【借地借家法における更新後の建物再築許可で考慮する事情】
1 借地借家法における更新後の建物再築許可で考慮する事情
借地借家法(新法)が適用される借地では、最初の更新後(第2ラウンド)に建物の再築をする場合、地主の承諾がないと解約できることになっています。そこで、地主の承諾の代わりに裁判所が許可する制度があります。
詳しくはこちら|借地借家法(新法)の更新後の建物再築許可手続の基本
裁判所は「やむを得ない事情」がある場合に許可を出します。
詳しくはこちら|借地借家法(新法)の更新後の建物再築許可の実質的要件(判断基準)
この点、裁判所が判断するために考慮する事情の例が条文に記述されています。本記事では、建物再築許可の手続で裁判所が考慮する事情(判断材料)について説明します。
2 借地借家法18条2項の条文
裁判所が考慮する事情は、借地借家法18条2項に書いてあります。最初に条文を確認しておきます。あくまでも例として4つが書いてあり、それを含めた一切の事情を考慮する、ということになっています。
借地借家法18条2項の条文
※借地借家法18条2項
3 考慮の必要性→附随処分含めて必須
以上のように、4つの事項は条文上、考慮が必須となっています。これらが考慮されなかった(決定書上登場していない)場合には、その決定は違法ということになります。
考慮の必要性→附随処分含めて必須
したがって、これらの諸事情が明確に認定できるにもかかわらず、これを考慮しないでなされた裁判は違法となる。
※澤野順彦稿/稻本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第4版』日本評論社2019年p142
4 建物の状況
条文上登場した、考慮する事情を順に説明します。まず建物の状況があります。
建物の状況
あ 基本的事項
建物の状況について
→再築許可の判断事情の1つである
内容として『い・う』の事情がある
い 建物の現況
建物の種類、構造、規模、用途
建物の腐朽の程度
う 建物の利用状況
現実に使用されているか否か
第三者に賃貸されているか
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p131
5 滅失に至った事情
(1)滅失に至った事情の基本的解釈
滅失に至った事情も考慮する事情としてして挙げられています。建物が滅失しているケースではこれも考慮されます。
滅失に至った事情の基本的解釈
あ 基本的事項
建物が滅失(後記※1)している場合
滅失に至った事情について
→再築許可の判断事情の1つである
内容として『い・う』の事情がある
い 滅失に至った原因
滅失するに至った直接の理由
例;火災による焼失、地震などの天災による倒壊、人為的取壊し、朽廃
う 滅失の原因が生じた事情
ア 火災のケース
他からの延焼であるか自らの失火であるか
イ 失火のケース
過失の程度
ウ 人為的取壊しのケース
建物を取壊した現実的な理由によって判断する(後記※2)
人為的取壊しは借地人の関与の程度が非常に大きい
→実質的要件(やむを得ない事情)の判断に大きく影響する
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p132
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p235、236
(2)建物の「滅失」の意味(概要)
建物の「滅失」は消滅というような意味です。ただし、解釈によって、適用される範囲はやや拡がっています。
建物の「滅失」の意味(概要)(※1)
あ 基本的事項
建物の『滅失』とは建物が消滅することである
詳しくはこちら|建物の『滅失』の意味と判断基準(新旧法共通)
『滅失』には『い』のすべてが含まれる
い 滅失の典型的種類
ア 自然的な原因による建物の倒壊イ 建物としての効用が失われたウ 人為的な取り壊し
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p131
詳しくはこちら|建物の『滅失』と再築(築造)の解釈とバリエーション(新旧法共通)
(3)人為的取壊しの理由の例
借地人が以前の建物を取壊したケースでは、その理由は再築許可の判断において重視されます。
人為的取壊しの理由の例(※2)
あ 法律上の取壊し義務
法律上取り壊すことがやむを得ないケース
例;土地区画整理・土地収用
い 朽廃による借地権消滅の回避
平成4年8月より前に開始した借地について
朽廃による借地権の消滅を防ぐ目的で再築するケース
詳しくはこちら|旧借地法における建物の朽廃による借地の終了(借地権消滅)
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p132
6 借地に関する従前の経過
借地に関する従前の経過も考慮する事情として挙げられています。文字どおり、幅広い事情が判断に影響します。
借地に関する従前の経過
あ 基本的事情
『借地に関する従前の経過』について
→再築許可の判断事情の1つである
い 『借地に関する従前の経過』の基本的解釈
借地権存続中に生じたあらゆる契約関係・事実関係をいう
う 『借地に関する従前の経過』の具体例
契約締結の経緯・事情
借地契約の内容
借地権設定に際しての一時金の授受の有無・程度
地代の額・改定の経緯
契約更新の有無・更新料授受の有無・程度
借地に対する借地人の寄与・貢献の有無
土地or借地上の建物の利用状況
借地人の契約違反の内容・程度
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p132
7 土地の使用を必要とする事情(正当事由)
再築許可の判断では、地主と借地人が土地の使用を必要とする事情が考慮されます。これは、借地契約更新を止める場面(更新拒絶)での正当事由と同じです。再築が許可されるのは例外である、という基本方針が現れているといえます。
土地の使用を必要とする事情(正当事由)
あ 基本的事項
地主・借地人が土地の使用を必要とする事情について
→再築許可の判断事情の1つである
い 正当事由との同一性
『あ』の事情について
→更新拒絶の正当事由の有無を判断する事情である
詳しくはこちら|借地の更新拒絶・終了における『正当事由』・4つの判断要素の整理
う 趣旨
再築許可は地主の解約権(借地借家法8条2項)に対応している
→再築許可の判断において実質的な更新の妥当性を考慮する
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p130〜132
8 その他一切の事情
条文上、考慮する事情の最後に、その他一切の事情が記述されています。つまり、その前の4つの事項はあくまでも例であって、この4つに限られない、という意味になります。
その他の事情のうち典型的なものをまとめます。
その他一切の事情
あ 基本的事項
『その他一切の事情』について
→再築許可の判断事情の1つである
『い・う』のような具体例がある
い 社会・経済情勢の動向
更新後の建物再築に関する土地・建物の客観的状況
当事者の主観的事情
借地or建物需給の過不足
地価の高低
借地権価格発生の有無・程度
う その他の事情
再築に関し借地人が申し出た承諾料の額
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p133
本記事では、借地借家法(新法)が適用されるケースにおける更新後の建物再築の裁判で考慮する事情について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
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