【増改築禁止特約の違反による解除の効力(裁判例集約)】

1 増改築禁止特約違反による解除の効力(総論)
2 賃貸用の改造+2階部分増築と解除(無効判例)
3 工場の廃業後の賃貸用改造と解除(無効判例)
4 焼失後の建築と解除(無効判例)
5 焼失後の新築と解除(無効裁判例)
6 改築の承諾を超える違法増築と解除(無効裁判例)
7 和解内容を超える補修工事と解除(無効裁判例)
8 築27年の木造建物の増改築と解除(無効裁判例)
9 累計4回の増改築と解除(無効裁判例)
10 裁判所の検証・鑑定直前の大修繕と解除(有効裁判例)

1 増改築禁止特約違反による解除の効力(総論)

借地人が増改築禁止特約に違反した工事を行う実例は多いです。
形式的に違反であっても解除は大幅に制限されます。
詳しくはこちら|借地契約の増改築禁止特約の有効性と違反への解除の効力
本記事では,多くの事例と,裁判所の解除の効力の判断を紹介します。

2 賃貸用の改造+2階部分増築と解除(無効判例)

最初に,賃貸用(収益物件)に改造したという事例を紹介します。

<賃貸用の改造+2階部分増築と解除(無効判例)>

あ 前提事情

増改築禁止特約があった
地主の承諾なく借地人が建物の増改築を行った
地主が解除の通知をした

い 増改築の内容

居住用建物の一部の根太などを交換した
2階部分を拡張した
アパート用居室として他人に賃貸するように改造した
居住用普通建物としては工事の前後で変化はなかった

う 解除の効力の判断

信頼関係を破壊しない
→解除の効力を生じない
※最高裁昭和41年4月21日

3 工場の廃業後の賃貸用改造と解除(無効判例)

これも賃貸用への改造が行われた事例です。

<工場の廃業後の賃貸用改造と解除(無効判例)>

あ 前提事情

増改築禁止特約があった

い 増改築に至る経緯

借地人は金属くずの回収加工販売業を行っていた
借地上に工場用建物があった
借地人の事業は経営不振となった
建物の賃貸により収入を得ることを考えた
借地人は増改築を行った

う 増改築の内容

建物内に間仕切りを作った
中2階の柱の上部に新たな柱を継いだ
2階建に改造した
4世帯分の店舗兼居室とした

え 地主による解除

地主は解除を通知した

お 解除の効力の判断(前提)

ア 相当性 借地人の土地の通常の利用上相当である
イ 地主への影響 地主に著しい影響を及ぼさない
ウ 信頼関係の破壊 借地人の一家の経済的苦境を脱するために行われた
商業地域であるため店舗としての利用は相当である
工場と比べて地主に不利・有害な影響を及ぼさない
特約は利害の考慮によって設定したものではない
→信頼関係を破壊しない

え 解除の効力の判断(結論)

解除の効力を生じない
※最高裁昭和51年6月3日

4 焼失後の建築と解除(無効判例)

火災(戦災)により建物が焼失した後の再築が無断で行われたケースです。

<焼失後の建築と解除(無効判例)>

あ 前提事情

増改築禁止特約があった

い 建物の焼失

木造2階建延床面積約40坪の建物
敷地=約58坪
戦災により建物が焼失した

う 建物の建築

借地人は約17坪の木造平家建の居住用建物を建てた
その後,別棟の木造平家建居宅11坪を建てた

え 地主の主張

地主は解除を通知した
『う』が増改築禁止特約違反であると主張した

お 解除の効力の判断

信頼関係を破壊しない
→解除の効力を生じない
※最高裁昭和44年1月31日

5 焼失後の新築と解除(無効裁判例)

火災による建物の焼失の後の再築が無断で行われたケースです。

<焼失後の新築と解除(無効裁判例)>

あ 大修繕禁止の調停条項

『ア・イ』の事項が調停条項として定められていた
ア 建物の大修繕を禁止することイ 借地人が『ア』に違反した場合は借地権を放棄したものとみなすウ 『イ』の場合,地主は直ちに建物収去土地明渡を請求できる

い 建物焼失後の建築

火災により建物の大部分が焼失した
借地人は,焼け残った材料を用いて建物を築造した

う 調停条項違反の判断(肯定)

『大修繕』には建物滅失後の新築も含む
借地人の行為は調停条項の違反に該当する

え 解除の効力の判断(前提)

火災の原因は建物の賃借人(入居者)の失火である
焼失前の建物の耐用年数は比較的長かった
築造した建物は従前の建物よりも小規模であった

お 解除の効力の判断(結論)

信頼関係を破壊しない
→解除の効力を生じない
※名古屋高裁昭和54年6月27日

6 改築の承諾を超える違法増築と解除(無効裁判例)

一定の工事について地主が承諾していました。
その承諾の範囲を超えた工事を無断でしてしまったケースです。

<改築の承諾を超える違法増築と解除(無効裁判例)>

あ 前提事情

増改築禁止特約があった
地主は改築について承諾した
借地人が無断で増築を行った
地主は解除を通知した

い 違法建築

建築確認を得ていなかった

う 増築の経緯と内容

借地人の経営する会社の従業員の居室・食堂・トイレについて
→拡張する必要が生じた
建物の1階部分の床面積を約1.4倍にした
建物の2階部分の床面積を約3倍にした

え 解除の効力の判断(前提)

地主は,改築については予め承諾していた
他の借地人に対して増築を許容していた
借地人は建物の拡張の必要に迫られていた
増築部分は仮設的な建物であった
=除却が容易であった+耐用年数が短かった

お 解除の効力の判断(結論)

信頼関係を破壊しない
→解除の効力を生じない
※東京高裁昭和52年2月24日

7 和解内容を超える補修工事と解除(無効裁判例)

裁判所の和解として,承諾する補修工事の内容が決められました。
その範囲を超えた工事を無断でしてしまったケースです。

<和解内容を超える補修工事と解除(無効裁判例)>

あ 前提事情

増改築禁止特約があった

い 仮処分手続における和解

借地人は工事妨害禁止仮処分を申し立てた
建物の補修工事に関して和解が成立した
主な補修内容=屋根・玄関ドアの補修・羽目板交換

う 和解内容を超える補修工事

借地人は建物の補修工事を行った
工事業者は広い範囲で補修することを提案した
主な工事内容=土台・柱・屋根下地板・屋根瓦の交換
借地人はこれを承諾した
和解条項の範囲を超えている

え 地主による解除

地主は調停条項に反することを理由に解除を通知した

お 解除の効力の判断

建物の『改築』に該当する
土地の通常の利用上相当である
地主に及ぼす影響が著しいとはいえない
信頼関係を破壊しない
→解除の効力を生じない
※東京高裁昭和54年7月11日

8 築27年の木造建物の増改築と解除(無効裁判例)

老朽化が進んだ建物について,無断で修復する工事が行われたケースです。

<築27年の木造建物の増改築と解除(無効裁判例)>

あ 前提事情

増改築禁止特約があった

い 増改築に至る経緯

木造の居住用建物があった
築後約27年が経過した
老朽化が進んでいた
例;著しい雨漏りが生じる
借地人は補修工事を行った

う 増改築の主要な内容(対象部分)

ア 基礎・土台・柱イ 外壁・屋根ウ 部屋の内装

え 地主による解除

地主は解除を通知した

お 解除の効力の判断(前提)

主な工事の目的は建物の維持保存である
建物の使用上の便宜や美観の多少の改善の目的は副次的である

か 解除の効力の判断(結論)

土地の利用上相当である
地主に著しい影響を及ぼさない
信頼関係を破壊しない
→解除の効力を生じない

き 借地非訟手続との関係(規範)

借地人が増改築許可の裁判の申立をしなかったことについて
→信頼関係の判断の1要素とする
=これだけで信頼関係の破壊を肯定するわけではない

く 借地非訟手続との関係(あてはめ・引用)

Tが賃借人の法律上の権利の行使として相当額の財産上の給付を命じられる可能性のある右許可の申立てという裁判上の手続に訴えることは事実上困難であるから,前示の事実関係の下においては,Tが右許可の申立てをすることなく本件改築等の工事に及んだ点を考慮しても,なお,前記の判断(注・信頼関係の破壊の否定)を左右するに足りない。
※札幌高裁昭和60年6月25日

9 累計4回の増改築と解除(無効裁判例)

これも無断での増改築がなされたケースです。
合計4回にわたって,無断での工事が繰り返されていました。
過去の分も含めて,最終的に裁判所は許容しました。

<累計4回の増改築と解除(無効裁判例)>

あ 前提事情

増改築禁止特約があった
借地人は無断で改修工事を行った
地主は承諾していなかった

い 改修工事の内容

仕出弁当の製作場として賃貸するために必要な工事

う 地主による解除

地主は無断増改築を理由に解除を通知した
解除の理由として,過去の無断増改築も含まれていた
過去の無断増改築の時期=2,6,15年前

え 解除の効力の判断

今回も含めた合計4回の無断増改築について
それぞれの工事が土地の利用上相当である
地主に著しい影響を及ぼさない
信頼関係を破壊しない
→解除の効力を生じない
※東京高裁昭和59年4月26日

10 裁判所の検証・鑑定直前の大修繕と解除(有効裁判例)

以上の裁判例はいずれも解除を否定しました。
大幅に解除が制限されることが分かると思います。
しかし,借地人に悪質な事情があると解除が有効となることもあります。
裁判所の審理を妨害したという事情により解除が認められたケースです。

<裁判所の検証・鑑定直前の大修繕と解除(有効裁判例)>

あ 地代滞納による解除と訴訟提起

借地人が地代を滞納した
地主が解除の通知をした
地主は建物収去土地明渡請求訴訟を提起した

い 裁判上の和解成立

『ア〜ウ』の内容の裁判上の和解が成立した
ア 借地を継続するイ 建物の増改築をしないウ 違反の場合には通知催告なく当然解除となる

う 借地条件変更の裁判

前面道路の都道が拡幅することとなった
借地人は建物を移転する必要が生じた
4棟の木造建物を取壊し,RC5階建の建物に建て替えることを予定した
借地人は借地条件変更を申し立てた
裁判所の審理において,検証・鑑定などの証拠調べが行われる段階になった

え 突発的な改修工事

借地人は建物の工事を行った
柱・土台・屋根の改修を含んでいた
主要構造部である
→耐用年数を著しく延長させるものであった

お 地主による解除

地主は解除を通知した
→建物収去土地明渡を請求した

か 解除の効力の判断(前提)

借地人は,自己に不利な状況を隠す目的があった
背信性が高い

き 解除の効力の判断(結論)

土地の利用上相当ではない
地主に著しい影響を及ぼす
信頼関係を破壊する
→解除の効力が生じた
→明渡請求を認めた
※東京高裁昭和54年7月30日

本記事では,借地契約の増改築禁止特約の違反を理由とした解除の効力が判断された裁判例を紹介しました。
実際には,個別的事情によって法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地上の建物の増改築に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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