【土地の抵当権と借地権の優劣(対抗関係)・市場価値への影響】
1 土地の抵当権と借地権の優劣(総論)
2 借地権と土地の抵当権の対抗関係
3 借地権を土地の抵当権に優先させる『同意の登記』(概要)
4 劣後する賃借権の保護なし(建物賃貸借との比較)
5 土地の抵当権に劣後する借地権の市場価値
1 土地の抵当権と借地権の優劣(総論)
借地権は土地に設定される抵当権と対立することがあります。
法律上の優先・劣後の関係です。対抗関係と呼びます。
本記事では,土地の抵当権と借地権の対抗関係について説明します。
2 借地権と土地の抵当権の対抗関係
土地の抵当権と借地権は対抗関係です。
優劣が対抗要件の順番で決まります。
通常の対抗要件とは,抵当権の登記と建物の登記のことです。
仮に土地の抵当権が優先となる場合は,借地権はリスキーな状況といえます。
<借地権と土地の抵当権の対抗関係>
あ 対抗関係
『ア・イ』の優劣は対抗関係である
それぞれの対抗要件の前後で優劣が決まる
― | 権利 | 対抗要件 |
ア | 借地権 | 建物の所有権登記(※1) |
イ | 土地の抵当権 | 抵当権設定登記 |
※1 土地の賃借権or地上権の登記でもよい
い 抵当権が優先されるケースの結果
土地の抵当権設定が建物の所有権登記よりも早い場合
→抵当権が優先となる
抵当権が実行された場合
→借地人は『建物収去+土地明渡』義務を負う
3 借地権を土地の抵当権に優先させる『同意の登記』(概要)
借地契約を賃締結する時点で土地に抵当権がある場合は非常にリスキーです(前記)。
これでは土地を借りる人が現れなくなってしまいます。
そこで,借地権が劣後という状態を回避する方法があります。
同意の登記という方法です。
同意の登記については,別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|建物賃貸借の対抗要件|同意の登記
建物の賃貸借を前提に説明していますが土地の賃貸借でも同じように適用されます。
ただし土地賃借権の登記が必要です。
建物所有権登記での代用では同意の登記は使えません。
4 劣後する賃借権の保護なし(建物賃貸借との比較)
対抗関係で劣後する賃借権は非常にリスキーです(前記)。
過酷なので法律上救済措置が作られていることもあります。
建物の賃借権については明渡猶予という救済措置があります。
しかし借地権については,このような救済措置がありません。
よく誤解が生じるところですので,整理しておきます。
<劣後する賃借権の保護なし(建物賃貸借との比較)>
あ 建物の賃借人保護(比較)
建物の賃借権が他の権利に劣後する場合
→明渡猶予の制度で保護される
以前の短期賃貸借保護制度が改正されたものである
詳しくはこちら|競売における明渡猶予制度(民法395条)
い 借地人の保護制度
借地(土地賃貸借)について
→(『あ』のような)保護制度はない
5 土地の抵当権に劣後する借地権の市場価値
土地の抵当権と借地権との優劣(対抗関係)は市場価値に大きな影響を及ぼします。
当然,リスキーな賃借権は買う人がいないか,いたとしても非常に安くなってしまうのです。
さらに,借地権を担保にする状況でも,大きな影響があります。
<土地の抵当権に劣後する借地権の市場価値>
あ 概要
借地権が土地の抵当権よりも劣後である場合
→『建物+借地権』の市場価値が低い
い 具体的現象
ア 売却へのブレーキ
建物+借地権の売却が非常に困難になる
イ 担保設定へのブレーキ(概要)
建物+借地権を担保とする融資が非常に困難になる
詳しくはこちら|借地上の建物と借地権への担保設定(担保価値相場・地主の融資承諾書)