【借地の権利金の性格は複数あり返還義務は原則的にない】
1 借地の権利金の性格
2 借地の権利金の返還義務
3 借地権設定の対価としての権利金
4 契約期間中の契約終了と権利金の返還
1 借地の権利金の性格
借地契約の締結時には,一般的に借地人が地主に権利金を支払います。
本記事では,借地の権利金の性格と契約終了時の返還義務について説明します。
まず,権利金の性格としては,借地権設定の対価と地代の前払いという2つの性格があります。
<借地の権利金の性格>
あ 借地権設定の対価
発生する借地権の価値に対応するものである(後記※1)
明渡の際の『借地権価格相当の明渡料』と経済的に対応する
詳しくはこちら|借地の明渡料の相場|訴訟と交渉の違い|借地権価格・正当事由充足割合
い 地代の前払い
地代の一部or全部
2 借地の権利金の返還義務
借地の権利金には原則的に返還義務はありません。
期間中に契約が終了するというような特殊事情があると,返還義務が認められる可能性もあります。
<借地の権利金の返還義務>
あ 原則
権利金は返還する義務はない
※最高裁昭和29年3月11日
い 例外
期間中に契約が終了した場合
→返還義務が認められることもあり得る(後記※2)
う 保証金・敷金との比較(参考)
保証金・敷金について
→一般的に返還義務がある
参考として,保証金や敷金は,もともと返還義務があります。
借地契約では,あまり一般的ではありませんが,保証金や敷金がまったくないわけではありません。
詳しくはこちら|買受人譲渡許可の付随的裁判(承諾料の相場・敷金の差入)
また,定期借地では保証金方式が採用されることはそれなりに多いです。
詳しくはこちら|定期借地における権利金や保証金の支払(違いと実情)
3 借地権設定の対価としての権利金
権利金には借地権設定の対価という性格もあります(前記)。
つまり,発生する=借地人が得る借地権の価格に対応するものという趣旨です。
<借地権設定の対価としての権利金(※1)>
あ 借地権の発生
一般的な借地権の設定に際しては
借地権が発生する
い 借地権に対応する権利金
借地権価格相当の権利金が授受される
詳しくはこちら|借地権評価額|基本・不動産鑑定評価基準|4種類の算定方法・組み合わせ
→経済的合理性がある
※田山輝明ほか『新基本法コンメンタール 借地借家法』日本評論社2014年p136
4 契約期間中の契約終了と権利金の返還
権利金の性格のうち地代の前払いというものを前提にすると,契約期間中で契約が終了した場合には,未消化部分を返還するということになります。
結局,権利金の性格によって返還義務があるかないか,が異なるのです。
特に定期借地では問題となることが多いです。
当初の契約の際に,このような解釈が分かれそうな事項は明確に合意して契約書に記載しておくおとが望まれます。
<契約期間中の契約終了と権利金の返還(※2)>
あ 期間中の契約終了と権利金の返還
期間中に契約が終了した場合
権利金の性格が返還義務の有無に影響する
い 地代前払いと返還義務
権利金の性格が地代前払いである場合
→権利金のうち残存期間相当部分の返還義務が生じる
※民法703条;不当利得返還請求権
う トラブル予防策
(特に定期借地において)
契約締結時に『ア・イ』を定めておくことが望ましい
ア 権利金の性格
例=『設定の対価』『前払地代』という表記
イ 契約終了時の処理方法
例=返還義務の有無・返還金額の算定方法
※建設省建設経済局宅地企画調査室『定期所有権活用マニュアル』p71〜参照
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p85参照