【建物の大規模な修繕と朽廃時期の推定による借地権の消滅(判例)】
1 朽廃時期の推定による借地権消滅(総論)
2 借地の状況と無断での修繕工事
3 建物の修繕の内容
4 裁判所の判断
5 判例への反対説
1 朽廃時期の推定による借地権消滅(総論)
旧法時代の借地では,建物が朽廃に達すると借地権が消滅(借地が終了)します。
詳しくはこちら|旧借地法における建物の朽廃による借地の終了(借地権消滅)
地主の立場としては,朽廃に至った時点で借地権の負担がなくなり,土地が更地として戻ってくるということになります。
一方,借地人としては,借地が終了しないように建物を維持しようと思うのが通常です。
借地人が建物の大規模な修繕を行った実例がありました。
最高裁は,地主の『借地終了』への期待を保護する判断をしました。
本記事ではこのような特殊事情による判例の判断を紹介します。
2 借地の状況と無断での修繕工事
借地人が建物の修繕を行いました。
この点,特約がない限り,借地人は建物の工事を自由にできるはずです。
詳しくはこちら|借地上の建物の建築・増改築の自由と制限(借地条件・増改築禁止特約)
しかし,地主は『朽廃による借地終了の期待』があったために反対したのです。
<借地の状況と無断での修繕工事>
あ 借地の状況
借地上に木造のアパートがあった
増改築禁止特約はない(認定されていない)
い 無断の修繕
借地人は,約2か月間に渡って建物の修繕工事を行った
地主はこの工事を承諾していない
地主は繰り返し工事への反対・異議の表明を続けた(後記※1)
※最高裁昭和42年9月21日
3 建物の修繕の内容
このケースで借地人が行った建物の修繕は,基礎・土台や支柱を強化するものでした。
耐用年数が大きく延びるような内容でした。
<建物の修繕の内容>
あ 基礎・土台の補強
布コンクリートの基礎にブロックを積み上げ,セメントで固めた
基礎を約60センチメートル上げて家屋の土台を据え付けた
い 支柱の補強
支柱の腐蝕部分を切りとった
新たな支柱を継ぎ足した
う 内装
内壁の破損部分には新しいベニヤ板を補った
玄関を板張土間から腰モルタル仕上げコンクリート土間とした
え 外装
外壁部分をラス・モルタル塗りとした
軒裏・屋根を板張・柾葺から亜鉛鍍金張りに変えた
※最高裁昭和42年9月21日
4 裁判所の判断
最高裁は,修繕の規模が大きいことと,地主の繰り返しの反対・異議を重視したようです。
この修繕をなかったことにするという方法を選択しました。
つまり,修繕がなかったとすればという仮定で朽廃の時期を推定することにしたのです。
そして,推定される朽廃に至る時期に借地権が消滅するという判断をしました。
<裁判所の判断>
あ 修繕の規模
通常の修繕の域を超える(大修繕である)
い 他の事情の考慮
『ア〜オ』の事情を考慮した
ア 建物の築造後の経過イ 修繕前の状況ウ 修繕の実態エ 修繕当時の老朽の度合オ 賃貸人による反対(※1)
修繕工事の着手の前後にわたって
地主は繰り返し反対・異議を申し入れた
う 結論
修繕前の建物が朽廃すべかりし時期に借地は終了する
※最高裁昭和42年9月21日
※大判昭和9年10月15日;同趣旨
5 判例への反対説
前記の判断をした昭和42年の判例は,昭和9年の同様の内容の判例を踏襲したものといえます。
いずれにしても,本来,借地人は建物の修繕や増改築などの工事を自由にできるはずです(前記)。
実質的に工事を否定することは不合理であるという見解も多いです。
<判例への反対説>
あ 借地法の趣旨
借地法(借地借家法)全体として
建物がある限り借地権を存続させる趣旨である
この趣旨に反する判断である
い 反対説の内容
借地の終了(借地権消滅)の時期について
→現実の朽廃を基準とすべきである
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p224
※『判例タイムズ213号』p97〜;反対説の紹介