない事情を超える場合でなければならない。
い 借地借家法18条2項→総合考慮
結局、「やむを得ない事情」の有無は、建物の状況、建物の滅失があった場合には滅失に至った事情、借地に関する従前の経過、当事者双方が土地の使用を必要とする事情その他一切の事情を考慮して判断することになる(本条2項)。
う 付随的裁判の内容→比較に含む
逆説的にいえば、やむをえない事情は、これらの事情のほか、再築が認められる場合の延長される期間の長短(裁判所は代諾許可にあたり、7条1項の規定による期間と異なる期間を定めることができる)、他の借地条件の変更、財産給付の額などにより、相対的に判断されるべきものと解される。
え まとめ→総合考慮
結局、「やむを得ない事情」は、借地権者が建物を再築して土地の使用を継続する必要性について、諸事情を比較考量して決定することになろう。
※澤野順彦稿/稻本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第4版』日本評論社2019年p138
5 実務解説借地借家法
実務解説借地借家法は判断基準としての解釈は示していません。他の借地非訟よりも要件が厳しいという指摘はしています。また、許可される具体例として火災や地震によって建物が滅失したケースを指摘しています。これは、借地人側に落ち度がないにもかかわらず、借地を建物敷地として使えない状況は救済する、という考え方です。
一方、単に建物が老朽化した、ということでは再築は許可されないという指摘もしています。仮に老朽化だけで許可するとしたら増改築許可と同じになってしまうので、そのとおりだと思います。
実務解説借地借家法
あ 条文の文言(やむを得ない)→「相当」よりも厳しい
「やむを得ない事情」は、条件変更申立て認容の要件である「条件変更が相当である」ことや、増改築許可申立ての認容の要件である「増改築を相当とする」ことよりも、狭く厳しい要件である。
い 許可される典型例→火災や地震による滅失
当然のことながら、現時点ではいまだ裁判例がないが、火災(借地権者自身の出火による場合を除く)、地震等による滅失の場合は「やむを得ない事情」があると解される場合が多いと思われる(借地借家法制研究会編『(改訂版)一問一答新しい借地借家法』69頁、生熊・前掲書895頁)。
う 老朽化・朽廃→否定方向
しかし、単に建物が老朽化したという場合やすでに建物が朽廃したという場合には、「やむを得ない事情」があるとは解されない可能性が高い。
※澤野順彦編『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p235
6 新基本法コンメンタール借地借家法
新基本法コンメンタールは更新拒絶の正当事由と同じ(類似する)という見解をとっています。大雑把にいうと当該土地を使用する必要性について、借地人と地主を比べるというものです。更新拒絶の正当事由の判定の実情は原則として否定される、特殊な事情があって初めて認められる、しかも明渡料の支払も必要という傾向が強いです。
詳しくはこちら|借地の更新拒絶・終了における『正当事由』・4つの判断要素の整理
再築許可の要件を正当事由と同じとすれば、原則として許可されない、特殊な事情があり、かつ、借地人が権利金に相当する程度の対価を支払った場合に(支払うことを条件に)初めて許可されるということになります。
新基本法コンメンタール借地借家法
あ 正当事由同義説の紹介
本条の「やむを得ない事情」の意味につき、学説には、更新拒絶について用いられる「正当の事由」(旧借地40・6、旧借家1/2、本法6・28)と同義であるとするもの(条文と解説132頁以下、基本コンメ63頁[石外=田山〕園部・前掲30頁)、
い 比較(超過)説の紹介
「借地権者が建物を再築せざるをえない理由が、借地権設定者が再築の承諾をしない事情を超える場合」とするもの(稻本=澤野編・コンメンタール131頁〔澤野〕)がある。
う 「やむを得ない」のオリジン→定期借家中途解約権からの転用
「やむを得ない事情」という文言は、「正当の事由」とは異なり、旧借地法・旧借家法には存在しておらず、本法において、本条と38条の2か条のみで新たに採用された表現である(なお、38条の定期建物賃貸借は「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」[平11法153〕5条により新設された制度で、その5項にある定期建物賃貸借の賃借人の中途解約権に関する「転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情」の文言は、本法の原始規定38条1項の期限付建物質貸借〔賃貸人の不在期間の建物賃貸借〕における賃貸人の「転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情」の文言を、賃借人の事情にそのまま転用したものである)。
え 執筆者見解→正当事由同義または類似
かかる経緯からすれば、「正当の事由」と「やむを得ない事情」とは別概念とも考えられるが、しかし、本条1項の「やむを得ない事情」の有無の認定要素・判断材料につき、本条2項の掲げる「一切の事情」の例示は、更新拒絶の「正当の事由」にほぼ等しいので、少なくとも本条1項の「やむを得ない事情」に関しては、更新拒絶の「正当の事由」と同義ないし類似の概念と解してよかろう。
ただし、更新拒絶の「正当の事由」については、借地権設定者が主張・立証責任を負うのに対して、本条1項の「やむを得ない事情」については、建物再築許可申立事件の申立人である借地権者が主張・立証責任を負う(園部・前掲31頁)。
※七戸克彦稿/『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p111
7 再築許可の判断において考慮する事情(判断材料)(概要)
ところで、再築許可の判断で考慮する事情、つまり判断材料についてはその例が条文に記述されています。いずれにしても、多くの事情が考慮されることになっています。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|借地借家法における更新後の建物再築許可で考慮する事情
本記事では、借地借家法(新法)の借地における再築許可の実質的要件について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地における建物の再築や増改築に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。