【取締役などの役員が第三者(会社以外の者)に対して負う責任】
1 役員が第三者(会社以外の者)に対して負う責任
2 役員の第三者に対する責任の規定
3 役員の第三者に対する責任の趣旨
4 役員の第三者に対する責任の要件の解釈
5 役員の第三者に対する責任の損害の範囲
6 他の役員の任務懈怠による代表取締役の責任
1 役員が第三者(会社以外の者)に対して負う責任
取締役などの役員が不正な行為をすると,第三者(会社以外の者)に損害が生じることがあります。
そして,一定の範囲で,役員個人が被害を受けた第三者に対して責任を負うことになります。
旧商法と会社法には,役員が第三者に対して負う責任についての規定があります。
この規定は,単独で使われることもありますが,他の制度や手続と組み合わせて使うケースも多いです。
本記事では,役員が第三者に対して負う責任について説明します。
なお,役員が会社に対して負う責任については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|取締役などの役員が会社に対して負う責任
2 役員の第三者に対する責任の規定
役員が第三者に対して負う責任を規定する会社法(や旧商法)の規定をまとめます。
<役員の第三者に対する責任の規定>
あ 対象となる役員
ア 取締役イ 会計参与ウ 監査役エ 執行役オ 会計監査人
い 責任発生の要件
ア 役員が職務を行うについて悪意or重過失があったイ 第三者に損害が生じたウ 『ア』と『イ』に相当因果関係がある
う 責任の内容
役員個人が『第三者=被害者』に対して損害賠償義務を負う
※会社法429条1項;旧商法266条の3
3 役員の第三者に対する責任の趣旨
役員の第三者に対する責任の規定の趣旨は,被害者を保護するため,ごく一般的な不法行為よりも主張・立証のハードルを低くしたというものです。
<役員の第三者に対する責任の趣旨>
被害者保護の趣旨がある
→被害者による主張・立証のハードルを下げる(後記※1)
※最高裁昭和44年11月26日;旧商法について
※奥島孝康ほか『新基本法コンメンタール会社法2』日本評論社p326
4 役員の第三者に対する責任の要件の解釈
役員が第三者に対して責任を負う要件のうち主要なものは悪意・重過失と任務懈怠です。
いずれも,解釈としては広めになっています。
前記の被害者保護の趣旨に基づいた解釈です。
<役員の第三者に対する責任の要件の解釈(※1)>
あ 悪意・重過失の解釈
『悪意・重過失』について
『加害』についての悪意・重過失ではない
『任務懈怠』についての悪意・重過失で足りる
※最高裁大法廷昭和44年11月26日
い 任務懈怠の解釈
『任務懈怠』について
法令に違反したことも含まれる
『法令』には『え』のものが含まれる
う 『法令』の内容
『ア・イ』の両方が含まれる
ア 取締役を対象とし,取締役の義務を一般的・個別的に定める法令イ 会社を対象とし,会社がその業務を行うに際して順守すべき法令
※最高裁平成12年7月7日;旧商法266条5号について
5 役員の第三者に対する責任の損害の範囲
役員が第三者に対して責任を負う場合には,賠償する損害の範囲が問題となります。
最高裁は責任の範囲を広めに解釈しています。
具体的には,直接損害と間接損害の両方について賠償責任を認めています。
<役員の第三者に対する責任の損害の範囲>
あ 基本的事項
相当因果関係のある損害が対象となる
直接損害(い)・間接損害(う)のいずれも責任の対象となる
い 直接損害
役員の任務懈怠の行為によって直接第三者に損害が生じた
う 間接損害
役員の任務懈怠の行為によって会社に損害が生じた
会社の損害発生によって第三者に損害が生じた
※最高裁昭和44年11月26日
6 他の役員の任務懈怠による代表取締役の責任
以上で説明した規定は一般的に取締役に対して適用されます。
この点,代表取締役は取締役のうちの1名です。
そこで当然,代表取締役についても前記の責任が適用されます。
ただし,権限が大きいという特徴の裏返しとして,責任も広めに認められます。
具体的には他の役員(取締役)の不正な行為によって生じた損害についても賠償責任が認められる傾向にあるのです。
<他の役員の任務懈怠による代表取締役の責任>
あ 代表取締役の立場
代表取締役は大きな職務権限を有する機関である
善管注意義務・忠実義務を負っている
※会社法330条,355条,旧商法254条3項,254条の3
い 他の役員の任務懈怠による責任
他の役員などの不正行為or任務懈怠を看過した場合
例;業務の一切を任せきりにし,業務執行に何ら注意しなかった
→代表取締役も悪意or重過失による任務懈怠に該当する
→第三者に対する責任が生じる
※最高裁昭和44年11月26日