【形式的競売における法定地上権の適用の有無】
1 形式的競売における法定地上権の適用の有無
担保権実行や強制執行による不動産の競売では、法定地上権が成立することがあります。
詳しくはこちら|法定地上権の基本的な成立要件
ところで、これら以外の競売として、形式的競売(形式競売)があります。典型的なものは共有物分割のうち換価分割となったケースで不動産を売却するというものです。
形式的競売では、法定地上権が成立するかどうかの解釈が統一されていません。本記事ではこれについて説明します。
2 法定地上権の成否が問題となる形式的競売の典型例
形式的競売によって法定地上権が成立するかどうかの問題が生じる典型的なケースをまとめておきます。
法定地上権の成否が問題となる形式的競売の典型例
あ 所有関係
建物 A・B共有→競売 土地 A単独所有
い 担保権実行・強制執行(前提)
競売が、担保権実行または強制執行であった場合
→民法388条または民事執行法81条(法定地上権)の規定が適用される
このケースでは法定地上権が成立する方向である
詳しくはこちら|共有と法定地上権の成否(全体像と共有者全員による抵当権設定)
う 形式的競売
競売が、形式的競売であった場合
民事執行法81条(法定地上権)の規定の適用(準用)について、肯定する見解と否定する見解がある
なお、抵当権が設定されているケースでは、法定地上権の規定の適用は認められます(後述)。以下の説明では、抵当権の設定がないことを前提とします。
3 法定地上権を定める条文規定(前提)
形式的競売で法定地上権が成立するかどうかの解釈では、条文の組み合わせが重要になります。まずは関係する条文を押さえておきます。
法定地上権を定める条文規定(前提)
あ 民法388条
(法定地上権)
第三百八十八条 土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。
い 民事執行法81条
(法定地上権)
第八十一条 土地及びその上にある建物が債務者の所有に属する場合において、その土地又は建物の差押えがあり、その売却により所有者を異にするに至つたときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合においては、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。
う 民事執行法188条
(不動産執行の規定の準用)
第百八十八条 第四十四条の規定は不動産担保権の実行について、前章第二節第一款第二目(第八十一条を除く。)の規定は担保不動産競売について、同款第三目の規定は担保不動産収益執行について準用する。
え 民事執行法195条
(留置権による競売及び民法、商法その他の法律の規定による換価のための競売)
第百九十五条 留置権による競売及び民法、商法その他の法律の規定による換価のための競売については、担保権の実行としての競売の例による。
4 条文の形式的な適用(文理解釈)
前記の法定地上権を定める条文の規定がどのようなケースに適用されるか、ということを条文の文言を前提として整理します。
担保権(抵当権)の実行については民法388条、債権回収のための差押(強制執行)については民事執行法81条の規定が適用され、いずれも法定地上権の規定が適用されます。
この点、形式的競売については担保権実行(そのもの)ではないので、民法388条の適用はありません。
そして、民事執行法195条で、担保権実行の規定が適用される(「例による」)ことになります。民事執行法188条が担保権実行の規定ですが、この条文は、民事執行法81条(法定地上権)の適用を否定しています。
結局、形式論(文理解釈)では、民法388条と民事執行法81条の2種類の法定地上権の規定のいずれもが適用されない結果となります。
条文の形式的な適用(文理解釈)
あ 法定地上権の規定が直接適用される範囲
民法388条は、抵当権の設定と実行があった場合に適用される
民事執行法81条は、(担保権実行以外=強制執行としての)差押と売却があった場合に適用される
い 形式的競売に適用される条文
形式的競売は担保権の実行の手続が流用される
※民事執行法195条
担保権の実行については民事執行法81条は適用されない
※民事執行法188条
5 平成3年東京高判・否定
実際に、共有物分割(換価分割)による形式的競売において、法定地上権が成立するかどうかを判断したケースが3つありますので、順に説明します。
平成3年東京高判は、まさに前述の形式論(文理解釈)だけで法定地上権を否定しました。
ただし、仮に法定地上権の規定を適用するとしても、事案内容(所有関係)が、建物YA共有、土地XA共有なので、(所有者要件を満たさないという理由で)法定地上権は成立しない結論となるものでした。
詳しくはこちら|共有と法定地上権の成否(全体像と共有者全員による抵当権設定)
どうせ法定地上権が成立しないのだから、条文の形式論を理由として否定しておいた(法定地上権の規定の適用の可能性を深く判断していない)、という印象も受けます。
平成3年東京高判・否定
あ 事案
建物→Y・A共有
土地→X・A共有→形式的競売(→買受人X)
い 判決(引用)
・・・本件土地の共有物分割方法として民法258条2項の規定によって行われたものである。
この規定による競売については、民事執行法195条、188条の規定により同法81条の法定地上権に関する規定の適用はなく、また、本件土地及び本件建物が抵当権の目的となっていないので、民法388条の適用を論じる余地もない。
したがって、第2の競売によっても控訴人のための法定地上権は成立しない。
※東京高判平成3年9月19日
う 事案の特殊性
(注29)前掲東京高判平成3・9・19の事案は、土地と建物の共有者の構成が異なる事案であり、肯定説によっても法定地上権の成立を認める余地がない事案であった。
※畠山新稿『土地の形式的競売においても法定地上権の成立を認める余地があるとされた事例』/『金融・商事判例1303号』2008年1月p13
え 文理解釈への疑問
第2の問題点は、共有物の現物分割不能のときの換価手続は形式競売ということで担保権の実行手続によることになるから、条文上の解釈としては、この通りであることは明らかであるが、従来この点が問題となったことはないようである。
形式競売は、一般的に担保権ではなく、任意の設定に基づくものでない点で、担保権のそれとは違うものがあり、法定地上権の成否について担保権の通り解してよいかは1つの問題といえる。
従来実体的にはこれでよいかはあまり検討されたことはないようであり(民事執行法188条が81条の準用を除外しているのは、民法388条によりカバーされていることが理由とされているが、形式競売はこれによりカバーされているとはいえないだろう)、本判決はこの点の論議を求める結果になろうか。
※『判例タイムズ781号』p231〜
6 平成6年最判・平成3年東京高判を是認
前述の平成3年東京高判は、その後最高裁で改めて判断がなされています。結果的には最高裁は原審(文理解釈)を是認しましたが、積極的な理由は示されていません。
これについて、判例解説は、法定地上権が成立すると土地に大きな負担が生じることを理由に、条文にはないケースで法定地上権を認めてはいけないと指摘しています。つまり、文理解釈にとどめることを積極的に支持しています。
山野目氏は、形式的競売は純粋に価値を変換するだけを目的とするものであり、これと、法定地上権の成立による土地の価値の下落は整合しない、と指摘し、法定地上権を否定する判決に賛成しています。
平成6年最判・平成3年東京高判を是認
あ 判決(引用)
(共有物分割による換価分割による競売について)
同第一点の二について
原審の適法に確定した事実関係の下において、所論の点に関する原審の判断は正当として是認することができる。
原判決に所論の違法はない。
論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。
※最判平成6年4月7日
い 判例解説
ア 判決の結論
(注四)・・・
第二の競売による法定地上権の成否について、概略を説明しておく。
・・・
(三)本判決は、上告理由第二点については、原判決を正当として是認した。
イ 文理解釈(規定・根拠の不存在)
(四)第二審判決以前には、共有物分割のための競売によって法定地上権が成立するかどうかについての判例、下級審裁判例は見当たらない。
しかし、共有物分割のための競売は、担保権の実行としての競売の例によるのであるが(民事執行法一九五条)、担保権実行としての不動産競売については、不動産強制競売の規定が準用されるものの、法定地上権についての同法八一条の規定は準用されていない(同法一八八条)。
このように、民事執行法の規定上、共有物分割としての競売によって法定地上権が成立することを認める根拠はない。
ウ 規定の不存在の重視
法律の規定がないのに、法定地上権のような強力な権利の発生を認めることは相当でない。
民事執行法の制定前には、強制競売の場合にも、法定地上権の成立を認めるべきであるという学説もあったが、判例は、抵当権が設定されているときに限っては、法定地上権が成立することを認めたが、強制競売一般に法定地上権が成立することを認めず、結局、立法によって問題が解決されている。
これと対比しても、法律の規定もないのに、共有物分割のための競売について法定地上権の成立することを認めることは困難である。
・・・
エ まとめ
本判決が、原判決を是認したのは、以上のような考慮の結果ではないかと推測される。
※水上敏稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成6年度』法曹会1997年p290〜292
う 山野目氏評釈
ア 判決の結論
本件上告審において附随的に争点とされたこととして、民法258条2項により命ぜられた競売に民事執行法81条の適用があるか、という論点があり、本件上告審判決は、これを消極に解した原判決を支持した。
イ 文理解釈
この競売は、民事執行法195条に基づく形式競売であり、同法188条括弧書により、そこでは法定地上権は成立しないと解される。
ウ 実質的理由
競売により法定地上権が成立するというのでは土地の交換価値が減ずる結果となり、「目的財産の価値的変換だけを目的と」する上記競売の趣旨(中野貞一郎『民事執行法〔増補新訂6版〕』[2010]773頁)に適合しない。
エ 結果の妥当性の実現手段(用益権設定による分割)
むしろ問題は、競売前の民法258条の運用問題として処理すべきである。
土地を丙と乙、建物を甲と乙が共有する場合の丙からの分割請求では、土地を丙の単独所有とし、ただし建物の状況に応じた存続期間の借地権(なお借地借家22条以下)を乙に与える方法も、広い意味での現物分割として許されてよい。
詳しくはこちら|共有物分割における用益権設定による分割(現物分割の一種)
そして、甲・乙間に土地の転貸借などが有効に成立すれば事態は終局的に解決し、成立しなければ建物の共有物分割に問題が移ることになる。
※山野目章夫稿『土地と建物の両方が共有である場合と法定地上権の成否』/『民事執行・保全判例百選 第2版』2012年3月p77
7 平成13年名古屋高金沢支判(否定・実質的理由あり)
2つ目の裁判例は、平成13年名古屋高裁金沢支部のものです。結論は同じく、法定地上権を否定するものですが、文理解釈だけでなく、実質的な理由が示されています。それは、(競売ではなく)共有者全員が任意の取引として第三者に売却することと同じく扱う、という考え方です。任意の売却であれば当然、法定地上権が成立することはあり得ません。形式的競売もこれと同じ、という判断です。
平成13年名古屋高金沢支判(否定・実質的理由あり)
あ 事案
建物→X単独所有
土地→X・B・C・D・E・F共有→形式的競売
い 判決(引用)
ア 抵当権の存在(参考)
(3) 以上の事実及び当事者間に争いのない抗弁(1)、(2)の事実によれば、本件土地に本件抵当権が設定された昭和44年6月9日当時、本件土地上には、Aと控訴人が実質的に共有する本件建物が存在していたと認められるから、仮に本件抵当権が実行されれば、本件建物のために本件土地上に法定地上権が成立する要件が備わっていたということができる。
イ 結論(法定地上権否定)
(4) しかし、本件においては、法定地上権の成立を認めることはできない。
その理由は、次のとおりである。
ウ 形式的理由
本件土地に対して実施された競売は、民法258条の規定に基づく換価のための競売(いわゆる形式競売)であるから、民事執行法81条の規定の法定地上権が成立する余地はない(同法195条、188条)。
そこで、民法388条の定める法定地上権の成立の有無について検討するのに、本件の競売は、抵当権の実行によって開始されたものではなく、本件土地の共有者の間でその分割について合意の形成が得られなかったために、裁判所が民法258条により競売を命じ、その命じる判決に基づいてなされたものである。
エ 実質的理由(任意処分(売却)との同質性)
要するに、担保権者や一般債権者の債権の強制的な満足の実現のためではなく、もっぱら共有関係の解消と共有者の利害の調整の手段として行われたものである。
この点からすると、本件土地の競売は、たとえ共有者の意思に反する面があったとしても、その本質において、任意の売却処分と何ら異なるものではない。
したがって、本件のようないわゆる形式競売において、当該物件に設定されている抵当権などの担保権が必然的に抹消される訳ではない。
競売裁判所は、担保権が付着したまま売却することもできるし、被担保債権を弁済して担保権を抹消する方法によって売却することも可能である。
これは、所有者が不動産を任意に売却する際、そのいずれの方法を選択するか自由であるのと同じである。
本件においては、本件抵当権は競売によって消滅しているが、それは、競売裁判所が競売を機会にその被担保債務を弁済するという方法を採用したに過ぎず、決して本件抵当権がその権利者の意思によって強制的に実現された結果ではない。
オ 抵当権消滅との関係(否定)
そうすると、本件土地の競売によって本件抵当権が消滅したからといっても、それは、競売に際し被担保債権が任意に弁済されたことによるものであるから、たとえ本件抵当権設定当時、本件土地につき法定地上権成立の要件が具備されていたとしても、法定地上権発生の根拠は失われたものというべきである。
控訴人の立場からすると、本件抵当権が実行されれば法定地上権の成立が保障されていたにもかかわらず、形式競売が実施されたことにより、その期待権が失われることは不当であるというかもしれないが、そもそも債務者が抵当債務を完済すれば、法定地上権の成立する余地はなくなるのであるから、上記のような法定地上権の期待権は、当然に保護しなければならないものではない。
※名古屋高金沢支判平成13年12月26日
8 平成19年福岡高判・否定
最後の裁判例は平成19年福岡高裁のものです。これは、文理解釈だけを理由としていて、実質的な理由は示されていません。
平成19年福岡高判・否定
あ 事案
建物→B単独所有
土地→B・C・D・E・F共有→形式的競売
い 判決(引用)
・・・そもそも、本件は、抵当権の実行としての競売の場合ではなく、共有物分割のための形式競売である。
そうすると、本件において、民法388条の規定する法定地上権が発生する余地はないものというべきである。
※福岡高判平成19年3月27日
う 理由の欠如
(平成19年福岡高判について)
形式競売は本来民事執行とは異質であって、文理的には直ちに首肯しがたい面があり、本判決は、理由は示さなかったが、これを消極に解したものである。
※『判例タイムズ1250号』p335〜
9 判断の前提部分で法定地上権を否定する裁判例
法定地上権の成否(適用の有無)そのものとは別の判断をする前提として、法定地上権の成否を判断することもあります。主に、全面的価格賠償を選択する事情(相当性)の1つとする、という場面です。所有関係からは(通常の競売であれば)法定地上権が成立する事案で、民事執行法81条の適用がないという理由で法定地上権を否定した裁判例があります。要するに文理解釈を採用したといえます。
判断の前提部分で法定地上権を否定する裁判例
あ 所有関係
建物→X・Y共有→共有物分割
土地→X単独所有
い 判決
・・・本件建物の競売をした場合に、法定地上権が発生するものとは解されないから(民事執行法81条の適用はない。)、土地利用権があるかどうか問題となり、価格が低下することが予測されること、・・・本件建物を共有者のうちの特定の者である原告に取得させるのが相当であると認められる。
※東京地判平成17年10月19日
10 民事執行法188条が81条を除外する趣旨
以上のように、公刊された裁判例はいずれも形式的競売では法定地上権は成立しない(適用しない)という見解を採用しましたが、裁判例が示す理由のうち大きなものは、文理解釈(条文の形式的適用)です。
具体的には、民事執行法188条がカッコ書で民事執行法81条を除外しているところです。では、カッコ書きによる除外の趣旨はどんなものでしょう。
それは、除外しないと担保権実行について民法388条と民事執行法81条が重複して適用されてしまう(ので重複適用を避ける)というものです。
違う言い方をすると、民事執行法188条は、形式的競売に法定地上権の規定が適用されることを意図的に避けたわけではないと考えられます(後述)。
民事執行法188条が81条を除外する趣旨(※1)
あ 注解民事執行法
(民事執行法188条について)
前条までの特別規定を除き、不動産に関する強制競売と担保権実行による競売とは可及的に歩調を合わせるというのが民事執行法の立場であり、本条は準用という形でそれを端的に表明するものである。すなわち、準用されるのは44条から92条に及び、不動産に関する強制競売すべてをおおうのである(81条が除外されているが、それは81条の定める法定地上権が競売においては民法388条で既に規定されているいるからであり、実質上は除外されていないということができる。)。本条に対応し、民事執行規則でも173条1項により民事執行規則第2章第2節第1款第1目が全面的に準用となっている(ただし、競売では債務名義がないので、それに関する部分の準用はない。)。
以上により旧競売法の規定の不備は一挙に埋められることになったが、本法で特に注目すべき点は剰余主義の採用と配当要求の許容であろう。
※鈴木忠一ほか編『注解 民事執行法(5)』第一法規出版1985年p287、288
い 条解民事執行法
(民事執行法188条について)
本条はかっこ書において、不動産強制競売の規定のうち、81条のみ準用を排除している。
これは、担保不動産競売においては目的不動産には担保権が設定されているため、民法の法定地上権の規定(388)の適用のみが問題になるからである。
※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法 第2版』弘文堂2022年p1743
11 条解民事執行法の見解(肯定方向)
少なくとも法定地上権を否定する文理解釈については、反対する見解も多いです。
まず条解民事執行法は、文理解釈により法定地上権を否定するという見解は採用していません。つまり、法定地上権の規定の準用は可能である、という見解です。
条解民事執行法の見解(肯定方向)
あ 民事執行法188条の趣旨(前提)
法定地上権の成否に関しては、担保不動産競売の場合は、目的不動産に担保権が存在することが前提となるため、81条の規定の適用の余地がないことから、同規定は準用されない(188参照)。
い 民事執行法81条の準用(肯定)
しかし、形式的競売の場合は、目的不動産に担保権が存在することは前提とならないため、81条の規定も準用されうる。
う 平成3年東京高判の批判
40)東京高判平3・9・19民集48-3-915は、形式的競売に本法上の法定地上権の規定の準用はないと判示しているが、賛成することができない
(なお、上告審である最判平6・4・7民集48-3-889もこの判決を是認しているが、この点についての判断は示していない)。
※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法 第2版』弘文堂2022年p1809、1810
12 民事執行の実務(5版)の見解(肯定方向)
民事執行の実務(文献)の第5版(2022年)は、文理解釈では法定地上権の適用が否定される、ということを前提として、法定地上権を成立させることも可能であるという見解を示しています。
民事執行の実務(5版)の見解(肯定方向)
あ 文理解釈
目的物に抵当権が設定されていないときは、担保不動産競売について法188条が法81条の準用を排除していることからすれば、法81条による法定地上権が成立しないことを前提に売却条件を定める取扱いが考えられる。
い 法定地上権肯定の可能性
事案によって、
(ア)建物の存立という社会経済上の要請、
(イ)買受人保護の要請、
(ウ)土地建物共有者の利益ないし主観的意思
などを考慮し、法定地上権の成立を認めるという考え方もあり得る。
※中村さとみほか編著『民事執行の実務 不動産執行編(下)第5版』きんざい2022年p441
13 民事執行の実務(2版)の見解(肯定方向・実例)
民事執行の実務の過去の第2版(2007年)では、(第5版と同じ見解を示すとともに)東京地裁の実際の扱いとして、形式的競売で法定地上権を成立させた実例がある、ということを指摘しています。裁判例としての判断ではなく、競売手続における売却条件として法定地上権が成立すると定めた実例がある、ということです。
民事執行の実務(2版)の見解(肯定方向・実例)(※2)
あ 見解(肯定)
・・・一般的に、共有物分割のための形式的競売にも同条(注・民事執行法81条)の準用があるとして差し支えないと考えられる。
い 実務での売却条件の実績
東京地裁民事執行センターにおいては、確立した取扱いとまではいい難いが、売却条件として法定地上権を成立させた例が複数ある。
う 一括売却における売却条件の位置づけ(参考)
なお、土地建物の一括売却の場合、現実の利用権としての法定地上権は問題とならないが、評価上の法定地上権はやはり問題となり、土地建物の一方の売却の場合と同様に、抵当権の存否に応じて、民法388条又は法81条(準用)による法定地上権の成立を考えてよいと思われる。
※東京地方裁判所民事執行センター実務研究会編著『民事執行の実務 不動産執行編(上)第2版』金融財政事情研究会2007年p359
14 千葉地裁の実例(肯定方向)
さらに、千葉地裁でも、競売手続において、法定地上権が成立するという売却条件を定めた実例があるという指摘があります。
千葉地裁の実例(肯定方向)
※畠山新稿『土地の形式的競売においても法定地上権の成立を認める余地があるとされた事例』/『金融・商事判例1303号』2008年1月p13
15 裁判所書記官研修所文献の見解(肯定方向)
裁判所書記官研修所が監修している文献も、形式的競売において法定地上権が成立することを許容する見解を採用しています。
裁判所書記官研修所文献の見解(肯定方向)
・・・
しかし、建物保護という法定地上権制度の趣旨、更に形式的競売は、担保権実行としての競売手続の「例による」というだけで、必ずしも、すべてにおいて担保権実行としての競売手続によらねばならないと解する必然性はなく、同条(注・民事執行法81条)を準用しても不当ではないことから、法定地上権が成立すると解する余地も考えられる。
※裁判所書記官研修所監『不動産執行事件等における物件明細書の作成に関する研究』司法協会1994年p490
16 畠山新氏見解(メイン・肯定)
畠山新氏は、前述の平成19年福岡高判について説明(評釈)しています。まず、文理解釈だけによる判断には賛同しません。そして否定する見解の実質的な2つの理由、つまり、条文がないこと、価値的変換だけが目的であることに対して、反論しています。
結論として、形式的競売でも法定地上権の規定が適用される(方向性の)見解を示しています。
畠山新氏見解(メイン・肯定)
あ 文理解釈(前提)
(平成19年福岡高判について)
本判決の射程は、抵当権設定のない共有にかかる土地・建物の一方または双方に対し、形式的競売の申立てがなされ、土地・建物が別異の買受人に競落された場合、法定地上権は成立するか、というもう一つの問題に対してはどのように及ぶであろうか。
この問題についても、まず条文の文理が取り上げられるが、前同様、決め手とはいえない。
すなわち、前掲名古屋高金沢支判平成13・12・26および東京高判平成3・9・19本誌993号23頁は、いずれも民事執行法195条、188条を形式的に援用し、同法81条の準用がないからこれによる法定地上権の成立の余地はないとした。
い 文理解釈への批判
しかし、前記指導的な学説の多くは、上記188条が81条を準用しなかったのは、別途民法388条が設けられているからに過ぎず、前述した「例による」との規定ぶりからも合目的的な解釈がなされるべきであるとして、これに批判的である。
旧競売法下においてもこのような解釈姿勢は許容されていた。
したがって、ここでも、実質論が結論を分けるということになる。
う 否定説への反論
ア 否定説の理由(前提)
否定説の論拠としては、
①「法律の規定がないのに、法定地上権のような強力な権利の発生を認めることは相当でない」
とし、民事執行法施行前、判例が強制競売について、前記のように抵当権設定がある場合には、法定地上権成立を認めていたが、抵当権設定がない場合には、頑なに法定地上権成立を否定していたことを挙げるもの、
②土地の交換価値が減ずる結果となり、目的財産の価値的変換だけを目的とする形式的競売の趣旨に適合しないとするもの、
が見られる。
イ 反論
しかしながら、まず
①については、確かに一般論としては、担保権実行競売よりも強制競売の方が、当事者の抵当権設定の意思が介在しないために、より法定地上権成立の要件は厳格になることは否定できないが、判例の前記のような姿勢に対して、国税徴収法127条や民事執行法81条、これを承けた立木法5条2項などが相次いで新設され、競売においては、法定地上権の成立を広く認めるのが現在の法の姿勢と考えられること、建物存立保護という社会的要請は、民法388条と民事執行法81条とで変わるところがないことから、肯定説を覆すに足りる論拠とはいえない。
次に
②については、価値的変換といっても、それが土地利用権を考慮しないものとは一概に言い得ず、例えば建物の形式的競売をとってみればむしろ共有権者に有利なのであるから、一義的に否定説の論拠となりうるものではない。
現在の実務で最も良く見られる、土地建物双方が同一の共有者の共有であり、全体が形式的競売に付された場合、または、土地所有者が地上建物の共有者の一人であり建物が形式的競売に付された場合、においては、建物の存立を確保できる肯定説が最も適合するといえる。
上記②の見解が懸念する問題が露呈するのは、土地のみが共有の場合であるが、この場合は、別途な解決が図られるべきであり、次に検討する。
本判決によって、この論点に関する肯定説もまた、大きく推進されたものと考える。
※畠山新稿『土地の形式的競売においても法定地上権の成立を認める余地があるとされた事例』/『金融・商事判例1303号』2008年1月p10、11
17 畠山新氏見解(判例へのコメント)
さらに、畠山新氏は、3つの裁判例と平成6年最判についてコメントしています。3つの裁判例の事例はいずれも土地の競売だったので、解釈が法定地上権を否定する方向性は望ましいが、建物の競売にはそのまま当てはまらないと指摘しています。
さらに、平成6年最判は、例文にすぎない、つまり、実質的な判断をしていないというような指摘をしています。
畠山新氏見解(判例へのコメント)
あ 裁判例(3件)への評釈
形式的競売について法定地上権の成立を否定した公刊された3つの判決は、いずれも、土地が共有の場合にかかわるものであった。
法定地上権による土地の価値の減損を認めると、共有物分割の円滑な進行に水を差し、地上建物の所有者のみが利することにもなってしまうから、上記各判決の結論は妥当である。
しかし、同じ結論は、上記のように「容認」を厳格に解することでも導きうるのであり、本判決のとったような構成が最も望ましいものといえる。
前記した土地・建物全体が共有の場合、或いは、土地が単独所有で建物が共有の場合は、問題の位相を全く異にするのであり、このような場合に法定地上権の成立を否定することは、形式的競売の機能を損ね、ひいては共有物分割の解決の芽を摘むことにもなりかねないであろう。
※畠山新稿『土地の形式的競売においても法定地上権の成立を認める余地があるとされた事例』/『金融・商事判例1303号』2008年1月p12
い 平成6年最判へのコメント
(注9)後者の上告審である最一判平成6・4・7民集48巻3号889頁、本誌993号17頁は、例文により上告を棄却した。
※畠山新稿『土地の形式的競売においても法定地上権の成立を認める余地があるとされた事例』/『金融・商事判例1303号』2008年1月p13
18 形式的競売に民事執行法の準用を広く認める見解(参考)
前述の畠山新氏の見解の中で、形式的競売に関する解釈の方向性として、民事執行法の規定の準用を広く認める傾向が指摘されています。
この傾向の中身の1つとして、民事執行法がまだなかった古い時代から、形式的競売は、原則として担保権実行の規定を適用し、その規定で足りないところがあれば、強制執行の規定を準用するという根本的な方針がありました。これが、現在の(法定地上権を肯定する)前述の解釈につながっています。
形式的競売に民事執行法の準用を広く認める見解(参考)
あ 担保権実行に強制執行の規定の準用を広く認める見解(前提)
担保権の実行は非訟事件である点で、強制執行と性質を同じくし、すでに競売法も不動産競売について強制競売の規定を多数準用しており、競売機関も強制執行の場合と同一であり、競売手続も強制執行手続に近似しているので、競売法の不備を強制執行法の類推適用によって補うことは理論上なんら妨げないわけである。
・・・
い 形式的競売に強制執行の規定の準用を広く認める見解
形式的競売すなわち、民法または商法の定めるところに従って目的物の価格保存その他の目的のためにする物の換価の場合は、責任の実現ということは全くないのであり、もとより法的紛争を対象とするものではないから、非訟事件に属することは明らかである。
この手続も換価の手続であるから、担保権の実行の手続、従ってその不備の場合は強制執行法の規定が準用される。
※齋藤秀夫ほか著『法律学全集39 競売法 会社更生法 増補版』有斐閣1975年p29、30
19 形式的競売への国税の交付要求の適用(参考)
テーマは変わりますが、裁判所の競売手続における国税の交付要求は、国税徴収法の条文上は、強制執行と担保権実行だけが対象となっています。しかし、実務では、形式的競売も含める解釈が一般的です。解釈の中身は、民事執行法195条を、形式的競売と担保権実行を同じように扱うというように、大雑把に読み取ることで、租税法律主義に反しない、ということにしています。
詳しくはこちら|国税による交付要求(裁判所の競売手続への参加)
文言だけの形式的適用(文理解釈)では不合理となる場合には合理性を維持するための解釈を優先する、という方針がとられているといえるでしょう。
このような解釈の方針は、形式的競売に法定地上権の制度が適用される(肯定説)につながります。
20 「容認」による法定地上権成立の可能性
一般的な法定地上権に関する解釈(判例)の中に、(競売の対象物の)所有者(共有者)の「容認」によって法定地上権の成立を認める、というものがあります。
この容認による法定地上権の成立については形式的競売であっても同じようにあてはまる、という指摘をする裁判例があります。この見解は、形式的競売における法定地上権を認めることと整合するでしょう。
「容認」による法定地上権成立の可能性
あ 「容認」による法定地上権成立の理論(前提)
一般的な競売において、所有者(共有者)が法定地上権の成立を「容認」していたことにより、法定地上権の成立を認める理論がある
詳しくはこちら|共有者の『容認』による例外的な法定地上権の成立とその判断基準
い 形式的競売への「容認」理論適用(肯定)
(共有物分割による形式的競売について)
L以外の本件土地の共有者らが法定地上権の発生をあらかじめ容認していたと見ることができるような特段の事情がある場合には、例外としてこれを認める余地もないではない(その場合には、抵当権の実行としての競売であるか、形式競売であるかを問わない)
※福岡高判平成19年3月27日
21 形式的競売の後の意思解釈による利用権原(概要)
前述の平成3年東京高判は、法定地上権の成立を否定しましたが、それとは別の土地利用権原を認める、ということを示しています。ただし、土地の明渡請求を否定する、というような具体的な法的効果に結びつけたわけではなく、いわゆる傍論です。
いずれにしても、この利用権原(土地占有権原)の内容は示されていません。むしろ、利用権原を認めることはできない(根拠がない)と思われます。
詳しくはこちら|共有物分割完了後の占有権原(合意・債権関係の消滅)
22 抵当権のある不動産の形式的競売における法定地上権
以上の説明は抵当権がないケースを前提としていました。
この点、形式的競売の対象となる不動産に抵当権の負担がある場合には、競売手続の際の扱いに解釈論がありますが、担保権者への配当をして担保権を消滅させる(消除主義)がとられるのが一般です。
詳しくはこちら|形式的競売の担保権処理は引受主義より消除主義が主流である
この場合、抵当権について、民法388条の要件を満たせば、法定地上権が成立します。このことについては実務での見解は統一されていると言えるでしょう。
抵当権のある不動産の形式的競売における法定地上権
あ 抵当権ありのケースの法定地上権
目的物に抵当権が設定されているときは、最先抵当権が設定された時点で民法388条の法定地上権の成立要件を満たせば、通常の強制競売や担保不動産競売と同様に法定地上権は成立すると解される。
※中村さとみほか編著『民事執行の実務 不動産執行編(下)第5版』きんざい2022年p441
い 抵当権ありのケースの強制執行における法定地上権(参考)
ア 民法の法定地上権の適用
抵当権が設定されている不動産を対象とする強制執行において
(民事執行法81条ではなく)民法388条の法定地上権の規定が適用される
イ 判断基準時点
最先順位の抵当権が設定された時点を基準として(民法388条の法定地上権の成立要件を)判定する
詳しくはこちら|実行していない先行抵当権を基準として法定地上権の成否を判断する
う 補足
この解釈は担保権の扱いについて消除主義をとることを前提としている
例外的に引受主義をとった場合には法定地上権の規定は適用されないはずである
23 法定地上権の成否と全面的価格賠償の要件の関係(参考)
ところで、法定地上権が成立しない場合には通常、建物の収去をせざるを得ないことになります。そのようなケースでは、他の分割類型を選択する合理性が上がります。具体的には、仮に形式的競売となった場合に法定地上権が成立しないことが、全面的価格賠償の相当性の1つの要素となっている、といえます。
詳しくはこちら|全面的価格賠償の相当性が認められる典型的な事情
本記事では、形式的競売において法定地上権の適用があるかどうか(成立するかどうか)について説明しました。
実際には、主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることもあります。
共有不動産の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。