【無効を理由とする抹消登記の可否と登記原因(無効や錯誤)】
1 無効を理由とする抹消登記の可否と登記原因
2 無効による所有権移転登記の抹消の登記原因
3 遺産分割の抹消と新たな遺産分割の移転登記
4 無効を理由とする抹消登記の登記原因証明情報
5 登記における無効という記録と事実認定の関係(参考)
1 無効を理由とする抹消登記の可否と登記原因
所有権登記を行った後,いろいろな理由でこれを抹消することがあります。
元となった法律行為などの登記原因に誤りがあって,有効ではなかったようなケースです。
本記事では,どのような抹消登記の申請ができるのか,また,登記原因がどのようなものになるのか,について説明します。
なお,登記手続でのこのような情報や記録は,訴訟や課税などの手続に大きな影響を与えることもあります(後記)。
2 無効による所有権移転登記の抹消の登記原因
無効を理由とする所有権移転登記の抹消登記の登記原因としてはいくつかの記載があり得ます。
当然,いずれも元の登記の登記原因(法律行為)が無効であったことを示すものです。
<無効による所有権移転登記の抹消の登記原因(※1)>
あ 最初の登記
所有権移転登記をした
登記原因となる法律行為が無効or不成立であった
い 抹消登記と登記原因
所有権移転登記の抹消をする際の登記原因について
→『売買無効』or『所有権移転無効』or『錯誤』とする
※『登記研究423号』テイハン1983年p126
3 遺産分割の抹消と新たな遺産分割の移転登記
遺産分割による所有権移転登記を抹消して,新たな遺産分割による所有権移転登記をすることができます。
要するに遺産分割のやり直しというケースです。
<遺産分割の抹消と新たな遺産分割の移転登記(※2)>
あ 最初の遺産分割による移転登記
遺産分割による相続(所有権移転)登記をした
遺産分割協議書を添付して登記申請がなされた
い 遺産分割のやり直し
相続人全員で新たに遺産分割協議書を調印した
う 最初の移転登記の抹消と新たな移転登記
『ア・イ』の登記(申請)ができる
ア 最初の移転登記(あ)の抹消登記イ 新たな遺産分割(い)による相続(所有権移転)登記
新たな遺産分割協議書(い)を添付して登記申請をする
※『登記研究451号』テイハン1985年p125,126
判例でも相続人全員で遺産分割を合意解除することが認められています。
詳しくはこちら|遺産分割が当初から無効とはならないケース(2重課税あり)
ただし,課税手続では,やり直しというよりも相続とは別の新たな取引として扱われることがあります。
詳しくはこちら|遺産分割のやり直しで2重の課税となることがある
4 無効を理由とする抹消登記の登記原因証明情報
以上のような抹消登記申請では,登記原因証明情報として,元の法律行為が無効であることを示す資料が必要になります。
要するに,無効となる具体的な理由が記載された書面を添付して登記申請をするのです。
<無効を理由とする抹消登記の登記原因証明情報>
無効を理由とする抹消登記申請(前記※1,※2)において
『無効』と記載された登記原因証明情報を提出する
→法務局に保管される
詳しくはこちら|不動産登記制度の意義と保管期間・開示される者
5 登記における無効という記録と事実認定の関係(参考)
一般的に,不動産登記は,別の手続での強い証拠として機能することがあります。
以上のようないったん行った登記の内容が無効であったというイレギュラーなケースでは特に後から証拠となることが多いでしょう。
関係者の間の訴訟もありますし,課税上の扱いで税務署や自治体との間で意見が食い違った場合の解決で登記の資料が使われることもよくあります。
<登記における無効という記録と事実認定の関係(参考)>
あ 登記原因の情報の取得
登記事項証明書に登記原因が記載されている
→誰でも取得できる
い 登記原因証明情報の取得
法務局に登記原因証明情報が保管されている
→利害関係者は閲覧することができる
詳しくはこちら|不動産登記制度の意義と保管期間・開示される者
う 事実認定との関係
『あ・い』の記録に『錯誤や無効』が記録されている場合
→取引が無効であったという証拠となる
=無効であったという事実認定につながる
必ず無効であったと認定されるわけではない
詳しくはこちら|私法の法律関係を前提として課税する(私法関係準拠主義)