【実行していない先行抵当権を基準として法定地上権の成否を判断する】
1 実行していない抵当権と法定地上権の判断基準時点
不動産の競売を申し立てた者以外の抵当権が対象不動産に設定されていることもあります。実行していない抵当権が既に存在するという状況です。
このようなケースでは、どの時点を基準にして法定地上権の成立を判断するかが1つに定まらないといえます。
本記事では、実行していない先行抵当権があるケースでの法定地上権の判断について説明します。
2 法定地上権の成立要件(概要)
まず最初に、一般的な法定地上権の成立要件を確認しておきます。
法定地上権の成立要件(概要)
あ 法定地上権の成立
『い・う』の両方に該当する場合
→法定地上権が成立する
い 所有者要件(土地・建物の同一所有)
『ア・イ』の時点で土地・建物の所有者が同一であった
ア 抵当権実行について→抵当権設定時点イ 強制競売(一般債権による競売)→差押時点
う 競売による所有者の食い違い
競売の結果、土地・建物の所有者が異なるに至った
※民法388条
※民事執行法81条
詳しくはこちら|法定地上権の基本的な成立要件
3 一般債権の競売でも法定地上権は抵当権が基準
抵当権者ではない一般債権者が不動産の強制競売を申し立てるケースがあります。
このような競売手続や、あるいは公売の手続において、既に抵当権が設定されている場合には、この抵当権を基準にして法定地上権の判断をします。
要するに、抵当権者が把握・想定している価値を保護(維持)する趣旨です。
抵当権者以外による競売と法定地上権(原則)
あ 先行する抵当権設定(※1)
不動産に抵当権が設定された
この時点での法定地上権の成立要件は満たされていた
い 強制競売または公売(※2)
『ア・イ・ウ』のいずれかが行われた
ア 抵当権者以外の一般債権者が強制執行をしたイ 抵当権者が債務名義に基づいて強制執行をしたウ 公売がなされた
う 法定地上権の成否
土地と建物の所有者が異なるに至った場合
→民法388条により法定地上権が成立する
※大判大正3年4月14日
※最高裁昭和37年9月4日
※森田修編『新注釈民法(7)物権(4)』有斐閣2019年p194、195
※柚木馨ほか編『新版 注釈民法(9)物権(4)改訂版』有斐閣2015年p387
※柚木馨ほか編『新版 注釈民法(9)物権(4)』有斐閣1998年p576、577
お 民法388条と民事執行法81条の関係
民事執行法81条(・国税徴収法127条)の規定は民法388条の補充規定であり、民法により法定地上権が成立するとされる場合には適用されない
※田中康久『新民事執行法の解説 増補改訂版』金融財政事情研究会1980年p159
※浦野雄幸『逐条解説民事執行法 全訂版』商事法務研究会1981年p178
4 一般債権の競売の法定地上権の抵当権基準の例外
一般債権者の強制競売申立では、既に設定されている抵当権の設定時点を基準に法定地上権の成立要件を判断します(前記)。
しかし、競売手続の最後の売却の時点までに、先行する抵当権が消滅すると、判断の基準時点は変わります。
既に先行する抵当権者への配慮は不要なので、原則に戻って、差押時点を基準に判断することになります。
抵当権者以外による競売と法定地上権(例外)
あ 先行する抵当権設定
土地or建物に抵当権が設定された(前記※1)
この時点での法定地上権の成立要件は満たされていた
い 抵当権者以外による競売
抵当権者以外により競売申立or公売がなされた(前記※2)
う 差押時の所有者の食い違い
差押の時点において
土地と建物の所有者が異なっていた
=約定土地利用権の設定がなされているはずである
え 抵当権消滅
売却までに抵当権が消滅した
お 法定地上権の成否
民法388条によっても法定地上権の成立は認められない
か 考え方
先行する抵当権が既に消滅しているので
この抵当権を基準として判断することにはならない
※大判昭和9年2月28日;同趣旨
※柚木馨ほか編『新版注釈民法(9)物権(4)改訂版』有斐閣2015年p387
5 複数の抵当権があるケース
(1)建物に複数抵当権→いずれかが「成立」であれば成立
複数の抵当権が設定されているケースもよくあります。この場合、所有者要件を満たすかどうかが、どの抵当権を基準とするかで違ってくることがあります。
結論としては、いずれか1つの抵当権を基準とすると成立するならば結論として法定地上権は成立する、ということになります。
建物に複数抵当権→いずれかが「成立」であれば成立
あ 昭和14年大判
(要旨)
建物に抵当権設定せられた当時宅地建物が抵当債務者の所有に属した以上、競売が他の抵当権者即未だ宅地が右債務者の所有に属しない当時設定せられた抵当権者の申立に因った場合と雖も本条(注・民法388条)を適用すべく、競売当時土地と建物とが其の所有者を異にするに至りたる場合と雖も本条の適用を左右するに足りない。
※大判昭和14年7月26日
※最判平成2年1月22日(傍論として同内容)
※名古屋高裁平成7年5月30日(同内容)
い 事案の単純化
ア 第1抵当権の設定
第1抵当権が設定された
この時点での法定地上権の成立要件は満たされていた
イ 第2抵当権の設定
第2抵当権が設定された
この時点での法定地上権の成立要件は満たされていなかった
ウ 結論
第1抵当権または第2抵当権が実行された場合
→法定地上権は成立する
(2)土地に複数抵当権→1番抵当権基準で判断
土地に複数の抵当権が設定されている場合は、前述(建物のケース)とは判断基準が違います。少なくとも、1番抵当権を基準にすれば成立しないのであれば、2番抵当権基準だと成立する場合でも、結論は成立しないになります。1番抵当権者の把握する担保価値を、その後の事情で否定するわけにはいかない、という考え方です。
土地に複数抵当権→1番抵当権基準で判断
あ 結論→否定
・・・土地について一番抵当権が設定された当時土地と地上建物の所有者が異なり、法定地上権成立の要件が充足されていなかった場合には、土地と地上建物を同一人が所有するに至った後に後順位抵当権が設定されたとしても、その後に抵当権が実行され、土地が競落されたことにより一番抵当権が消滅するときには、地上建物のための法定地上権は成立しないものと解するのが相当である。
い 理由
ア 1番抵当権者の把握する担保価値に着目
けだし、民法三八八条は、同一人の所有に属する土地及びその地上建物のいずれか又は双方に設定された抵当権が実行され、土地と建物の所有者を異にするに至った場合、土地について建物のための用益権がないことにより建物の維持存続が不可能となることによる社会経済上の損失を防止するため、地上建物のために地上権が設定されたものとみなすことにより地上建物の存続を図ろうとするものであるが、土地について一番抵当権が設定された当時土地と地上建物の所有者が異なり、法定地上権成立の要件が充足されていない場合には、一番抵当権者は、法定地上権の負担のないものとして、土地の担保価値を把握するのであるから、後に土地と地上建物が同一人に帰属し、後順位抵当権が設定されたことによって法定地上権が成立するものとすると、一番抵当権者が把握した担保価値を損なわせることになるからである。
イ 昭和14年最判→建物なので違う
なお、原判決引用の判例(大審院昭和一三年(オ)第二一八七号同一四年七月二六日判決・民集一八巻七七二頁、最高裁昭和五三年(オ)第五三三号同年九月二九日第二小法廷判決・民集三二巻一二一〇頁)は、いずれも建物について設定された抵当権が実行された場合に、建物競落人が法定地上権を取得することを認めたものであり、建物についてはこのように解したとしても一番抵当権者が把握した担保価値を損なわせることにはならないから、土地の場合をこれと同視することはできない。
※最判平成2年1月22日
6 土地の強制競売における建物の抵当権の影響
以上の説明は、担保権設定のある不動産について、他の担保権の実行や強制執行(や公売)がなされたというケースの扱いです。
この点、土地について強制競売(や公売)がなされた時に、建物に抵当権が設定されているとしても、これは当該競売手続で法定地上権が成立するかどうかの判定に影響しません。もちろん、土地と建物が逆になっても同じです。
土地の強制競売における建物の抵当権の影響
あ 一般的見解
土地と建物のうち、抵当権の設定されていない方の不動産について強制執行が行われた場合は、民事執行法81条が適用される
※森田修編『新注釈民法(7)物権(4)』有斐閣2019年p194、195
い 具体的扱い
当該強制執行の差押の時点を基準として、法定地上権の成否を判断する
7 関連テーマ
(1)抵当権がある不動産を対象とする形式的競売における法定地上権(概要)
形式的競売の場合も法定地上権のルールが適用される傾向がありますが、一応否定する見解もあります。
否定説の立場をとったとしても、対象不動産に抵当権が設定されている場合には、法定地上権が適用されるのが一般的見解です。
詳しくはこちら|形式的競売における法定地上権の適用の有無
本記事では、最先順位の抵当権の実行以外による競売がなされた時に法定地上権はどのように扱われるかを説明しました。
実際には、個別的な事情によって結論が違ってくることもあります。
実際に抵当権(担保権)や競売に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。