【鉄道高架下店舗への借地借家法の適用(肯定判例)】
1 鉄道高架下店舗の『借家』該当性(総論)
2 鉄道高架下施設と旧借家法の適用(事案全体)
3 高架下施設全体の『建物』該当性の判断
4 貸与店舗の『建物』該当性の判断
5 借地借家法『建物』の判断基準(概要)
6 店舗貸与の契約の性格
7 解約申入の効果(結論)
1 鉄道高架下店舗の『借家』該当性(総論)
場所やスペースと貸すことが『借家』となることもあります。
『借家』だと借地借家法(や旧借家法)の適用があり,借主が強く保護されます。
詳しくはこちら|借地借家法による借家の保護の主な内容と借家の種類
そこで,『借家』に該当するかしないかの意見の対立が生じることがよくあります。
本記事では,鉄道高架下の店舗について,最高裁が『借家』であると認めた判例を紹介します。
2 鉄道高架下施設と旧借家法の適用(事案全体)
まずは事案の全体的な内容だけをまとめます。
理論的な主な対立は『借家』に該当するかどうか,ということでした。
<鉄道高架下施設と旧借家法の適用(事案全体)>
あ 店舗貸与と解約申入
AはBに鉄道高架下施設の一部を店舗として貸与した
その後,Aは解約申入を行った
い 旧借家法の適用の主張
Bは旧借家法の適用を主張した
→解約申入は旧借家法によって無効であると主張した
※最高裁平成4年2月6日
3 高架下施設全体の『建物』該当性の判断
最初に,裁判所は,貸した店舗を含む,高架下施設の全体は『建物』に該当すると判断しました。
<高架下施設全体の『建物』該当性の判断>
あ 高架下施設全体の状況
土地に定着している
周壁を有している
鉄道高架を屋根としている
い 裁判所の判断
永続して営業のために用いることができる
→旧借家法の『建物』に該当する
※最高裁平成4年2月6日
4 貸与店舗の『建物』該当性の判断
貸与した店舗は,前記の『建物』の一部といえます。
この『建物』を区分けした一部が『建物』といえるかどうかということについて,次に判断します。
この判定については,過去の判例の基準を使って,『建物』にあたると判断しました。
<貸与店舗の『建物』該当性の判断>
あ 貸与店舗の状況
貸与店舗は,高架下施設の一部を区切ったものである
隣の区画とは区分けについて
→ブロックにベニヤを張った壁によって客観的に区別されている
い 裁判所の判断
独立的,排他的な支配が可能である
→旧借家法の『建物』に該当する(後記※1)
※最高裁平成4年2月6日
5 借地借家法『建物』の判断基準(概要)
前記のように,旧借家法の『建物』の判断基準については,昭和42年の最高裁判例で示されています。
借地借家法の『建物』の判断にも該当する基準です。
<借地借家法の『建物』の判断基準(概要)(※1)>
あ 基本的事項
建物の一部であっても
『い』の内容の両方に該当する場合
→旧借家法の『建物』に該当する
い 『建物』の判断基準
ア 障壁その他によって他の部分と区画されているイ 独占的排他的支配が可能な構造・規模を有する
※最高裁判所昭和42年6月2日;旧借家法について
詳しくはこちら|借地借家法の『建物』(借家該当性)の判断基準の基本
6 店舗貸与の契約の性格
このケースでは,経営委託契約という性格も主張されました。
しかし,最高裁は賃貸借契約の性格であると判断しました。
<店舗貸与の契約の性格>
あ 契約の名目と法的性格
『経営委託契約』という名目があった
しかし法的には店舗と店舗内備品の賃貸借契約である
い 旧借家法の適用
店舗の賃貸借については旧借家法の適用がある
※最高裁平成4年2月6日
7 解約申入の効果(結論)
以上のように,このケースの店舗の貸与は建物賃貸借,つまり『借家』であると判断されました。
借地借家法が適用されるので,解約申入は大幅に制限されます。
正当事由がない限り解約申入はできないのです。
結果的に解約申入は無効であると判断されました。
借地借家法の借主保護が具体化したといえます。
<解約申入の効果(結論)>
あ 解約申入までの経緯
店舗貸与の契約は,既に期間満了が到来していた
その後,期間の定めのない賃貸借として更新された
オーナーは店舗貸与の契約の解約申入を通知した
い 解約申入の法的位置づけ
店舗貸与の契約は旧借家法の適用がある
→解約申入には正当事由が必要である
詳しくはこちら|建物賃貸借終了の正当事由の内容|基本|必要な場面・各要素の比重
う 解約申入の効果
正当事由は認められない
→解約申入は効力を生じない
=建物賃貸借契約は存続している
※最高裁平成4年2月6日