【借地条件変更の裁判制度の意義と時代変化に伴う変遷】
1 借地条件変更の裁判制度の意義と変化(総論)
2 借地条件変更の典型例
3 旧借地法における借地条件の規定
4 防火施策の普及による条件変更裁判の創設
5 条件変更裁判の対象の拡大の歴史
1 借地条件変更の裁判制度の意義と変化(総論)
借地において,現在では通常,『借地条件』が決められています。
状況によっては借地条件を変更する必要が生じます。
必要があるのに地主が承諾してくれないと困るので,裁判所が許可する制度が作られています。
借地条件変更の裁判は,時代とともに変わってきています。
ところで,いろいろな裁判例を分析する時に,その当時のルールの内容が関係してきます。
つまり,過去の借地条件変更の制度が変化してきた経緯は解釈で使われるのです。
本記事では,借地条件変更の裁判の制度が作られた経緯とその後の変化について説明します。
2 借地条件変更の典型例
まず,借地条件を変更する必要が生じる典型例を紹介します。
<借地条件変更の典型例>
あ 借地条件の典型例
借地上の建物は,木造建物に限る
い ニーズの例
借地のエリアが防火地域に指定された
周辺はほぼすべての建物が防火機能のある建物である
借地人は建物を鉄筋の建物に建て替えたい
→借地条件を変更する必要がある
3 旧借地法における借地条件の規定
旧法(旧借地権)の時代の主な借地条件としては『堅固建物所有』と『非堅固建物所有』の2つがありました。
非堅固建物所有目的の借地とは,要するに建物が木造に限定されているという意味です。
ほとんどの借地が非堅固建物所有目的となっていました。
<旧借地法における借地条件の規定>
あ 堅固・非堅固による存続期間の区別
旧借地法における存続期間について
堅固建物所有目的と非堅固建物所有目的を区別していた
※借地法2条,5条,7条
い 非堅固の原則
非堅固建物所有目的を原則としていた
※借地法3条
4 防火施策の普及による条件変更裁判の創設
かつては,すべての住居が木造であった時代でした。
その後,時代は変わり,防火地域の指定が進みました。
その結果,エリアによっては木造建物が少ないところも出てきました。
エリア全体の防災の点からも,木造は好ましくないという状況も生じたのです。
そこで昭和2年に,防火地域を対象に,裁判所が条件変更をできる制度が作られました。
<防火施策の普及による条件変更裁判の創設>
あ 非堅固建物借地の不合理性
非堅固建物所有目的の場合
地主が変更に承諾(同意)しない限り
堅固建物を建てられなかった
い 防火施策の普及
防火地域の指定がなされた場合
→堅固建物の建築が好ましい
う 条件変更裁判制度の創設
昭和2年
裁判所による条件変更の裁判ができるようになった
※防火地域内借地権処理法
5 条件変更裁判の対象の拡大の歴史
昭和2年に作られた制度では,借地条件変更の裁判の対象は防火地域だけでした。
昭和40年頃になると,防火とは関係なく,テクノロジーの進化から,建物の高層化が進みました。
社会的な経済という点からも,土地の有効活用として高層化は好ましいものです。
そこで昭和41年に,防火地域でなくても,裁判所が借地条件を変更できる制度が作られました。
この時の制度で変更できるのは『非堅固建物所有目的』を『堅固建物所有目的』にするものだけでした。
その後,借地借家法制定により,平成4年からはもっと広く,一般的に建物に関する借地条件を裁判所が変更できるようになりました。
<条件変更裁判の対象の拡大の歴史>
あ 高層化の普及
昭和40年頃にかけて
建物の高層化が進んだ
い 堅固建物借地への条件変更事由の拡大
昭和41年
借地法の一部の改正が行われた
堅固建物借地への条件変更の裁判について
広く,かつ,一般的な事情を理由として行えることとなった
※借地法8条の2第1項
う 条件変更裁判の対象外
堅固建物借地への変更以外の内容について
→借地条件の変更はできなかった
例;建物の用途を制限する借地条件
え 条件変更の対象の拡大
平成4年
借地借家法が施行された
旧借地法の条件変更の裁判の対象をさらに拡張した
対象=建物の種類,構造,規模,用途を制限する旨の借地条件
※借地借家法17条1項