【借地借家法が適用される建物所有目的は主従(比重)で判断する】
1 土地賃貸借における建物所有目的の判断(総論)
2 建物所有の目的の比重による判断
3 建物所有目的が否定された土地の用途
4 建物所有目的が肯定された土地の用途
5 事業用・居住用という用途の区別はない
6 借地借家法が適用される土地の範囲(参考)
1 土地賃貸借における建物所有目的の判断(総論)
土地の賃貸借(と地上権)が建物の所有を目的とする場合は借地として借地借家法が適用されます。
詳しくはこちら|建物所有目的の土地賃貸借は『借地』として借地借家法が適用される
実際には土地賃貸借の目的が建物所有であるかどうかがはっきりしないケースもあります。
本記事では,建物所有目的の判断について説明します。
2 建物所有の目的の比重による判断
一般的に,建物は建ぺい率の制限の上限に近い設計で建築することが多いです。
このように対象の土地の全面を敷地として建物を建築,所有するケースは,建物所有目的であることに間違いありません。
しかし,賃貸借の対象の土地が広く,その一部に建物を建築する場合もあります。
事情によっては建物所有は土地全体の用途上サブ(従たる目的),ということになります。
このように,建物所有が付随的なものに過ぎない,という場合は,建物所有目的にはあたりません。
<建物所有の目的の比重による判断>
あ 主たる目的による判定
建物の築造と所有が主たる目的である場合
→建物所有の目的に該当する
い 従たる目的の位置づけ
借地上に建物を所有していても,それが借地の主たる目的でない(従たる目的である)ときは借地法の適用はない。
※幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)債権(6)増補版(復刻版)』有斐閣2011年p372
建物の築造と所有が従たる目的である場合
→建物所有の目的に該当しない
※最高裁昭和42年12月5日(借地法)
土地を利用する目的の主従は,個別的な事情を元に,建物と事業全体の関係を詳細に検討して判断します。
当然,賃貸借の対象土地全体に占める建物敷地の面積割合が重要です。
しかし,それだけではなく,実際の使用形態を元に,主たる目的が事業自体なのか,それとも,建物所有も含むのか,ということを判断しています。
3 建物所有目的が否定された土地の用途
建物所有の目的が否定された裁判例は多くのものがあります。
ただし,これらの類型的な事業内容によって判断しているわけではなく,具体的な土地利用の現状によって判断されています。
同じ種類の土地の利用状況で,別の判断となることも十分に考えられます。
<建物所有目的が否定された土地の用途>
あ バッティングセンター
※最高裁昭和50年10月2日
※東京高裁昭和48年8月31日
い ゴルフ練習場
※最高裁昭和42年12月5日
う 中古車販売店舗
※東京地裁平成7年7月26日
※東京地裁昭和54年11月28日
※東京地裁昭和43年10月28日
え 幼稚園の運動場
※最高裁平成7年6月29日
お 釣堀
※東京高裁昭和57年9月8日
か 養鱒場
※宇都宮地裁昭和54年6月20日
き 乗馬学校
※東京地裁平成9年10月15日
く 園芸用植木販売
※広島高裁平成5年5月28日
け 自動車修理・販売業
※大阪高裁昭和54年7月19日
4 建物所有目的が肯定された土地の用途
建物所有目的が認められた裁判例を紹介します。
<建物所有目的が肯定された土地の用途>
あ 自動車教習所
※最高裁昭和58年9月9日
5 事業用・居住用という用途の区別はない
以上のように,借地借家法の適用があるのは建物所有の目的の有無(主従)で判断します。
この点,土地使用の用途や所有する建物の種類については,特に限定されていません。
居住用の建物は当然として,事業用の建物でも,建物所有目的の対象となります。
例えば,店舗・事務所・工場・倉庫などについても,建物所有目的に含まれることになります。
6 借地借家法が適用される土地の範囲(参考)
以上の説明は,賃貸借の対象の土地の全体について(一体として),建物所有目的が認められるかどうか,というものでした。
この点,賃貸借の対象の土地が,物理的に2つに分けられるケースでは,一方だけ建物所有目的を認め,残りの部分について否定する,ということもあります。このように土地を分断して判定する方法については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|借地借家法が適用される土地(建物所有目的)の範囲
本記事では,土地の賃貸借において,建物所有目的といえるかどうかの判断について説明しました。
実際には,個別的事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地(土地の賃貸借)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。